歴代の芥川賞まとめ!受賞作品からおすすめ20作品を厳選紹介!

直木三十五賞と並び、日本でも最も有名な文学賞の一つ「芥川龍之介賞」。通称”芥川賞“。1935年の創設から今日まで、170回を超える歴史のある賞としても有名です。

この記事では、そんな芥川賞受賞作品からオススメ作品を20冊紹介していきます。

こんな方々におすすめです。

・過去の芥川賞受賞作品を知りたい!
・優れた純文学作品を読んでみたい!

なお20作品に限定しておりますが、これはあくまで私のお気に入りや、思い入れの強い作品を厳選しております。ここで紹介している/していないが作品の優劣を判断するものではありませんので、予めご了承ください。

またここに紹介する作品の大部分が電子書籍で読むことが可能です。もちろん紙には紙の良さがありますが、安く買えたり場所を取らなかったりと電子書籍のメリットもあります。是非平行してご利用ください。

読みたい作品がきっと見つかる!おすすめの芥川賞受賞作品20選!!

今回は最近のものから作品を紹介していきます。

是非最後まで読んでいただけると幸いです。

・第170回:『東京都同情塔』/九段理江

ザハの国立競技場が完成し、寛容論が浸透したもう一つの日本で、新しい刑務所「シンパシータワートーキョー」が建てられることに。犯罪者に寛容になれない建築家・牧名沙羅は、仕事と信条の乖離に苦悩しながらパワフルに未来を追求する。ゆるふわな言葉と、実のない正義の関係を豊かなフロウで暴く、生成AI時代の預言の書。
「BOOK」データベースより引用

犯罪者に寛容であるべきという思想から建てられることになった新時代の刑務所”シンパシータワートーキョー”、その建築を担当することになった女性建築家を主人公にしたディストピア小説。
生成AIを用いたことで話題になったが、作中に展開される言語論が主軸。著者が問題提起する違和感を読者がどう受け止めるのか?が試されている作品。
一方で、東京五輪や国立競技場、新型感染症ウイルスなど、2020年代の身近な題材を盛り込んだ並行世界は大衆性に富んでおり、エンターテイメント作品としても十分に楽しめる内容になっている。


 

・第167回:『おいしいごはんが食べられますように』/高瀬隼子

職場でそこそこうまくやっている二谷と、皆が守りたくなる存在で料理上手な芦川と、仕事ができてがんばり屋の押尾。ままならない微妙な人間関係を「食べること」を通して描く傑作。
「BOOK」データベースより引用

食品パッケージ会社で働くアラサー男女を軸にした、食にまつわる物語
日本人は特に手の込んだ料理を大人数で囲むことが良いとされがちであるが、誰と何を食べるのかという「食に対する感覚」は人それぞれであるのだと思い知らされる。
登場人物たちの行動は、サイコパスだと言ってしまえばそれまでであるが、ある種の信念に基づいている。“普通”に警鐘を鳴らす近年の世の中の傾向をよく汲んだ作品と言える。


 

・第164回:『推し、燃ゆ』/宇佐美りん

推しが炎上した。ままならない人生を引きずり、祈るように推しを推す。そんなある日、推しがファンを殴った。
「BOOK」データベースより引用

自分が”推す男性アイドルへのファン活動に生活を捧げる女性の物語。
男性アイドルがファンの1人を殴打する事件が起こりネット上で炎上しても、勉学やアルバイトも人のようにうまく出来なくても、どんなことがあっても一心に”推し”を追いかける主人公の感情をストレートに表現している。
題材や時代背景によらず文学性を感じさせる表現が散見される「令和の純文学」として話題を集めた作品である、一方でSNS全盛時代の推し活には共感出来ない読者もいることだろう。


 

・第161回:『むらさきのスカートの女』/今村夏子

「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性が気になって仕方のない〈わたし〉は、彼女と「ともだち」になるために、自分と同じ職場で彼女が働きだすよう誘導し……。ベストセラーとなった芥川賞受賞作。文庫化にあたって各紙誌に執筆した芥川賞受賞記念エッセイを全て収録。
「BOOK」データベースより引用

