伊坂幸太郎のおすすめ小説25作品を、全作品読破したファンが厳選紹介!!

この記事では、人気作家伊坂幸太郎のおすすめ小説を紹介します。

2000年のデビューから20年以上、合計出版作品数は40作品を超えた伊坂幸太郎ですが、その中でも25作品を厳選して紹介します。

またここに紹介する作品の大部分が電子書籍で読むことが可能です。もちろん紙には紙の良さがありますが、安く買えたり場所を取らなかったりと電子書籍のメリットもあります。是非平行してご利用ください。

伊坂幸太郎のおすすめ小説25選

今回は25作品を厳選紹介していますが、順番についてはあくまでも個人の所感となっておりますので、予めご了承ください。

また一部のシリーズ化している作品については続巻情報も合わせて記載しております。基本的には1作品目を紹介しておりますので、順番を意識してお読みいただければと思います。

それでは、伊坂幸太郎のおすすめ小説25冊の紹介です。

 

1.『アヒルと鴨のコインロッカー』(2003)

引っ越してきたアパートで出会ったのは、悪魔めいた印象の長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。彼の標的は―たった一冊の広辞苑!?そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、なぜか僕は決行の夜、モデルガンを手に書店の裏口に立ってしまったのだ!注目の気鋭が放つ清冽な傑作。第25回吉川英治文学新人賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

吉川英治文学新人賞を受賞し、同年2003年に刊行された『重力ピエロ』と合わせて、伊坂幸太郎の名を一気に全国区とした人気作品。
多くの人気作品の中でもミステリー色が強く、本格推理小説としても高い評価を受けている。
登場人物の飄々とした雰囲気やテンポの良いやりとりはそのままに、なぜ広辞苑一冊のために本屋を襲撃するのか、2年前と現在を交互に行き来しながら次第にその全容を覗かせるストーリー展開が見事。
ラストに仕掛けられたトリックが炸裂する瞬間は、ミステリー作家としても一級品であると感じさせられる。


 

2.『アイネクライネナハトムジーク』(2014)

妻に出て行かれたサラリーマン、声しか知らない相手に恋する美容師、元いじめっ子と再会してしまったOL…。人生は、いつも楽しいことばかりじゃない。でも、運転免許センターで、リビングで、駐輪場で、奇跡は起こる。情けなくも愛おしい登場人物たちが仕掛ける、不器用な駆け引きの数々。明日がきっと楽しくなる、魔法のような連作短編集。
「BOOK」データベースより引用

恋愛」や「出会い」にフォーカスした短編集。伊坂作品では極めて珍しく、恋愛小説にジャンル分けされる小説である。
前半2編は伊坂自身もファンであるミュージシャン斉藤和義の楽曲をコンセプトに描かれたもので、元々は同氏のCD特典として付属されていたものである。
恋愛小説といっても濃厚なテイストではなく、まさにこれから恋が始まるという予感を感じさせるものであり、爽やかで心地良い読後感を感じられる。
また後半は前半2編と比べて恋愛味は薄まるものの、独立した物語が終盤に繋がりを感じられる構成になっているのはさすが伊坂幸太郎というべき構成力。
自身の得意ジャンル以外でも高クオリティの作品を執筆出来る、著者の幅の広さを感じられる作品。


 

3.『重力ピエロ』(2003)

兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった頃、事件は始まる。連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアートの出現。そしてそのグラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎解きに乗り出した兄が遂に直面する圧倒的な真実とは―。溢れくる未知の感動、小説の奇跡が今ここに。
「BOOK」データベースより引用

仙台で起きた連続放火事件、現場近くに必ず描かれているグラフィティアートとの関連性や残された英単語といった謎に異父兄弟が挑む。
序盤から物語に点在する小さな伏線やかすかな違和感が次第に大きくなっていき、やがて驚きの事実が浮かび上がってくる。
泉水と春、互いを必要としあう兄弟の関係性や家族の絆が会話の端々から感じられる。遺伝子を超越するラストはまさに爽快感満載。
また印象的な書き出しと結びの一文は文学的にも高い評価を受けている。文学賞受賞作品ではないものの本作品を伊坂幸太郎の代表作と推すファンが多いのも頷ける。


