柚月裕子の長編小説をデビュー作から全作品、おすすめ順に紹介していく!

今回は21歳で結婚、主婦業のかたわら「小説家になろう講座」に参加し44歳で小説家デビューという異色の経歴を持つ柚月裕子氏のおすすめ長編小説を紹介していきます。

デビュー作『臨床真理』から、2021年10月に発売された最新長編『ミカエルの鼓動』まで、全ての長編を網羅しております。これを読めば柚月裕子作品は完璧に把握できるかと思いますので、是非最後までご覧ください。

 

柚月裕子の長編小説を全作品おすすめ順に紹介していく

2009年に『臨床真理』でデビューしたのち、柚月裕子氏は現在までに13本の長編小説を発表しています。

今回はそのうち『孤狼の血』シリーズの続編にあたる『凶犬の眼』、『暴虎の牙』を除いた11作品をおすすめ順に紹介していきます。(この2作品も『孤狼の血』紹介時に言及はしておりますし、個別記事もありますのでそちらを参照してください)

このブログでは他にも「小説」をキーワードにした記事を書いております。是非合わせてご覧ください。

 

1.『盤上の向日葵』

平成六年、夏。埼玉県の山中で身元不明の白骨死体が発見された。遺留品は、名匠の将棋駒。叩き上げの刑事・石破と、かつてプロ棋士を志した新米刑事の佐野は、駒の足取りを追って日本各地に飛ぶ。折しも将棋界では、実業界から転身した異端の天才棋士・上条桂介が、世紀の一瞬に挑もうとしていた。重厚な人間ドラマを描いた傑作ミステリー。
「BOOK」データベースより引用

将棋の駒が慰留品として発見された殺人事件の真相を追う刑事と、1人の棋士の人生を描いた物語。
地道な捜査で犯人を絞り込んでいく過程はミステリーとして素晴らしく、また物語のキーとなる天才棋士の人生を幼少期から掘り下げていくことでヒューマンドラマにもなっていて、物語自体に厚みが出ている。
日本推理作家協会賞受賞も納得の作品。名実ともに著者の代表作と言える。


 

2.『孤狼の血』

昭和63年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上とコンビを組むことに。飢えた狼のごとく強引に違法捜査を繰り返す大上に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて金融会社社員失踪事件を皮切りに、暴力団同士の抗争が勃発。衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが…。正義とは何か。血湧き肉躍る、男たちの闘いがはじまる。
「BOOK」データベースより引用

昭和末期の広島を舞台に、違法捜査も辞さない型破りなマル暴刑事と地元ヤクザの奮闘を描いた刑事小説。
ヤクザや刑事による荒々しい広島弁の応酬は、女性作家が書いたとは思えない程の迫力。加えてどんでん返しにつながるストーリー展開は女性らしい緻密さも見える。
続巻2巻が刊行されているシリーズものであり、3作目『暴虎の牙』をもって完結している。なお2018年には映画公開され、2021年には続編も公開されている。

『孤狼の血』シリーズ一覧

1作目:『孤狼の血』
2作目:『凶犬の眼』
3作目:『暴虎の牙』


 

3.『最後の証人』

検事を辞して弁護士に転身した佐方貞人のもとに殺人事件の弁護依頼が舞い込む。ホテルの密室で男女の痴情のもつれが引き起こした刺殺事件。現場の状況証拠などから被告人は有罪が濃厚とされていた。それにもかかわらず、佐方は弁護を引き受けた。「面白くなりそう」だから。佐方は法廷で若手敏腕検事・真生と対峙しながら事件の裏に隠された真相を手繰り寄せていく。やがて7年前に起きたある交通事故との関連が明らかになり…。
「BOOK」データベースより引用

元検事の弁護士が、ある殺人事件を担当することになる。被疑者には状況証拠が揃っており分が悪いと思われていたが、驚愕の事実が待ち受けている、という法廷ミステリー。
シリーズものではあるが、2作目以降は主人公佐方貞人の検事時代を描いた短編集となっている。
現在まで4作目まで刊行されているが、どれも名作ぞろい。2作目の『検事の本懐』は大藪春彦賞を受賞したことでも知られている。

佐方貞人シリーズ一覧

1作目:『最後の証人』
2作目:『検事の本懐』
3作目:『検事の死命』
4作目:『検事の信義』

本作を読んで法廷ミステリーにはまった方は、中山七里の『弁護士 御子柴礼司』もおすすめ。白熱の法廷バトルをとくとご覧あれ。


 