いつも紫色のスカートを履いていることで近所の噂となっている女と、その女と友達になりたい主人公(黄色いカーディガンの女)の物語。
次第に顕在化する主人公の奇怪な行動と、そもそも主人公は誰なのか?という謎。それらを抱えたまま読み進めていくとやがてとんでもない展開が待ち受ける。若干散らかし放題感が否めないラストではあるものの、読者を引き込ませるエンタメ性は抜群。
また文庫版には著者の受賞記念エッセイが収録されており、受賞前後の著者の様子が伺いしれるが、これがまた面白いのでおすすめ。


 

・第155回:『コンビニ人間』/村田沙耶香

「いらっしゃいませー!」お客様がたてる音に負けじと、私は叫ぶ。古倉恵子、コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。ある日婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて…。現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

コンビニバイト歴は生きてきた人生の半分、日々の暮らしのほとんどをコンビニに費やす独身アラフォー女性を主人公とした物語。
いわゆる発達障害やアスペルガー症候群といった症状を連想させる描写が点在するが、具体的な記述はない。
あくまでも普通の、でも少し変わったコンビニアルバイトが日々を生きる様子が淡々と描かれる。
普通とは何か、何が幸せなのかを激しく考えさせられる。主人公の性格も、境遇も、そして彼女が行き着くこの物語の結末も、人それぞれの生き方があっていいと思えるような作品。
多様性の時代だからこそ受け入れられる、現代の「芥川賞」らしい作品。


 

・第153回:『火花』/又吉直樹

売れない芸人の徳永は、天才肌の先輩芸人・神谷と出会い、師と仰ぐ。神谷の伝記を書くことを乞われ、共に過ごす時間が増えるが、やがて二人は別の道を歩むことになる。笑いとは何か、人間とは何かを描ききったデビュー小説。第153回芥川賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

著者は人気芸人”ピース”の又吉直樹お笑いタレントによる純文学作品ということで話題を呼び、芥川賞受賞作品売上部数歴代1位という快挙を成し遂げた作品。2017年には映画化もされている。
売れない漫才師の師弟関係を通して、漫才やお笑いという芸能、彼らの目に見えない才能を芸術へと昇華させている。タイトルやコンビ名から分かる通り、それらを一瞬の煌めきに形容するセンスも素晴らしい。
また物語の大部分を占めるユーモア溢れる会話は芸術を構成する必須の要素でありながら、大衆文学のような読みやすさにもつながっている。世の中で芸人又吉直樹にしか書くことの出来ない、唯一無二の作品である。


 

・第146回:『道化師の蝶』/円城塔

無活用ラテン語で書かれた小説『猫の下で読むに限る』で道化師と名指された実業家のエイブラムス氏。その作者である友幸友幸は、エイブラムス氏の潤沢な資金と人員を投入した追跡をよそに転居を繰り返し、現地の言葉で書かれた原稿を残してゆく。幾重にも織り上げられた言語をめぐる物語。
「BOOK」データベースより引用

30以上の言語を操り、様々な言葉で20万枚もの原稿に小説を書き綴った超人友幸友幸と、彼を探し追いかける資産家エイブラムス氏の物語。
一読しただけではあらすじを追うのがやっと、というほどの難解な作品であり前衛文学と言われるのも頷ける。
芥川賞選考委員からも賛否様々な評論がなされている通り、読む人を選ぶ作品であることはまちがいないが、型にはまった小説に飽きた方は是非読んでみてもらいたい。


 

・第138回:『乳と卵』/川上未映子

娘の緑子を連れて大阪から上京してきた、「わたし」の姉でありホステスの巻子。巻子は豊胸手術を受けることに取り憑かれている。一方で、緑子は言葉を発することを拒否し、ノートに言葉を書き連ねる。夏の三日の間に展開される哀切なドラマは、身体と言葉の狂おしい交錯としての表現を極める!日本文学の風景を一夜にして変えた、芥川賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

大阪に住む姉の巻子とその娘緑子が、東京で暮らす「わたし」の元へ遊びに来た3日間を描いた物語。
初潮前の緑子は大人になっていく不安や、豊胸手術を受けたがる巻子に対しての反発をノートに吐露する。緑子を通して10代の女性が感じる性への嫌悪にも似た感情を表現していると言える。
また物語は主に巻子の妹である「わたし」の一人称視点で語られるが、意図的に句読点が少なくした、ぐるぐると流れるような文体が特徴。ラストの感情の昂りが見える場面も、母と娘の関係性が客観的に描かれているのが面白い。