 

4.『オーデュボンの祈り』(2000)

コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている“荻島”には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止出来なかったのか?
「BOOK」データベースより引用

新潮ミステリー倶楽部賞を受賞したデビュー作品。
宮城県沖に位置し、150年間も鎖国状態にある“荻島”を舞台に、喋るカカシや個性的な島民たち、そして本島から迷い込んだ主人公が遭遇する事件を描いた物語。
常人には理解できない不思議な人物設定やストーリー展開、洒落た会話など全てが村上春樹を彷彿とさせる。ただ荒唐無稽なお伽話ではなく、全ての設定が伏線や事件を解く鍵となっており、全く無駄が無い。
伊坂ワールドの始まりとも言える作品、この世界観を楽しむことが出来るかどうかが分かれ道である。


 

5.『砂漠』(2005)

仙台市の大学に進学した春、なにごとにもさめた青年の北村は四人の学生と知り合った。少し軽薄な鳥井、不思議な力が使える南、とびきり美人の東堂、極端に熱くまっすぐな西嶋。麻雀に勤しみ合コンに励み、犯罪者だって追いかける。一瞬で過ぎる日常は、光と痛みと、小さな奇跡でできていた―。
「BOOK」データベースより引用

大学に入学したばかりの主人公北村と愉快な仲間たちとの学生生活を、春夏秋冬季節ごとに綴った小説。恋愛友情といった要素が散りばめられた、伊坂作品には珍しい青春小説である。
達観した感じの主人公が友達思いになったり、無口だった女の子が社交的になったりと、物語が進むにつれ内面の変化が感じられる学生たちの姿が眩しい。
日々の出来事は、他作品の伊坂ワールドを信奉する読者には物足りなく思えるかもしれないが、小説の構成を逆手に取りつつ序盤の伏線を鮮やかに回収する終盤は見事。
サン・テグジュベリの名言「真の贅沢は人間関係における贅沢である」で結ばれるラスト。爽やかな読後感は伊坂作品で随一ではないだろうか。
なお本作で通算5回目の直木賞候補に選ばれているが、受賞は叶わなかった。


 

6.『陽気なギャングが地球を回す』(2003)

嘘を見抜く名人、天才スリ、演説の達人、精確な体内時計を持つ女。この四人の天才たちは百発百中の銀行強盗だった…はずが、思わぬ誤算が。せっかくの「売上」を、逃走中に、あろうことか同じく逃走中の現金輸送車襲撃犯に横取りされたのだ!奪還に動くや、仲間の息子に不穏な影が迫り、そして死体も出現。映画化で話題のハイテンポな都会派サスペンス。
「BOOK」データベースより引用

4人組の銀行強盗が現金輸送車襲撃犯に襲われ、成果を横取りされてしまう。4人組の”仕返し”を描いた物語。
4人組は人間嘘発見器、スリの名人などそれぞれ特技があるのだが、なんといってもこの4人の個性が際立っている。キャラが立つことで会話にもリズムが生まれ、非常に読み進めやすい。
スピーディーなストーリー展開だけでなく、予想外な出来事の連続はまさに非日常の中の日常を描いており、読者を全く飽きさせない。続編も含めてとても人気の高い作品であるのも頷ける。

「陽気なギャングシリーズ」一覧

1.『陽気なギャングが地球を回す』(2003)
2.『陽気なギャングの日常と襲撃』(2006)
3.『陽気なギャングは三つ数えろ』(2015)


 

7.『オー!ファーザー』(2010)

父親が四人いる!?高校生の由紀夫を守る四銃士は、ギャンブル好きに女好き、博学卓識、スポーツ万能。個性溢れる父×4に囲まれ、息子が遭遇するは、事件、事件、事件―。知事選挙、不登校の野球部員、盗まれた鞄と心中の遺体。多声的な会話、思想、行動が一つの像を結ぶとき、思いもよらぬ物語が、あなたの眼前に姿を現す。
「BOOK」データベースより引用

