この記事では、人気作家柚木麻子のおすすめ小説を紹介します。
女性同士のドロドロとした関係や同性に対する負の感情を書かせたら、今の日本で右に出るものはいないのではないでしょうか。
そんな彼女の作品は必然重たいものが多く、読むことが辛いと感じるものすらありますが、読み終える頃には何故か虜になってしまいます。そんな中毒性のある作品を紹介していきます。
ここに紹介する作品の大部分が電子書籍で読むことが可能です。もちろん紙には紙の良さがありますが、安く買えたり場所を取らなかったりと電子書籍のメリットもあります。是非平行してご利用ください。
柚木麻子のおすすめ小説10選を紹介する
紹介する作品、またその順番についてはあくまでも個人の所感となっておりますので、予めご了承ください。
1.『BUTTER』
男たちの財産を奪い、殺害した容疑で逮捕された梶井真奈子。若くも美しくもない彼女がなぜ―。週刊誌記者の町田里佳は親友の伶子の助言をもとに梶井の面会を取り付ける。フェミニストとマーガリンを嫌悪する梶井は、里佳にあることを命じる。その日以来、欲望に忠実な梶井の言動に触れるたび、里佳の内面も外見も変貌し、伶子や恋人の誠らの運命をも変えてゆく。各紙誌絶賛の社会派長編。
「BOOK」データベースより引用
実際に起きた首都圏連続婚活殺人を題材にした社会派小説。木嶋死刑囚が逮捕された当時や死刑が確定した際の報道を思い返す方も多いだろう。
世にも珍しいこの事件の概要をなぞりつつも、加害者のバックグラウンドや主人公である臨床心理士のサイドストーリーはフィクションとなっている。
主人公が「バター」をきっかけとして殺人犯に心乱され、外見・内面共に変貌していく様が生々しく描写されており、恐怖すら覚える。
他方、この”バター“に関しては物語の展開が作品のテーマから逸脱しないように繋ぎ止める役割も果たしていると感じる。
現実の事件をベースとした物語にフィクションとしての結末を付与し、後味も悪くないラストでまとめる。著者の力量を感じる作品である。
2.『本屋さんのダイアナ』
私の名は、大穴。おかしな名前も、キャバクラ勤めの母が染めた金髪も、はしばみ色の瞳も大嫌い。けれど、小学三年生で出会った彩子がそのすべてを褒めてくれた―。正反対の二人だったが、共通点は本が大好きなこと。地元の公立と名門私立、中学で離れても心はひとつと信じていたのに、思いがけない別れ道が…。少女から大人に変わる十余年を描く、最強のガール・ミーツ・ガール小説。
「BOOK」データベースより引用
恵まれた環境で育ったお嬢様の彩子と、シングルマザーの家庭で育ったキラキラネームの大穴(ダイアナ)、対照的な2人が少女から大人の女性になるまでの10年余りを描いた青春小説。
10年の中で2人は様々な出来事を通して成長していく。少女の立場でも、あるいはその過程を見守る保護者の立場でも、物語を楽しむことが出来る。
彩子の大学時代に起こる事件や、ダイアナの勤め先にいる店長への感情など、要所でのフェミニズムを感じる描写は柚木作品ならではかもしれないが、全体としては2人の友情に焦点が当たっておりとても爽やかな印象を受ける。
また作中では赤毛のアンをはじめ多くの少女小説が登場する。原作へのリスペクトを感じるような引用の仕方から、著者にとってもこれらの作品は自身を形成していく上でとても重要な要素であったに違いない。
3.『ナイルバーチの女子会』
商社で働く志村栄利子は愛読していた主婦ブロガーの丸尾翔子と出会い意気投合。だが他人との距離感をうまくつかめない彼女をやがて翔子は拒否。執着する栄利子は悩みを相談した同僚の男と寝たことが婚約者の派遣女子・高杉真織にばれ、とんでもない約束をさせられてしまう。一方、翔子も実家に問題を抱え―。友情とは何かを描いた問題作。
「BOOK」データベースより引用
大手商社で働くキャリアウーマンの栄利子と人気主婦ブロガーの翔子。30歳を過ぎて友達のいない2人が出会い意気投合するまでは良いのだが、そこからがひたすらきつくて胃もたれする重い展開。
代表作『BUTTER』にも共通するが、女性が狂っていく様を描かせたら天下一品である。それが社会的地位があり”外面の良い“女性であればあるほど読者に与えるダメージは大きい。
