【2024年版】超面白いおすすめ国内小説100冊!人生を豊かにする名作を厳選紹介!

この記事では、私が今まで読んできた小説の中から、ミステリーや恋愛,時代小説などジャンルを問わず、自信を持っておすすめできる小説を100冊紹介していきます。

こんな方々におすすめです。

・とにかく面白い小説が知りたい!
・普段読まないジャンルや作家のおすすめ小説を探したい!

なお便宜上1〜100までの順番を付けておりますが、これはあくまで私のお気に入りや、思い入れの強い作品から順序立てて紹介しているためです。間違っても作品の優劣を付けるものではありませんので、予めご了承ください。

またここに紹介する作品の大部分が電子書籍で読むことが可能です。もちろん紙には紙の良さがありますが、安く買えたり場所を取らなかったりと電子書籍のメリットもあります。是非平行してご利用ください。

読みたい作品がきっと見つかる!おすすめの国内小説100選!!

作品を紹介する前に、今回100作品を選ぶに当たってもうけた3つの縛り(ポリシー)を説明します。

1.紹介するのは1人の作家に対して1作品のみ
→自分の好きな作家の作品が集中してしまうのを避けるためで、出来るだけ多くのジャンル/作家の作品を幅広く紹介したいという想いもあります。

2.紹介するのは昭和以降に発表された作品のみ
→明治や大正の近代文学まで広げると100作品に収まりきらないので、どこかで線を引く必要があったためです。夏目漱石や森鴎外などの作品はいずれ別記事で紹介したいと思っています。

3.紹介するのは国内小説のみ
→2と同じく100作品に収めるため、国内文学に限定しています。海外作品については下記関連記事で紹介しています。

それでは、ここからいよいよおすすめ小説100冊、紹介です!!

 

1.『火車』/宮部みゆき

休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して―なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?いったい彼女は何者なのか?謎を解く鍵は、カード会社の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。
「BOOK」データベースより引用

自らの意思で婚約者の前から失踪した女性を捜索する、親戚の刑事の奮闘を描いたミステリー小説。
ミステリーとしても一級品でありながら、タイトルから連想できる「火の車」の通り、クレジットカードローンという現代社会に潜む闇を扱った社会派小説としても後世に語り継がれるべき名作。
クレジットカードが現在ほど身近でなかった1990年代にこの題材を扱える著者の力量にただただ脱帽する。
ミステリーだけでなくSFやファンタジー、時代小説と様々なジャンルで優れた作品を発表し続ける宮部みゆき作品の中でも特におすすめな本作品をNo.1に選出。


 

2.『海賊と呼ばれた男』/百田尚樹

一九四五年八月十五日、敗戦で全てを失った日本で一人の男が立ち上がる。男の名は国岡鐡造。出勤簿もなく、定年もない、異端の石油会社「国岡商店」の店主だ。一代かけて築き上げた会社資産の殆どを失い、借金を負いつつも、店員の一人も馘首せず、再起を図る。石油を武器に世界との新たな戦いが始まる。
「BOOK」データベースより引用

出光興産の創業者出光佐三をモデルとし、戦後の日本で石油業に邁進する主人公の一生を描いた作品。
社員を守りながら自社と国の発展のため奔走した主人公の生き様を熱量を持って語りつつ、当時の時代背景や石油産業を取り巻く環境、その中で国岡商店が大企業として成長していく様子が語られている。
しばしば右寄りの思考・言動が取りざたされる著者ではあるが、そんなことは気にならない程歴史経済小説として圧倒的な完成度を誇る。
歴代の本屋大賞受賞作品は大衆向けの小説として完成された名作揃いであるが、本作品はその中でもダントツでおすすめしたい作品である。


 

3.『坂の上の雲』/司馬遼太郎

明治維新をとげ、近代国家の仲間入りをした日本は、息せき切って先進国に追いつこうとしていた。この時期を生きた四国松山出身の三人の男達―日露戦争においてコサック騎兵を破った秋山好古、日本海海戦の参謀秋山真之兄弟と文学の世界に巨大な足跡を遺した正岡子規を中心に、昂揚の時代・明治の群像を描く長篇小説全八冊。
「BOOK」データベースより引用