4人の父親と1人の母親を持つ、世にも珍しい高校生由紀夫の身に降りかかる事件を描いた物語。
4人の父親はどれも個性が際立っており、彼らと由紀夫の日常のやりとりを読んでいるだけでも十分小説として成り立っているほどである。
加えて県知事選挙期間中に起こる幾つかの警察沙汰という非日常が物語を動きのあるものに変えていき、ダイナミックで疾走感のある展開が繰り広げられる。
著者自身があとがきで第1期の最後の作品と語っているように(書籍化は2010年だったが連載は2006年-)、本作品以降『ゴールデンスランバー』などジャンルやテイストが異なった作品を執筆するようになる。
そういった意味では本作品は初期の伊坂作品の集大成と言えるだろう。


 

8.『死神の精度』(2005)

CDショップに入りびたり、苗字が町や市の名前であり、受け答えが微妙にずれていて、素手で他人に触ろうとしない―そんな人物が身近に現れたら、死神かもしれません。一週間の調査ののち、対象者の死に可否の判断をくだし、翌八日目に死は実行される。クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う六つの人生。
「BOOK」データベースより引用

対象者を1週間調査し、死亡「」か「見送り」か判断を下す死神の物語。主人公の死神千葉と対象者との関わり合いを描いた連作短編集
対象者に必要以上には肩入れせず、けれど調査は手を抜かない千葉の仕事ぶりと、対象者との距離の置き方が絶妙。あっと驚く仕掛けやユーモアもあり個々のストーリー展開も非常にレベルが高い。
また連作短編集の名の通り個々に独立した物語ではあるものの、ラスト「死神対老女」には1冊の小説のとしての繋がりも見える。日本推理作家協会賞、短編部門を受賞した作品としても知られている。

「死神シリーズ」一覧

1.『死神の精度』(2005)
2.『死神の浮力』(2013)


 

9.『ゴールデンスランバー』(2007)

衆人環視の中、首相が爆殺された。そして犯人は俺だと報道されている。なぜだ?何が起こっているんだ?俺はやっていない―。首相暗殺の濡れ衣をきせられ、巨大な陰謀に包囲された青年・青柳雅春。暴力も辞さぬ追手集団からの、孤独な必死の逃走。行く手に見え隠れする謎の人物達。運命の鍵を握る古い記憶の断片とビートルズのメロディ。スリル炸裂超弩級エンタテインメント巨編。
「BOOK」データベースより引用

首相暗殺の濡れ衣を着せられた男の逃走劇を描いた物語。上述した通り、本作品以降いわゆる第2期に突入したと言われており、これまでと異なるジャンルやテイストの作品が多く描かれている。
本作品は初期の頃の伊坂ワールドを感じさせながらも、大衆向けに舵を切った印象を受ける。ただそれでも本屋大賞山本周五郎賞をW受賞してしまうところに底知れぬ力量を感じる。
ケネディ大統領暗殺になぞらえ「オズワルドにされる」ことなく真実を突き止めることができるのか。文量こそ多いがこれぞ娯楽小説!と言わんばかりに、息もつかせぬ展開でラストまで読者を飽きさせない。


 

10.『グラスホッパー』(2004)

「復讐を横取りされた。嘘?」元教師の鈴木は、妻を殺した男が車に轢かれる瞬間を目撃する。どうやら「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕業らしい。鈴木は正体を探るため、彼の後を追う。一方、自殺専門の殺し屋・鯨、ナイフ使いの若者・蝉も「押し屋」を追い始める。それぞれの思惑のもとに―「鈴木」「鯨」「蝉」、三人の思いが交錯するとき、物語は唸りをあげて動き出す。疾走感溢れる筆致で綴られた、分類不能の「殺し屋」小説。
「BOOK」データベースより引用

妻を轢き殺した相手への復讐を考える主人公鈴木と、3人の殺し屋たちの物語。
押し屋、自殺屋()、ナイフ使い()とタイプの違う殺し屋たちの特徴が良く出ている。
また彼らの脇を固める登場人物もどこか飄々としており、淡々と流れる非日常(非現実)が唯一主人公鈴木の存在で現実として成立している。
ストーリーは鈴木と鯨、蝉と1人称が章ごとに変わりながら進行していくが、終盤にかけてそれが混ざり合っていく。
殺し屋シリーズとして続編も出ており、2作目の『マリアビードル』はハリウッド映画『ブレット・トレイン』の原作にもなっている。