4.『ミカエルの鼓動』

大学病院で、手術支援ロボット「ミカエル」を推進する心臓外科医・西條。そこへ、ドイツ帰りの天才医師・真木が現れ、西條の目の前で「ミカエル」を用いない手術を、とてつもない速さで完遂する。あるとき、難病の少年の治療方針をめぐって、二人は対立。「ミカエル」を用いた最先端医療か、従来の術式による開胸手術か。そんな中、西條を慕っていた若手医師が、自らの命を絶った。大学病院の闇を暴こうとする記者は、「ミカエルは人を救う天使じゃない。偽物だ」と西條に迫る。天才心臓外科医の正義と葛藤を描く。
「BOOK」データベースより引用

心臓をはじめとした手術の支援を可能にするロボット「ミカエル」を巡り、その第一人者の医者を主人公とし現代医療のあり方に迫った医療ミステリー
序盤から中盤はミカエルを取り巻く医療業界の状況、主人公西條の所属する大学病院内での医局の派閥争いなどの描写がメイン。それ自体も医療小説として十分にクオリティの高い内容となっているが、終盤の展開力はさらに見事。
著者が訴えたかったものが、主人公の医療に対して真摯に向き合う姿勢を通して見えてくる。ラストまで読み応え抜群の作品。


 

5.『パレートの誤算』

ケースワーカーはなぜ殺されたのか。優秀な先輩の素顔を追って、女性ワーカーが生活保護の闇を炙り出す!受給者、ケースワーカー、役人…それぞれの思惑が交錯する渾身の社会派サスペンス!
「BOOK」データベースより引用

ある都市の市役所に勤務する新米ケースワーカーを主人公に、生活保護の不正受給という社会問題をからめたサスペンスミステリー。
中盤から終盤まで徐々に真相に近づきながらテンポよく進むストーリー展開、ラストはハラハラドキドキでサスペンスとしてもミステリーとしても優秀。

生活保護受給者を支援するケースワーカーに興味を持った方は、週間スピリッツで連載中の漫画『健康で文化的な最低限度の生活』もおすすめなので是非読んでみよう。


 

6.『蟻の菜園 ‐アントガーデン‐』

結婚詐欺容疑で介護士の円藤冬香が逮捕された。婚活サイトで彼女と知り合った複数の男性が相次いで死亡していたのだ。しかし冬香は容疑を否認。アリバイも完璧だった。美貌の冬香の身にいったい何があったのか。関心を抱いたフリーライターの今林由美が冬香の過去を追い北陸に向かうと、30年前に起きたある未成年事件にたどり着く。由美は、父親を刺した少女と冬香との関連を疑うが、証拠がなく暗礁に乗り上げてしまう…。
「BOOK」データベースより引用

結婚詐欺で捕まったある女性をフリーライターの主人公が追いかける。謎に包まれた容疑者の過去を追ううちに思わぬ事件・真相が見えてくる。
現在の事件だけでなく裏には過去に起きた事件が関わっている点、謎に包まれた容疑者の過去が地道な聞き込みにより徐々に明らかになっていく点などは、現代社会の闇をとてもうまく描き出しており、まるで初期の宮部みゆき作品を読んでいるように感じる。


 

7.『臨床真理』

人の感情が色でわかる「共感覚」を持つという不思議な青年―藤木司を担当することになった、臨床心理士の佐久間美帆。知的障害者更生施設に入所していた司は、親しくしていた少女、彩を喪ったことで問題を起こしていた。彩は自殺ではないと主張する司に寄り添うように、美帆は友人の警察官と死の真相を調べ始める。だがやがて浮かび上がってきたのは、恐るべき真実だった…。人気を不動にする著者のすべてが詰まったデビュー作!
「BOOK」データベースより引用

臨床心理士として働く1人の女性が、人の感情が色で見える共感覚の持ち主である青年を担当することになり、そこからある事件に巻き込まれていく。
一見突拍子のない設定に思えるが、医療分野の専門知識も丁寧に説明がされており、設定が頭にすんなり入ってくる。著者の取材力の賜物ではないか。
またラストのどんでん返しも衝撃で、初読で犯人を予想することは困難だろうと思う。
なお本作は著者のデビュー長編である。デビュー作とは思えないクオリティの高さで第7回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した。


 

8.『慈雨』

警察官を定年退職し、妻と共に四国遍路の旅に出た神場。旅先で知った少女誘拐事件は、16年前に自らが捜査にあたった事件に酷似していた。手掛かりのない捜査状況に悩む後輩に協力しながら、神場の胸には過去の事件への悔恨があった。場所を隔て、時を経て、世代をまたぎ、織り成される物語。事件の真相、そして明らかになる事実とは。安易なジャンル分けを許さない、芳醇たる味わいのミステリー。
「BOOK」データベースより引用