日本を代表する歴史小説家であり、ノンフィクション作家・評論家としても活躍した司馬遼太郎の代表作。
まるで過去に実在し当時の日本を見聞きしていたかのように臨場感のあるやり取りや、史実をベースに練られた詳細設定は圧倒的な重厚さを誇る。
竜馬がゆく』『燃えよ剣』など代表作は多数あるが、本作品を選んだ理由は、著者が初めて近代を扱った作品であることや、主人公の秋山兄弟の存在が大きい。
本日天気晴朗(せいろう)ナレドモ浪高シ」という名言を知る人も多いだろう。彼らの才能をこの作品を通してたっぷりと感じてほしい。
明治維新〜日清・日露戦争を経て近代国家として成長していきながらも、その後の昭和の大戦を予見させる当時の時代背景は、危うさも多分に含まれてはいるが非常に魅力的でもある。歴史に興味が無い・歴史小説を読まない人にこそ読んでほしい作品。


 

4.『氷点』/三浦綾子

辻口病院長夫人・夏枝が青年医師・村井と逢い引きしている間に、3歳の娘ルリ子は殺害された。「汝の敵を愛せよ」という聖書の教えと妻への復讐心から、辻口は極秘に犯人の娘・陽子を養子に迎える。何も知らない夏枝と長男・徹に愛され、すくすくと育つ陽子。やがて、辻口の行いに気づくことになった夏枝は、激しい憎しみと苦しさから、陽子の喉に手をかけた―。愛と罪と赦しをテーマにした著者の代表作であるロングセラー。
「BOOK」データベースより引用

塩狩峠』と並び、昭和のクリスチャン作家として知られる三浦綾子の代表作。
陽子の出自を巡る目まぐるしいストーリー展開はもちろん素晴らしいが、とにかく登場人物の心理描写が濃厚、これに尽きる。
嫉妬に狂い、憎しみに燃え、通常の心理状態では考えられないような行動を取る人間の狂気が文面から伝わってくる迫力は、半世紀以上経った現代でも全く色褪せることなく、読む者に衝撃を与えるだろう。
原罪」をテーマにした本作品はもちろん、他作品にもクリスチャンの思想が反映されているのが三浦綾子作品の特徴。
日本国内で宗教を色濃く映す作風は古今東西見渡しても珍しいが、何より小説としての面白さがずば抜けているので、信仰に依らず楽しめるのが三浦綾子作品の素晴らしさである。


 

5.『銀河鉄道の夜』/宮沢賢治

貧しく孤独な少年ジョバンニが、親友カムパネルラと銀河鉄道に乗って美しく悲しい夜空の旅をする、永遠の未完成の傑作である表題作や、「よだかの星」「オツベルと象」「セロ弾きのゴーシュ」など、イーハトーヴォの切なく多彩な世界に、「北守将軍と三人兄弟の医者」「饑餓陣営」「ビジテリアン大祭」を加えた14編を収録。賢治童話の豊饒な味わいをあますところなく披露する。
「BOOK」データベースより引用

教科書にも広く題材として使用され、知らないものはいない国民的作家である宮沢賢治。生前は全く知名度が高くなかったというから驚きである。
その代表作のひとつである本作『銀河鉄道の夜』は、著者の死により永遠の未完となってしまった点や、それ故に様々な解釈が行われている点が特徴。
本作に影響を受けて多くの映像や演劇作品が作られていることからも分かるように、多くの造語を用いた幻想的な世界観は唯一無二。
特に「銀河ステーション」以降、銀河鉄道に乗ってから夜空に浮かぶ天体の描写や乗客との会話がメインとなる後半部分は、ファンタジー小説として非常に魅力的である。
主人公ジョバンニの置かれている環境、親友カムパネルラとの会話、そして突如訪れるラスト。この切なさや儚さを表現出来る作家は今後現れるのだろうか。
なお本作は『Kindle Unlimited』読み放題対象作品である。


 

6.『舟を編む』/三浦しをん

出版社の営業部員・馬締光也は、言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれた。新しい辞書『大渡海』の完成に向け、彼と編集部の面々の長い長い旅が始まる。定年間近のベテラン編集者。日本語研究に人生を捧げる老学者。辞書作りに情熱を持ち始める同僚たち。そして馬締がついに出会った運命の女性。不器用な人々の思いが胸を打つ本屋大賞受賞作!
「BOOK」データベースより引用