「殺し屋シリーズ」一覧

1.『グラスホッパー』(2004)
2.『マリアビードル』(2010)
3.『AX』(2017)


 

11.『ホワイトラビット』(2017)

兎田孝則は焦っていた。新妻が誘拐され、今にも殺されそうで、だから銃を持った。母子は怯えていた。眼前に銃を突き付けられ、自由を奪われ、さらに家族には秘密があった。連鎖は止まらない。ある男は夜空のオリオン座の神秘を語り、警察は特殊部隊SITを突入させる。軽やかに、鮮やかに。「白兎事件」は加速する。誰も知らない結末に向けて。驚きとスリルに満ちた、伊坂マジックの最先端!
「BOOK」データベースより引用

仙台のとある民家で起きた人質立て篭り事件(白兎事件)の全貌を記した物語。
章ごとに細かく視点を変えていったり、時系列を前後させたりする手法は初期の頃からの伊坂作品ならではだが、物語全体を通したストーリーテラーがいることは新たな試みではないだろうか。
ストーリーテラーが物語を紡ぐことによりミスリードを誘い、中盤〜終盤にかけては立てこもり事件を形成する幾つかの要素が芋づる式に解明されていく。
2017年と最近の作品ではあるが、往年の人気キャラ?黒澤も登場する(だけでなく大きな役割を果たす)ので、初期の頃からのファンも楽しめる作品。


 

12.『逆ソクラテス』(2020)

逆境にもめげず簡単ではない現実に立ち向かい非日常的な出来事に巻き込まれながらもアンハッピーな展開を乗り越え僕たちは逆転する!無上の短編5編(書き下ろし3編)を収録。
「BOOK」データベースより引用

デビューから20年、2020年に刊行され、第33回柴田錬三郎賞を受賞した短編集。
表題作をはじめ、収録されている5編全てのタイトルに、”非〜〜”など否定を意味する言葉が含まれているのが特徴的。
そこから連想出来るように、日常に存在する先入観や当たり前にNOを突きつけるストーリーになっており、他の伊坂作品と比較すると子供でも楽しめる内容となっている。
勿論それだけでは終わらず、あっと驚くラストが待っているのはさすがの一言。デビュー20周年の集大成にふさわしい作品で、本屋大賞2021でも4位にランクインしている。


 

13.『ラッシュライフ』(2002)

泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。幕間には歩くバラバラ死体登場―。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。
「BOOK」データベースより引用

仙台駅を中心に展開される4+1=5つのストーリー。短編集ではなく、物語は細かい章に区切られ、其々のストーリーの主要人物の視点から順番に語られていく長編小説の体を成している。
一見独立した物語が交錯し合う様子は、まさにあらすじにあるように「騙し絵」のようであり、読み終わった後にもう一度最初から読み返すことで、繋がりがより理解できる。
予想が付かないストーリー展開であることは確かだが、バラバラ死体の真相が明かされるわけではないことに注意。


 

14.『夜の国のクーパー』(2012)

目を覚ますと見覚えのない土地の草叢で、蔓で縛られ、身動きが取れなくなっていた。仰向けの胸には灰色の猫が座っていて、「ちょっと話を聞いてほしいんだけど」と声を出すものだから、驚きが頭を突き抜けた。「僕の住む国では、ばたばたといろんなことが起きた。戦争が終わったんだ」猫は摩訶不思議な物語を語り始める―これは猫と戦争、そして世界の秘密についてのおはなし。
「BOOK」データベースより引用

言葉を話す猫や鼠たちが登場するファンタジーの世界観、二つの対立する国に何故か仙台に居住する男性が迷い込む、という物語。
某大人気漫画を想起させるような仕掛けに途中で気付く読者もいるだろうが、著者も述べているようにミステリー仕立てとなっている。
鉄国の兵士たちの目的は何か?クーパーとは何か?作品によっては説明がされぬまま結末を迎えるような設定や謎が、物語が進むにつれ表面化し、そして終盤にかけて鮮やかに解決されていく。
『アヒルと鴨のコインロッカー』同様、創元推理文庫から出版されており、ミステリーとして楽しむことが出来る作品。