 

・第134回:『沖で待つ』/絲山秋子

仕事のことだったら、そいつのために何だってしてやる。そう思っていた同期の太っちゃんが死んだ。約束を果たすため、私は太っちゃんの部屋にしのびこむ。仕事を通して結ばれた男女の信頼と友情を描く芥川賞受賞作「沖で待つ」に、「勤労感謝の日」、単行本未収録の短篇「みなみのしまのぶんたろう」を併録する。すべての働くひとに。
「BOOK」データベースより引用

住宅設備メーカーに同期入社した男女の友情を描いた物語。短編で他2編も収録されている。
経験者なら共感出来ると思うが、同期で配属地も同じというのは男女問わずそれだけで唯一無二の戦友のようなものである。
仕事のことならなんだってしてやる、特別な絆が感じられるような何気ない会話のやり取りがですます調の文体で淡々と、けれど優しく語られる。
新人時代を思い出す、サラリーマンにおすすめの作品。


 

・第130回:『蹴りたい背中』/綿矢りさ

“この、もの哀しく丸まった、無防備な背中を蹴りたい”長谷川初実は、陸上部の高校1年生。ある日、オリチャンというモデルの熱狂的ファンであるにな川から、彼の部屋に招待されるが…クラスの余り者同士の奇妙な関係を描き、文学史上の事件となった127万部のベストセラー。史上最年少19歳での芥川賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

インストール』で衝撃的なデビューを果たした綿矢りさの2作目に当たる中編小説は、仲間から除け者にされた少女ハツと、アイドルオタクのにな川のやり取りを描いた青春小説。
周囲に溶け込めない2人ではあるが、その立場は実は異なる。思春期の微妙な対人関係を丁寧な心理描写で表現した作品。
本作は早稲田大学在学中に執筆され、金原ひとみとともに史上最年少(当時19歳)で芥川賞を受賞した。
この作品を10代で書くことができ、芥川賞を受賞する。何よりもその事実・快挙が素晴らしい。


 

・第130回:『蛇にピアス』/金原ひとみ

「スプリットタンって知ってる?」そう言って、男は蛇のように二つに割れた舌を出した―。その男アマと同棲しながらサディストの彫り師シバとも関係をもつルイ。彼女は自らも舌にピアスを入れ、刺青を彫り、「身体改造」にはまっていく。痛みと快楽、暴力と死、激しい愛と絶望。今を生きる者たちの生の本質を鮮烈に描き、すばる文学賞と芥川賞を受賞した、金原ひとみの衝撃のデビュー作。
「BOOK」データベースより引用

クラブで出会った男性アマのスプリットタンに魅せられ、自分も舌にピアスを開けたいと思う主人公ルイ。
舌ピアスと刺青に憧れるフリーターの奔放な生活を描いた作品。
作品全体に漂う、暴力や欲望にまみれた荒廃的な世界観村上龍の作品を彷彿とさせる(関連性は不明だが村上龍は本作品を絶賛している)。これを若干20歳前後の女性が描けるものか?という驚きが読後の感情を支配するだろう。
『蹴りたい背中』とのW受賞で話題になり、映画化もされた作品。


 

・第116回:『海峡の光』/辻仁成

廃航せまる青函連絡船の客室係を辞め、函館で刑務所看守の職を得た私の前に、あいつは現れた。少年の日、優等生の仮面の下で、残酷に私を苦しめ続けたあいつが。傷害罪で銀行員の将来を棒にふった受刑者となって。そして今、監視する私と監視されるあいつは、船舶訓練の実習に出るところだ。光を食べて黒々とうねる、生命体のような海へ…。海峡に揺らめく人生の暗流。
「BOOK」データベースより引用

函館刑務所を舞台に刑務官として働く男を主人公にした作品。
かつて少年時代に自分を虐めた男花井修が受刑者として入所してくるところから物語が動き出す。当時と同じく優等生の仮面を被る花井の本性を暴くことが出来るのか?
主人公の揺れ動く心情を克明に描くだけでなく、潮の匂いを感じる函館のどこか薄暗い町並みが作品から感じられるように、情景描写の巧みさも窺わせる文学作品である。


 