平凡な出版社の営業社員が、とあるきっかけで自らの持つ言葉へのこだわり・センスを見出され、辞書編集に携わることになる、という物語。
辞書編集という特殊な仕事をうまくストーリーに組み込み、生きた言葉を扱うことの難しさや言葉の持つ暖かさに触れた、文学作品としての魅力に溢れた作品。
また主人公を始め登場人物の魅力も本作を語る上では欠かせない。
人生をかけてひたむきに仕事に取り組む姿勢は自らを変えるだけでなく、周囲を動かすことも出来るのだと考えさせられる作品である。


 

7.『蜜蜂と遠雷』/恩田陸

近年その覇者が音楽界の寵児となる芳ヶ江国際ピアノコンクール。自宅に楽器を持たない少年・風間塵16歳。かつて天才少女としてデビューしながら突然の母の死以来、弾けなくなった栄伝亜夜20歳。楽器店勤務のサラリーマン・高島明石28歳。完璧な技術と音楽性の優勝候補マサル19歳。天才たちによる、競争という名の自らとの闘い。その火蓋が切られた。
「BOOK」データベースより引用

国際的なピアノコンクールを舞台に、若干16歳の少年や天才少女、アラサーのサラリーマンなどの実力者たちの奮闘を描いた群像劇。
ピアニストだけでなく彼らを評価する審査員たちの立場からもストーリーが展開されることで、多角的な視点からピアノコンクールが描写され、奥行きの深い物語となっている。
本作の特徴はなんといっても音楽を文字で表現しきっているところ。
クラシックの知識に疎くても息がつまるような緊張感を覚える迫力のある演奏シーンは圧巻で、取材〜完成までに10年を要したという作者の取材力の高さが伺える。


 

8.『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』/村上春樹

高い壁に囲まれ、外界との接触がまるでない街で、そこに住む一角獣たちの頭骨から夢を読んで暮らす〈僕〉の物語、“世界の終り”。老科学者により意識の核に或る思考回路を組み込まれた〈私〉が、その回路に隠された秘密を巡って活躍する“ハードボイルド・ワンダーランド”。静寂な幻想世界と波瀾万丈の冒険活劇の二つの物語が同時進行して織りなす、村上春樹の不思議の国。
「BOOK」データベースより引用

「世界の終わり」と「ハードボイルド・ワンダーランド」、二つの世界の物語が交互に語られるパラレルワールドを描いたSF小説。
二重構造を形成する二つの世界がやがて重なり合い収束していく過程は時代を感じさせない程見事で、このカオスっぷりこそ村上春樹の真骨頂ではないだろうか。
もちろんSFとはいえ、性描写や日常生活の異質さなど、村上作品ならではのエッセンスもバッチリ含まれている。
『海辺のカフカ』『ノルウェイの森』『1Q84』など有名作品はあげればキリがない。50以上の国と地域で読まれ、ハルキストと呼ばれる熱心なファンが存在する村上春樹。その小説の中でも、個人的にはこれが取っつきやすさNo.1だと思う。


 

9.『コインロッカーベイベーズ』/村上龍

一九七二年夏、キクとハシはコインロッカーで生まれた。母親を探して九州の孤島から消えたハシを追い、東京へとやって来たキクは、鰐のガリバーと暮らすアネモネに出会う。キクは小笠原の深海に眠るダチュラの力で街を破壊し、絶対の解放を希求する。毒薬のようで清清しい衝撃の現代文学の傑作が新装版に。
「BOOK」データベースより引用

生後すぐ母親によってコインロッカーに放置されながら奇跡的に生き延びたキクとハシ。
幼少期に癒えない傷を負った2人の破壊衝動に身をまかせるような暴力的な描写はもちろん、異常に敏感な触覚や嗅覚など、精神的な不安定さを純度100%で表現している。
作品のテーマでもある「破壊」と、1ページ先の展開すら予測できない破天荒っぷりは平成以降の文学では再現不可能なのではないか。
シリーズではないが、デビュー作『限りなく透明に近いブルー』、2作目の『海の向こうで戦争が始まる』を経てから本作を読むと、本作に込められた破壊衝動の変遷が感じられ、より楽しめる。