 

15.『残り全部バケーション』(2012)

当たり屋、強請りはお手のもの。あくどい仕事で生計を立てる岡田と溝口。ある日、岡田が先輩の溝口に足を洗いたいと打ち明けたところ、条件として“適当な携帯番号の相手と友達になること”を提示される。デタラメな番号で繋がった相手は離婚寸前の男。かくして岡田は解散間際の一家と共にドライブをすることに―。その出会いは偶然か、必然か。裏切りと友情で結ばれる裏稼業コンビの物語。
「BOOK」データベースより引用

当たり屋の岡田と溝口、2人のコンビの物語であるが、実際には岡田は溝口や他の登場人物の口から語られる方が多い。
全5編を収録した短編数だが、裏稼業という職業からは想像の付かない岡田の誠実な人柄が作品を通して語られており、まるで一つの長編小説を読んでいるような気分になる。
序盤からの伏線が「短編」の枠を超え、最後に回収される様は圧倒的。初期の頃のようなぶっ飛んだ展開は無いものの、完成度の高さを感じさせる良作。


 

16.『魔王』(2005)

会社員の安藤は弟の潤也と二人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて、一人の男に近づいていった。五年後の潤也の姿を描いた「呼吸」とともに綴られる、何気ない日常生活に流されることの危うさ。新たなる小説の可能性を追求した物語。
「BOOK」データベースより引用

念じたことを人に発言させる“腹話術”の能力を持った会社員の安藤が、能力を武器にファシズムと戦う、政治色の強い物語。
何気ない日常から大衆心理に潜んでいる危うさを描き出し、安藤が自らの能力に気づくまでの過程を描いた前半部分は最高なだけに、やや風呂敷を広げっぱなしと思える後半部分がもったいない。
なお本作品は『魔王 JUVENILE REMIX』というタイトルで少年サンデーにて漫画化されている。
また安藤の弟潤也の5年後を描いた「呼吸」も同時収録されているが、こちらは別作品『モダンタイムズ』と合わせて読むと繋がりを感じられる。


 

17.『ガソリン生活』(2013)

のんきな兄・良夫と聡明な弟・亨がドライブ中に乗せた女優が翌日急死!パパラッチ、いじめ、恐喝など一家は更なる謎に巻き込まれ…!?車同士がおしゃべりする唯一無二の世界で繰り広げられる、仲良し家族の冒険譚!愛すべきオフビート長編ミステリー。
「BOOK」データベースより引用

車が意思を持ち話すことが出来る、おとぎ話のような設定の物語。
車同士での会話に加えて人間の話を理解は出来るが、車と人間での会話は出来ないという設定である。
読者は車の一人称の視点に立ち、人間が乗車している時の会話内容や、あるいは車同士の会話によって情報を得ていく。この世界観と設定が絶妙なのである。
望月家はもちろん主要人物のキャラが立っており、彼らによるテンポの良い会話もさることながら、それに負けずとも劣らない車同士の会話。細やかな伏線も随所に散りばめられており、大長編ながら全く飽きずに楽しむことが出来る。


 

18.『フィッシュストーリー』(2007)

最後のレコーディングに臨んだ、売れないロックバンド。「いい曲なんだよ。届けよ、誰かに」テープに記録された言葉は、未来に届いて世界を救う。時空をまたいでリンクした出来事が、胸のすくエンディングへと一閃に向かう瞠目の表題作ほか、伊坂ワールドの人気者・黒澤が大活躍の「サクリファイス」「ポテチ」など、変幻自在の筆致で繰り出される中篇四連打。爽快感溢れる作品集。
「BOOK」データベースより引用

あらすじにある通り、複数の伊坂作品に登場する人気キャラクター黒澤をはじめ、『オーデュボンの祈り』『ラッシュライフ』の登場人物などが代わる代わる登場する短編集。
収録されている4編の内、ほとんどがキャラクターを知っていることを前提に描かれている(ような気がする)ため、上の2作品は必読。+で『重力ピエロ』も読んでおいた方がより楽しめる。
表題作ではないけれど『ポテチ』は黒澤にゆかりのあるサブキャラクター今村に焦点を当てており、ラストは感動の名作。