・第98回:『スティル・ライフ』/池澤夏樹

しなやかな感性と端正な成熟が生み出した唯一無二の世界。生きることにほんの少し惑うとき、何度でもひもときたい永遠の青春小説。
「BOOK」データベースより引用

染色工場でアルバイトをする主人公と、そこで出会った友人佐々井との交流を描いた物語。
起承転“で完結するストーリーの中に、天体や科学に関する知見が散見され、著者のバックグラウンドが垣間見える。
これぞ芥川賞にふさわしい詩的な表現に、叙情的な情景描写。池澤文学の魅力が詰まった作品である。


 

・第78回:『螢川』/宮本輝

戦争の傷跡を残す大阪で、河の畔に住む少年と廓舟に暮らす姉弟との短い交友を描く太宰治賞受賞作「泥の河」。ようやく雪雲のはれる北陸富山の春から夏への季節の移ろいのなかに、落魄した父の死、友の事故、淡い初恋を描き、蛍の大群のあやなす妖光に生死を超えた命の輝きをみる芥川賞受賞作「蛍川」。幼年期と思春期のふたつの視線で、二筋の川面に映る人の世の哀歓をとらえた名作。
「BOOK」データベースより引用

4月の大雪は螢が出る-。父の病気に揺れる一家において、その言葉をある種の生きがいにする中学生の主人公。
家庭内の問題だけでなく友人の突然の死や恋、年頃の男子に次々と降りかかる多くの出来事は、まさに晩冬から初夏まで季節ごとに違った様子を見せる北陸の自然そのもの。
それらの出来事を経て描かれる最終盤の螢狩りのシーンは、生と死を超越した幻想的な雰囲気が文字から伝わってくるようで、純文学の真髄を見たような感覚を覚える。
新潮文庫版は太宰治賞受賞作『泥の河』と合わせて1冊になっており、どちらも少年を主人公にしているがまた違った魅力があるためおすすめ。


 

・第75回:『限りなく透明に近いブルー』/村上龍

米軍基地の街・福生のハウスには、音楽に彩られながらドラッグとセックスと嬌声が満ちている。そんな退廃の日々の向こうには、空虚さを超えた希望がきらめく―。著者の原点であり、発表以来ベストセラーとして読み継がれてきた、永遠の文学の金字塔が新装版に!
「BOOK」データベースより引用

ご存知村上龍のデビュー作であり、群像新人賞と芥川賞のW受賞作品としても知られている。
横田基地のある東京都福生市を舞台に、米軍基地にほど近い街で暮らす若者たちを描いた作品。
薬物や暴力、そして性。退廃的な雰囲気の中に存在する混沌(カオス)は、後の作品にも共通する村上龍の「長所」である。特に薬物注入シーンは圧巻の描写力で、聴覚や嗅覚が薬物によって研ぎ澄まされていく感覚をリアルに表現している。
新人離れした才能の塊を読まされているような気持ちになる、芸術性の高い作品である。


 

・第50回:『感傷旅行』/田辺聖子

党員のケイを気まぐれに愛し、いつか、熱烈に傾倒し破れ去る有似子。愛とは一体何なのか? 昭和39年度の芥川賞受賞作「感傷旅行」をはじめ、裸のままの人間を真向から描き続ける著者のやさしさが滲みでている次の好短篇を併せ収む。
「BOOK」データベースより引用

37歳の放送作家有以子が労働者で共産党員の男性ケイと恋に落ちる様子を、有以子の同業者であるヒロシを語り手として描いた作品。
肉体労働者と放送作家、朴訥なケイと軽薄な雰囲気のある有以子を対比的な人物描写で描いており、単なる恋愛小説ではない思想も感じる作品である。
感傷旅行(センチメンタル・ジャーニー)』というタイトルではあるが、自由奔放な有以子に振り回されながらも恋の様子を語られているうちにヒロシが本当の気持ちに気づく、といった三角関係を想像していると少し肩透かしを食らった気分になる。
一方で改めて読むとアラフォー女性の恋愛を(悲劇的に)描いた作品として時代の先取りではないか、という書評もあながち間違ってはないように思える。


 