 

10.『深夜特急』/沢木耕太郎

インドのデリーからイギリスのロンドンまで、乗合いバスで行く―。ある日そう思い立った26歳の〈私〉は、仕事をすべて投げ出して旅に出た。途中立ち寄った香港では、街の熱気に酔い痴れて、思わぬ長居をしてしまう。マカオでは、「大小」というサイコロ博奕に魅せられ、あわや…。1年以上にわたるユーラシア放浪が、今始まった。いざ、遠路2万キロ彼方のロンドンへ。
「BOOK」データベースより引用

数々のノンフィクション小説発表、文学賞受賞を誇る著者自身による、インド-ロンドン間乗り合いバスの旅を描いた旅行記。
バックパッカーのみならず旅行好きなら誰もが知っている、旅行者のためのバイブル的存在の小説。
旅のコンセプトの通り、決まっているのは目的地のみ。スマホどころか携帯電話すら無い時代に身体一つで旅をするからこそ、旅先での予想外の出来事や人々との出会いがある。
ある意味無計画とも取れるが、その自由さが世代を超え、いつの時代も読む人々を魅了するのだと思う。


 

11.『沈まぬ太陽』/山崎豊子

広大なアフリカのサバンナで、巨象に狙いをさだめ、猟銃を構える一人の男がいた。恩地元、日本を代表する企業・国民航空社員。エリートとして将来を嘱望されながら、中近東からアフリカへと、内規を無視した「流刑」に耐える日々は十年に及ぼうとしていた。人命をあずかる企業の非情、その不条理に不屈の闘いを挑んだ男の運命―。人間の真実を問う壮大なドラマが、いま幕を開ける。
「BOOK」データベースより引用

社会問題を書かせたら右に出るものはいないのではないか?社会派小説の母とも言うべき山崎豊子が、JAL123便墜落事故を扱ったのが本作『沈まぬ太陽』である。
実在する人物や出来事を、最低限の脚色は加えつつもありのままを追求し語り尽くす、この山崎豊子の代名詞とも言える作品の骨組みがあるからこそ、作品越しに人のリアルな生を観るという魅力から読者は逃れられない。
ちなみにJAL123便墜落事故は様々な媒体でメディア化されており、有名どころで言えば後述する横山秀夫氏の『クライマーズ・ハイ』も視点こそ違えどまた名作である。
なお山崎豊子の代表作と言う観点で言えば、本作品ではなく『白い巨塔』『不毛地帯』『華麗なる一族』等を挙げる人の方がむしろ多いかもしれない。この選択は私個人の生い立ちに関係するためご容赦願いたい。


 

12.『十角館の殺人』/綾辻行人

十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の七人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて学生たちを襲う連続殺人。ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける!
「BOOK」データベースより引用

1987年に刊行された著者のデビュー作は、それまでの本格派推理小説と一線を画す内容から「新本格派」と呼ばれ、90年代前半にかけ新本格派ブームを巻き起こすきっかけとなった。
綾辻行人といえば新本格ミステリーの中心的存在であり、国内ミステリーにおいて本作及び著者がもたらした影響はあまりにも大きい。
ミステリーとしてのクオリティは言わずもがな、ラストの1ページ(1行)を読んだ時の衝撃は、何年経っても鮮明に記憶に残る程。この1ページのために読む価値は十二分にあると断言出来る。
なお本作は人気シリーズ『館シリーズ』の1作目でもある。2作目以降も名作揃いなので是非全作品読破をおすすめする。


 

13.『深い河』/遠藤周作

人生の岐路で死を見た人々が、過去の重荷を心の奥にかかえながら、深い河のほとりに立ち何を思うのか。神の愛と人生の神秘を問う、著者渾身の感動的作品。純文学書下し。 –このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
「BOOK」データベースより引用

妻を亡くした者、九死に一生を得た者、様々なバックグラウンドを持った人々がインドへのツアー旅行を経てやがてガンジス川へ辿り着く。
彼らがインドへ来た理由や隠された”想い“に一つずつ寄り添いながら、宗教文化の尊さに触れた名作。
宗教とは何か、信仰とは何か。大部分が無宗教である日本人にとってしばしばネガティブなイメージを持って語られるテーマであるが、自分には関係ないと無関心でいるにはあまりにももったいない。
著者自身はクリスチャンであるものの、仏教やヒンドゥー教への理解や知識の深さにも驚かされる。
また佐伯彰一氏のあとがきは、更にこの作品の余韻に浸るに過不足なく素晴らしい。