 

19.『フーガはユーガ』(2018)

常盤優我は仙台市のファミレスで一人の男に語り出す。双子の弟・風我のこと、決して幸せでなかった子供時代のこと、そして、彼ら兄弟だけの特別な「アレ」のこと。僕たちは双子で、僕たちは不運で、だけど僕たちは、手強い
「BOOK」データベースより引用

年に一回、誕生日にのみ発動出来る特殊能力を持った双子風我と優我の物語。
まるで自身がそうだったかと思うくらい、お互いを近くに感じている双子ならではの表現力が作品の随所に散りばめられている。
主要人物たちの家庭環境に難があるだけでなく、作中で起こる事件も切り取ってみれば胸糞悪いが、軽く適度にコミカルな会話により、作品を通して見ると不快感を残さない。全体としてうまくまとまっており、円熟味を感じさせる作品。


 

20.『終末のフール』(2006)

八年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡する。そう予告されてから五年が過ぎた頃。当初は絶望からパニックに陥った世界も、いまや平穏な小康状態にある。仙台北部の団地「ヒルズタウン」の住民たちも同様だった。彼らは余命三年という時間の中で人生を見つめ直す。家族の再生、新しい生命への希望、過去の恩讐。はたして終末を前にした人間にとっての幸福とは?今日を生きることの意味を知る物語。
「BOOK」データベースより引用

小惑星衝突による地球滅亡へのカウントダウンが進む中で、人生を見つめ返しながら生きる人々の姿を描いた短編集。
地球滅亡への予告がされてから5年、Xデーまで3年という世界観/時間設定が絶妙。混乱が小康状態にある中で、片田舎の団地で暮らす住人の触れ合いには優しさが感じられる。
あらすじからは思いもよらない程「重さ」を感じない作品であり、淡々とした語り口調で進んでいく物語には、運命を受け入れつつもその中で生きる意味を見つけ出し生活をする人間の強さが描かれていると思う。


 

21.『バイバイ、ブラックバード』(2010)

星野一彦の最後の願いは何者かに“あのバス”で連れていかれる前に、五人の恋人たちに別れを告げること。そんな彼の見張り役は「常識」「愛想」「悩み」「色気」「上品」―これらの単語を黒く塗り潰したマイ辞書を持つ粗暴な大女、繭美。なんとも不思議な数週間を描く、おかしみに彩られた「グッド・バイ」ストーリー。特別収録:伊坂幸太郎ロングインタビュー。
「BOOK」データベースより引用

未完のまま絶筆となった太宰治の小説『グッドバイ』を完結させないか、と出版社より持ち込まれた企画を元に執筆された小説。
企画どおり『グッドバイ』の完結編とはならなかったが、自身の恋人に別れを告げる、というコンセプトは受け継がれている。主人公星野から別れを告げられる5人の女性たちの対応が、非常にさっぱりしていて気持ちが良い。
一方でこの小説の肝は繭子という異質の存在。身長200cm/体重120kgという巨体の女が終盤にかけて良い働きをするのだが、それ故ラストは風呂敷を広げっ放しの感が否めない。
文庫版は作者のロングインタビューが収録されており、こちらも必読。


 

22.『チルドレン』(2004)

「俺たちは奇跡を起こすんだ」独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むが、なぜか憎めない男、陣内。彼を中心にして起こる不思議な事件の数々―。何気ない日常に起こった五つの物語が、一つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。ちょっとファニーで、心温まる連作短編の傑作。
「BOOK」データベースより引用

家庭裁判所の調査官として働く男、陣内を主人公に、彼の奔放な性格に翻弄される周囲の人物の様子を描いた短編集。
それぞれの作品ごとに時系列が異なり、学生時代や社会人時代など幅広い年代のエピソードが順不同で収録されている。
自由気ままに振る舞いつつも優しさを持つ主人公陣内は勿論の事、学生時代の友人や家庭裁判所の後輩など彼の振る舞いに影響を受ける脇役たちもとても魅力的。続編の『サブマリン』も合わせて、非常に優しい気持ちになれる作品。