次第に両者の抱える闇が表面化しドロドロの展開になっていくが、それでも読み進めてしまうのは文章力とリアリティによるところが大きく、客観視しながら読んでいても自分は大丈夫だろうか?と不安にさせる。ずしりと応える作品。
4.『らんたん』
大正最後の年。かの天璋院篤姫が名付け親だという一色乕児は、渡辺ゆりにプロポーズした。彼女からの受諾の条件は、シスターフッドの契りを結ぶ河井道と3人で暮らす、という前代未聞のものだったーー。
「BOOK」データベースより引用
明治〜昭和にかけて活躍した河井道の生涯を軸に多くの周辺人物について詳細に描いている小説。
その情報量の多さは伝記物という観点から見ても、この時代の女性史を学ぶ上でとても意味があるように思う。
作中で生徒から生徒へ渡されるランタン タイトルにもなっている灯籠は、人類が先人から継承すべき後世への希望の光ではないだろうか。
女性たちの権利や教育の必要性を訴え、難しい時代を駆け抜けるように生きた河井道の75年間、その全てが詰まったような作品は、著者のこれまでの作家人生にブレイクスルーを起こすような大作である。
5.『けむたい後輩』
14歳で作家デビューした過去があり、今もなお文学少女気取りの栞子は、世間知らずな真実子の憧れの先輩。二人の関係にやたらイラついてしまう美人で頑張り屋の美里は、栞子の恋人である大学教授に一目惚れされてしまう―。名門女子大を舞台に、プライドを持て余した女性たちの嫉妬心と優越感が行き着く先を描いた、胸に突き刺さる成長小説。
「BOOK」データベースより引用
お嬢様大学に通う3人の女子大生の人間模様を描いた小説。
同性に対して抱く優越感と劣等感、大学生というモラトリアム期間をどう感じながら過ごすのか、時に辛辣とも取れる表現もあるが、女性のドロドロした内面心理がこの作品の大半を占める。
柚木作品にありがちの胃もたれ展開ではあるが、一方で本作ではそれまでの内容を全て囮に使った痛快な結末が待ち構えており、爽快な読後感を味わうことができる。
タイトルに込められた意味を考えながら読むとより楽しめるのではないかと思う。
6.『マジカルグランマ』
女優になったが結婚してすぐに引退し、主婦となった正子。夫とは同じ敷地内の別々の場所で暮らし、もう4年ほど口を利いていない。ところが、75歳を目前に再デビューを果たし、「日本のおばあちゃんの顔」となる。しかし、夫の突然の死によって仮面夫婦であることが世間にバレ、一気に国民は正子に背を向ける。さらに夫には2000万の借金があり、家を売ろうにも解体には1000万の費用がかかると判明、様々な事情を抱えた仲間と共に、メルカリで家の不用品を売り、自宅をお化け屋敷のテーマパークにすることを考えつくが―。
「BOOK」データベースより引用
マジカルニグロという言葉をご存知だろうか?アメリカ映画において白人の主人公を助けに現れる黒人のことを指す言葉であるが、本作のタイトルはこの言葉を基にした造語である。
本作は70代半ばに差し掛かりながらも女優業で生計を立てようとする老女の奮闘を描いた物語である。彼女を通して、誰しもが無意識的にステレオタイプな役柄を演じようとしてしまうこと、そこに差別や偏見が潜んでいること、に対して警鐘を鳴らしている。
いくつになっても自分本位で、勝手気ままに生きる。そんな主人公の性分に共感出来ない読者もいるかもしれない。だがその時点ですでに著者のいう”マジカルグランマ“の思考に捉われてしまっているのである。
お祖母さんなのだから謙虚に、控えめに、慎ましく生きるべきなんてことはない。いくつになっても挑戦していい、自分本位でいることも個性である、と主張してくれる作品。
7.『王妃の帰還』
私立女子校中等部二年生の範子は、地味ながらも気の合う仲間と平和に過ごしていた。ところが、公開裁判の末にクラスのトップから陥落した滝沢さん(=王妃)を迎え入れると、グループの調和は崩壊!範子たちは穏やかな日常を取り戻すために、ある計画を企てるが…。傷つきやすくてわがままで―。みんながプリンセスだった時代を鮮烈に描き出すガールズ小説!