 

14.『蒼穹の昴』/浅田次郎

汝は必ずや、あまねく天下の財宝を手中に収むるであろう―中国清朝末期、貧しき糞拾いの少年・春児は、占い師の予言を通じ、科挙の試験を受ける幼なじみの兄貴分・文秀に従って都へ上った。都で袂を分かち、それぞれの志を胸に歩み始めた二人を待ち受ける宿命の覇道。万人の魂をうつべストセラー大作。
「BOOK」データベースより引用

19世紀末の清朝末期を舞台に、貧しき糞拾いの少年が星読みの占いに従い上京し、やがて壮絶な宿命に巻き込まれていくという覇道を描いた歴史小説。
この時代の中華の様子を描いた作品がそもそも珍しく、教科書程度の(日本国側から見た)知識しか知らない人も多いだろうが、清朝内部の政治動向や科挙の人材登用の壮絶さなど、歴史的背景を詳細に描いた重厚な小説である。
またそれら史実をベースにしつつも読者を惹きつけて離さないストーリー展開と、文秀ら登場人物の魅力あるキャラクターが素晴らしい。
時代や媒体など異なるが、漫画『キングダム』の小説版の位置付けだと思っている。
『鉄道屋』『地下鉄に乗って』など他ジャンルの著作も充実しているが、著者をして「この作品を書くために小説家になった」と言わしめるほどの力作であり名作。


 

15.『蝉しぐれ』/藤沢周平

清流とゆたかな木立にかこまれた城下組屋敷。普請組跡とり牧文四郎は剣の修業に余念ない。淡い恋、友情、そして非運と忍苦。苛烈な運命に翻弄されつつ成長してゆく少年藩士の姿を、精気溢れる文章で描きだす待望久しい長篇傑作!
「BOOK」データベースより引用

江戸時代の日本、架空の「海坂藩」を舞台に、1人の少年が恋や友情、親子の絆等を通して一人前の藩士に成長していく過程を描いた時代小説。
多くを求めず、時には大事なものを諦めなくてはいけない、そしてそれを嘆くことなく受け入れるこの時代の人々の儚さが、作品を通して痛いほど伝わってくる。
日本人の美徳とも言える謙虚さがとても美しく語られていて、そしてタイトルの「蝉しぐれ」をはじめ、田舎の情景描写がその美しさをさらに引き立てている。
これほどに切なく、静かに読者の心を揺さぶってくる時代小説は他にない。
また架空の藩と言いつつも練られた詳細設定は多岐に及び、到底フィクションとは思えない。なお「海坂藩」は『たそがれ清兵衛』など他の藤沢作品にも登場する。


 

16.『リヴィエラを撃て』/高村薫

1992年冬の東京。元IRAテロリスト、ジャック・モーガンが謎の死を遂げる。それが、全ての序曲だった―。彼を衝き動かし、東京まで導いた白髪の東洋人スパイ『リヴィエラ』とは何者なのか?その秘密を巡り、CIAが、MI5が、MI6が暗闘を繰り広げる!空前のスケール、緻密な構成で国際諜報戦を活写し、絶賛を浴びた傑作。
「BOOK」データベースより引用

重厚な社会派サスペンスを描く魅力的な書き手、高村薫。日本推理作家協会賞も受賞した彼女の代表作は米英中と日本、世界を股にかけた国際諜報戦に、北アイルランド問題を絡めたスパイ小説。
物語の鍵を握る白髪の東洋人リヴィエラの素性を各国の諜報部員や地元警察らが彼の素性を追い求める、という流れの中である殺人事件の被害者と加害者、黒幕といった全容が次第に見えてくる。
ストーリー展開も素晴らしいが、何と言ってもこの作品の魅力は登場人物を突き動かす”信念“であり、それを文面から感じることで得られる”臨場感“である。
CIAやMI5,6、日英の地元警察にIRAのテロリスト。立場は違えど皆それぞれの国や組織が掲げる”信念”の元に行動しており、そこには彼らなりの”正義“が生まれるわけである。多くの国・組織に股がる登場人物を巧みに操り、これほど臨場感のある作品を描くことの出来るという事実に感動すら覚える。