「陣内シリーズ」一覧

1.『チルドレン』(2004)
2.『サブマリン』(2016)


 

23.『モダンタイムズ』(2008)

恐妻家のシステムエンジニア・渡辺拓海が請け負った仕事は、ある出会い系サイトの仕様変更だった。けれどもそのプログラムには不明な点が多く、発注元すら分からない。そんな中、プロジェクトメンバーの上司や同僚のもとを次々に不幸が襲う。彼らは皆、ある複数のキーワードを同時に検索していたのだった。
「BOOK」データベースより引用

前作『魔王』から50年後を舞台に、あるサイトのシステム変更を請負ったエンジニアが事件に巻き込まれていく様を描いた物語。
「アリ(個人)は賢くないけど、コロニー(仕組みや枠組み)は賢い」-。現代のIT社会に生きる全てのものへ警鐘を鳴らすメッセージ性、また中盤から徐々にテンポが上がり、終盤にかけては息つく間も無い疾走感を感じる。
犬養や安藤など『魔王』の登場人物も出てくるため、本作の前に『魔王』は必読である。


 

24.『SOSの猿』(2009)

三百億円の損害を出した株の誤発注事件を調べる男と、ひきこもりを悪魔秡いで治そうとする男。奮闘する二人の男のあいだを孫悟空が自在に飛び回り、問いを投げかける。「本当に悪いのは誰?」はてさて、答えを知るのは猿か悪魔か?そもそも答えは存在するの?面白くて考えさせられる、伊坂エンターテインメントの集大成。
「BOOK」データベースより引用

漫画家五十嵐大介との競作企画により誕生した作品で、コンセプトはエクソシスト×西遊記。五十嵐大介の作品『SARU』といわば対を成す関係となっており、こちらも読めばより楽しめるだろう。
本作は株のご発注事件を調べる「猿の話」と悪魔祓いにより引きこもりを解決しようとする「私の話」、異なる2つの話が交互に展開され、次第にそれらが混ざり合っていく。
先が読めない展開、発想の柔軟性がそこかしこに感じられる。伊坂作品に慣れている読者ほど楽しめる作品ではないだろうか。


 

25.『ジャイロスコープ』(2015)

助言あります。スーパーの駐車場にて“相談屋”を営む稲垣さんの下で働くことになった浜田青年。人々のささいな相談事が、驚愕の結末に繋がる「浜田青年ホントスカ」。バスジャック事件の“もし、あの時…”を描く「if」。謎の生物が暴れる野心作「ギア」。洒脱な会話、軽快な文体、そして独特のユーモアが詰まった七つの伊坂ワールド。書下ろし短編「後ろの声がうるさい」収録。
「BOOK」データベースより引用

巨大な生物に侵食された世界を描いたSF設定の物語『ギア』など、7つの短編を収録した短編集。
どれも細やかな伏線と非日常を描いた伊坂ワールド全開の短編たちだが、他の作品と比較すると当たり外れはある印象。
また文庫版巻末には、15年の作家生活を振り返った貴重な著者のインタビューも収録されている。ファンなら必読の内容である。


 

26.『あるキング』(2009)

この作品は、いままでの伊坂幸太郎作品とは違います。意外性や、ハッとする展開はありません。あるのは、天才野球選手の不思議なお話。喜劇なのか悲劇なのか、寓話なのか伝記なのか。キーワードはシェイクスピアの名作「マクベス」に登場する三人の魔女、そして劇中の有名な台詞。「きれいはきたない」の原語は「Fair is foul.」。フェアとファウル。野球用語が含まれているのも、偶然なのか必然なのか。バットを持った孤独な王様が、みんなのために本塁打を打つ、そういう物語。
「BOOK」データベースより引用

仙台にある球団に所属する天才バッターの一生を描いた物語。
登場人物たちによるユーモア溢れる会話や突然現れる非日常はありつつも、著者本人が語っているようにかなり異色な作品である。
シェイクスピアの『マクベス』要素を絡めて作品に広がりを持たせようとしている意図は伝わってくる、文章力も高くそこまで長編でないのですらすらと読めてしまうが、逆に物語全体として起伏に欠ける作品である。


 

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