定年退職した元刑事が、お遍路旅の途中に知った事件に捜査協力を行うことで過去の事件への遺恨を清算するお話。
16年前と現在をつなぐ事件・犯人が誰なのかというミステリーではあるが、それはあくまで副次的な要素でしかない。
本質はお遍路の旅に出た主人公が、自分の家族や道中出会う人々と向き合うことで、大切なものが何かを再確認するヒューマンドラマである。


 

9.『ウツボカズラの甘い息』

家事と育児に追われる高村文絵はある日、中学時代の同級生、加奈子に再会。彼女から化粧品販売ビジネスに誘われ、大金と生き甲斐を手にしたが、鎌倉で起きた殺人事件の容疑者として突然逮捕されてしまう。無実を訴える文絵だが、鍵を握る加奈子が姿を消し、更に詐欺容疑まで重なって…。全ては文絵の虚言か企みか?戦慄の犯罪小説。
「BOOK」データベースより引用

平凡な主婦が偶然の再会から、かつての同級生にはめられるまでの過程は臨場感があり、事件解決を目指す刑事目線で語られる章と交互に進んでいく構成も良い。
後半も前半部分からの大仕掛けが発動したり、犯人にたどり着くまでの疾走感ある展開など、飽きることなくラストまで突き進んでいく。
惜しいのは少し要素を詰め込みすぎなのではないかということ。刑事の家庭事情の描写はなくても良いorシリーズものにしていくべきと思う。


 

10.『朽ちないサクラ』

警察のあきれた怠慢のせいでストーカー被害者は殺された!?警察不祥事のスクープ記事。新聞記者の親友に裏切られた…口止めした泉は愕然とする。情報漏洩の犯人探しで県警内部が揺れる中、親友が遺体で発見された。警察広報職員の泉は、警察学校の同期・磯川刑事と独自に調査を始める。次第に核心に迫る二人の前にちらつく新たな不審の影。事件には思いも寄らぬ醜い闇が潜んでいた。
「BOOK」データベースより引用

何者かに殺された新聞記者の親友の無念を晴らすため、警察広報職員の主人公が独自調査に乗り出す、という話。
公安警察、カルト教団、と本作もテーマは盛りだくさん。たまに出てくる居酒屋描写がアクセントになっておりスイスイ読み進めることができる。
最後に待っている予想外の展開もお手の物。ただし他作品に比べて動機が曖昧であり、すっきりしないラストが惜しい。

なお公安警察が出てくる小説といえば、『百舌シリーズ』がおすすめ。


 

11.『月下のサクラ』

事件現場で収集した情報を解析・プロファイリングをし、解決へと導く機動分析係。
森口泉は機動分析係を志望していたものの、実技試験に失敗。しかし、係長・黒瀬の強い推薦により、無事配属されることになった。鍛えて取得した優れた記憶力を買われたものだったが、特別扱い「スペカン」だとメンバーからは揶揄されてしまう。
「BOOK」データベースより引用

前作『朽ちないサクラ』で登場した森口泉が、広報職員から刑事に鞍替えして活躍する物語。続編に当たるので先に『朽ちないサクラ』を読んでからがおすすめ。
警察内部で起きた盗難事件がやがて殺人事件へ発展、さらには組織を巻き込む陰謀が見えてくるといった内容。
防犯カメラの映像をチェック・分析するという機動分析係の特徴がよく現れているが、タイトルに込められたサクラの意味合いが少しメッセージ性として弱いかもしれない。


 

12.『教誨』

吉沢香純と母の静江は、遠縁の死刑囚三原響子から身柄引受人に指名され、刑の執行後に東京拘置所で遺骨と遺品を受け取った。響子は十年前、我が子も含む女児二人を殺めたとされた。香純は、響子の遺骨を三原家の墓におさめてもらうため、菩提寺がある青森県相野町を単身訪れる。香純は、響子が最期に遺した言葉の真意を探るため、事件を知る関係者と面会を重ねてゆく。
「BOOK」データベースより引用

親戚の死刑囚が最後に遺した言葉の謎を解き明かす、という一風変わった設定の作品。
淡々と進むストーリー展開ながら、殺人事件の加害者が辿る過酷な人生や、死刑囚の獄中での生活が緊迫感を持って語られており、取材力・文章力に円熟味が増してきていると感じる。
一方で、なぜ主人公が遠縁の死刑囚にそこまで興味を掻き立てられるのか。物語を展開していく上での動機付けがやや足りない気がする。それは読者の”共感“を得られるかどうかにも繋がってくるし、重い性質(テーマ)を扱っているため読みやすさという観点でも少し物足りなさを感じる。


 

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