 

17.『夜は歩けよ短し乙女』/森見登美彦

「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。山本周五郎賞を受賞し、本屋大賞2位にも選ばれた、キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作。
「BOOK」データベースより引用

京都の情緒溢れる街並みと、独特の語り口調が特徴の森見登美彦の代表作。
上記はほぼ全作品に共通した特徴であり、自らの作風をここまで貫き、結果を残し続けている作家も珍しい。
ともすれば通り一辺倒と飽きられかねないリスクを、登場人物の魅力と言葉のセンスで吹き飛ばしてしまうのだから見事と言うほかない。
本作品は主人公の男子大学生と、後輩である黒髪の乙女による恋愛ファンタジーで、彼らの恋物語をそれぞれの視点から交互に描いている。
古風な言い回しも奇想天外な出来事も、森見作品ならではの魅力を余すところなく味わえる。山本周五郎賞受賞に加え2017年にはアニメ映画化もされた人気作品。


 

18.『阪急電車』/有川浩

隣に座った女性は、よく行く図書館で見かけるあの人だった…。片道わずか15分のローカル線で起きる小さな奇跡の数々。乗り合わせただけの乗客の人生が少しずつ交差し、やがて希望の物語が紡がれる。恋の始まり、別れの兆し、途中下車―人数分のドラマを乗せた電車はどこまでもは続かない線路を走っていく。ほっこり胸キュンの傑作長篇小説。
「BOOK」データベースより引用

兵庫県宝塚市の宝塚駅から西宮市の西宮北口駅まで。実在する阪急電鉄の阪急今津線を舞台に、沿線に暮らす人々の生活、出会いや別れを描いた連作短編集
偶然乗り合わせた乗客たちがほんの一瞬心を通わせる瞬間、それぞれに感情の機微が感じられる爽やかな群青劇となっている。
有川浩作品全般に言えることだが、本作品も御多分に洩れず実写映画版がまたなんとも素晴らしい。
阪急沿線の静かでどこか上品な情景を阪急電車を中心にたっぷりと見せ、俳優陣も演技派揃いのキャスティングと死角無しの名作となっている。


 

19.『人間失格』/太宰治

「恥の多い生涯を送ってきました」3枚の奇怪な写真と共に渡された睡眠薬中毒者の手記には、その陰惨な半生が克明に描かれていました。無邪気さを装って周囲をあざむいた少年時代。次々と女性に関わり、自殺未遂をくり返しながら薬物におぼれていくその姿。「人間失格」はまさに太宰治の自伝であり遺書であった。作品完成の1か月後、彼は自らの命を断つ。
「BOOK」データベースより引用

1948年、愛人とともに入水自殺した太宰治が死ぬ1ヶ月前に完成させた遺作である『人間失格』。
一人称の独白形式で展開される本作品は、彼自身の幼少期や、乱れた生活を赤裸々に書き綴った自叙伝とも言える内容である。
他人に言えず自分の中に秘めている暗い部分を見ているかのような迫力に、怖いもの見たさで最後まで読んでしまう人が多いのではないか。
感想は人それぞれだが、個人的には何気ない会話を出来る「友人」の存在、その尊さを改めて再確認する。
太宰治は数多くの現代作家に影響を与えており、他には『走れメロス』『斜陽』などが代表作として知られているが、どれもおすすめである。
なお本作は『Kindle Unlimited』読み放題対象作品である。


 

20.『月の影 影の海-十二国記 1-』/小野不由美

「お捜し申し上げました」―女子高生の陽子の許に、ケイキと名乗る男が現れ、跪く。そして海を潜り抜け、地図にない異界へと連れ去った。男とはぐれ一人彷徨う陽子は、出会う者に裏切られ、異形の獣には襲われる。なぜ異邦へ来たのか、戦わねばならないのか。怒濤のごとく押し寄せる苦難を前に、故国へ帰還を誓う少女の「生」への執着が迸る。シリーズ本編となる衝撃の第一作。
「BOOK」データベースより引用