「BOOK」データベースより引用
私立の女子校を舞台に、中学二年生の女生徒たちのリアルな学園生活を描いた作品。
クラスに存在するスクールカーストを残酷なまでに丁寧に描きつつ、その中でも地味な女の子を主人公にしている点がポイント。
彼女の視点からは、クラスメイトたちはどのように写っているのか。そして王妃こと天真爛漫な滝沢さんの存在により目まぐるしく変化する友情模様にも注目である。
人によってはヒリヒリとした感覚、思い出したくない記憶が蘇る方もいるのかもしれないが、タイトルにもある王妃の帰還は為されるのか?ラストの展開で物語としての調和を上手くとっている印象。
8.『ランチのアッコちゃん』
地味な派遣社員の三智子は彼氏にフラれて落ち込み、食欲もなかった。そこへ雲の上の存在である黒川敦子部長、通称“アッコさん”から声がかかる。「一週間、ランチを取り替えっこしましょう」。気乗りがしない三智子だったが、アッコさんの不思議なランチコースを巡るうち、少しずつ変わっていく自分に気づく(表題作)。読むほどに心が弾んでくる魔法の四編。読むとどんどん元気が出るスペシャルビタミン小説!
「BOOK」データベースより引用
パワフルな女性アッコさんに関わる人々を描いた連作短編集、著者の出世作とも言われる作品であり、その後も”アッコちゃんシリーズ“として2作品続編が刊行されている。
1作品あたり文庫本にして50ページ程度と短く、また平易な文章で書かれているため読みやすく、ライトノベル感覚でサクサク読み進めることが出来る。
分かりやすい設定に、さっぱりとしたストーリー展開。作品のうたい文句通り、読むと元気を貰える小説である。
1.『ランチのアッコちゃん』(2013)
2.『3時のアッコちゃん』(2014)
3.『幹事のアッコちゃん』(2016)
9.『ねじまき片想い』
豊かな想像力を武器に老舗おもちゃ会社で敏腕プランナーとして働く富田宝子。彼女は取引先のデザイナー西島に5年も片想いをしており、気持ちを伝えられずにいる。彼に次々と降りかかる災難を、持ち前の機転とおもちゃを駆使し解決していくが、西島は宝子の奮闘にまったく気がつかず?!自分の心にねじを巻けるのは、自分だけ。宝子が自分の心を解放したとき彼女を待つ未来は―。
「BOOK」データベースより引用
敏腕プランナーとして働く主人公が、片想いをしている冴えないデザイナーの危機を解決していく、という著者には珍しいミステリ仕立ての作品。
その特性から、現在までに発表された柚木作品の中で唯一東京創元社(創元推理文庫)から出版されている。
ただミステリ仕立てとは言っても謎解きに焦点が当てられているわけではなく、あくまで宝子の恋の行方が主題というのは作品を通して変わらない。
片想いの相手西島のため、あの手この手と策を弄する宝子の姿はいじらしいがどこかコミカルな部分もある。そして道中からは想像もつかない爽快感のあるラストも待ち受けている。
なお他作『あまからカルテット』でもこのミステリー要素の含まれた展開が見られるが、こちらは4人の女性たちの友情に焦点が当てられた作品である。
10.『伊藤くんAtoE』
美形でボンボンで博識だが、自意識過剰で幼稚で無神経。人生の決定的な局面から逃げ続ける喰えない男、伊藤誠二郎。彼の周りには恋の話題が尽きない。こんな男のどこがいいのか。尽くす美女は粗末にされ、フリーターはストーカーされ、落ち目の脚本家は逆襲を受け…。傷ついてもなんとか立ち上がる女性たちの姿が共感を呼んだ、連作短編集。
「BOOK」データベースより引用
ダメなイケメン伊藤くんに翻弄される5人の女性の姿を、伊藤くんA、伊藤くんB、・・・伊藤くんEと5つの章で描いた連作短編集。
定職に付かずぶらぶらし、理想論ばかりを振りかざすような典型的なダメ男から、5人の女性たちは卒業出来るのか、というのが表向きのテーマである。
女性たちも伊藤くんに負けず劣らず曲者ぞろいではあるが、伊藤くんからの卒業に際して明確な転機を迎えることになるため、短編ながらもメリハリが効いた展開となる。
一方で、イケメンで実家は資産家の伊藤くん、彼の立場を考えてこの作品を読んでみると少し違った感覚を得られるから不思議である。
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