・第39回:『飼育』/大江健三郎

死体処理室の水槽に浮沈する死骸群に託した屈折ある抒情「死者の奢り」、療養所の厚い壁に閉じこめられた脊椎カリエスの少年たちの哀歌「他人の足」、黒人兵と寒村の子供たちとの無残な悲劇「飼育」、傍観者への嫌悪と侮蔑をこめた「人間の羊」など6編を収める。“閉ざされた壁のなかに生きている状態”を論理的な骨格と動的なうねりをもつ文体で描いた、芥川賞受賞当時の輝ける作品集。
「BOOK」データベースより引用

日本人史上2人目のノーベル文学賞受賞者として知られる著者の初期短編は、大学在学中の受賞(当時最年少受賞)で一躍新進作家として注目を集めるきっかけとなった作品。
戦時中の農村を舞台に、不時着した敵兵の黒人と村人たちの姿を描いた物語。寒村の薄暗い情景描写や敵兵の人物描写は、戦争を生きた人間の感情が色濃く映る。
黒人への怖いもの見たさの感情に終始していた主人公の少年が、やがて起こる恐ろしい事件を通して、精神的に大人へと成長していく。


 

・第38回:『裸の王様』/開高健

とつじょ大繁殖して野に街にあふれでたネズミの大群がまき起す大恐慌を描く「パニック」。打算と偽善と虚栄に満ちた社会でほとんど圧殺されかかっている幼い生命の救出を描く芥川賞受賞作「裸の王様」。ほかに「巨人と玩具」「流亡記」。工業社会において人間の自律性をすべて咬み砕きつつ進む巨大なメカニズムが内蔵する物理的エネルギーのものすごさを、恐れと驚嘆と感動とで語る。
「BOOK」データベースより引用

画塾で子供たちに絵を教える主人公と、とあるきっかけで主人公の画塾へ入塾してきた裕福な家庭の少年。
抑圧され、絵を描こうとしない少年の心を開き、救うことはできるのか?
子供が絵を通して語りかけてくる感情を的確に描写している点は見事。また短編でありながらしっかりと物語としての起伏が感じられる。
新潮文庫に収録されている芥川賞受賞作以外の3編は、いずれも読み応えがあり、非常に贅沢な1冊となっている。


 

・第33回:『白い人』/遠藤周作

フランス人でありながらナチのゲシュタポの手先となった主人公は、ある日、旧友が同僚から拷問を受けているのを目にする。神のため、苦痛に耐える友。その姿を見て主人公は悪魔的、嗜虐的な行動を取り、己の醜態に酔いしれる(「白い人」)。神父を官憲に売り「キリスト」を試す若きクリスチャン(「黄色い人」)。
人間の悪魔性とは何か。神は誰を、何を救いたもうのか。
「BOOK」データベースより引用

1930年代終盤、第二次世界大戦開戦の機運が漂うフランスを舞台に、斜視のため不当な扱いを受ける青年の変化を描いた作品。
体に流れるドイツの血と、歪んだ感情を持ってゲシュタポとなる青年の自身の内面を爆発させる過程と、それに伴う残虐な行動とが生々しく語られている。


 

・第28回:『或る「小倉日記」伝』/松本清張

史実に残っていない小倉在住時の森鴎外の足跡を10年の歳月をかけてひたむきに調査する田上耕作とその母。病、貧乏、偏見、苦悩の中で、衰弱が進んでくる(「或る『小倉日記』伝」)。自らの美貌と才気をもてあまし日々エキセントリックになるぬい。夫にも俳句にも見放され、「死」だけが彼女をむかえてくれた(「菊枕」)。昭和28年芥川賞を受けた表題作ほか、孤独との苛酷な戦いをテーマにした、巨匠の代表作品集。
「BOOK」データベースより引用

社会派推理小説の第一人者である松本清張だが、デビューからしばらくは文学性の高い短編小説を好んで書いており、芥川賞を受賞した本作は初期を代表する作品である。
身体に障害を持つ男児が森鴎外の小倉在住時の3年間を調査する。軍医として赴任していた森鴎外に親しみを覚え、失われた日記の空白を埋めるべく作品の舞台となった街を訪れ、彼を知る人物への聞き込みを続ける。
ハンディキャップを持ちながらも何かをなし得たいという思いからひたむきに調査を進める主人公と、彼を一心に支える母の愛情。ピュアな感性が伝わってくる文学作品である。


 

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