国内で最も人気があるファンタジー小説、と言っても過言ではない『十二国記シリーズ』の1作目。
※『魔性の子』が厳密にいえばエピソード0に当たるのでそちらを紹介してもよかったかもしれない。
天の意思を汲む神聖な生き物である麒麟と、その麒麟に選ばれた十二の王が統べる世界。
古代中国風の世界観はそれだけで世のファンタジーファンを皆虜にするが、さらに個々のキャラクターは魅力的、国同士の繋がりや設定は細部まで綿密に練られているとくれば人気が出ないはずがない。
また人間界とリンクする設定が絶妙に効いていて、十二国で成長していく主人公たちに共感出来るという点でも読者を置いていかない。
なお夫は先ほど紹介した綾辻行人氏。日本が誇る超売れっ子作家夫婦である。


 

21.『オレたちバブル入行組』/池井戸潤

大手銀行にバブル期に入行して、今は大阪西支店融資課長の半沢。支店長命令で無理に融資の承認を取り付けた会社が倒産した。すべての責任を押しつけようと暗躍する支店長。四面楚歌の半沢には債権回収しかない。夢多かりし新人時代は去り、気がつけば辛い中間管理職。そんな世代へエールを送る痛快エンターテインメント小説。
「BOOK」データベースより引用

池井戸潤といえば『下町ロケット』や『空飛ぶタイヤ』、『ルーズヴェルト・ゲーム』などエンタメ色に富んだ経済小説を多数出版されているが、その中でも本シリーズは著者の某メガバンクでの経歴、そしてバンカーとしての矜持が最も濃く反映された作品ではないだろうか。
大手都市銀行に入行し、課長職として働く主人公が行内や取引先に潜む不正を暴いていくという勧善懲悪の爽快ストーリーは、ご都合主義だとか時代錯誤だといった批判が霞んでしまうほどエンターテイメントとして完成されている。
また本作品及びシリーズ続編は、2013/2020年にドラマ化され空前の大ヒットとなった「半沢直樹シリーズ」の原作としても有名である。
日曜劇場(TBS系列日曜午後9時枠)での放送は、月曜日を間近に控え陰鬱とした心持ちのサラリーマンたちにどれほど活力を与えたことだろうか。もちろん小説としても素晴らしいことは間違いないが、本作品に於いてはドラマの影響も無視することはできないだろう。


 

22.『金閣寺』/三島由紀夫

「美は…美的なものはもう僕にとっては怨敵なんだ」。吃音と醜い外貌に悩む学僧・溝口にとって、金閣は世界を超脱した美そのものだった。ならばなぜ、彼は憧れを焼いたのか?現実の金閣放火事件に材を取り、31歳の三島が自らの内面全てを託した不朽の名作。血と炎のイメージで描く“現象の否定とイデアの肯定”―三島文学を貫く最大の原理がここにある。金閣を焼かなければならぬ。破滅に至る青年の「告白」。
「BOOK」データベースより引用

戦後の文学界において三島由紀夫の名を確固たるものにした代表作。他には同じく独白形式の『仮面の告白』や恋愛小説の『潮騒』などがおすすめ。
金閣寺の美しさに魅せられた学僧が、なぜ放火してしまったのか。一人称の独白形式であらましを語っていく。
1950年に実際に起きた金閣寺放火事件をベースにしつつ、美の象徴だった金閣寺を次第に憎むようになる過程における主人公の深層心理をこれでもかというくらい掘り下げている。
硬い文体のためとっつきにくさはあるが、近代文学の傑作と言われる本作を読まない選択肢はないだろう。


 

23.『ゼロの焦点』/松本清張

前任地での仕事の引継ぎに行って来るといったまま新婚一週間で失踪した夫、鵜原憲一のゆくえを求めて北陸の灰色の空の下を尋ね歩く禎子。ようやく手がかりを掴んだ時、“自殺”として処理されていた夫の姓は曾根であった!夫の陰の生活がわかるにつれ関係者がつぎつぎに殺されてゆく。戦争直後の混乱が尾を引いて生じた悲劇を描いて、名作『点と線』と並び称される著者の代表作。
「BOOK」データベースより引用

昭和を代表する社会派ミステリの名手、松本清張の代表作。新婚直後に失踪した夫を妻が探すうちに事件に巻き込まれていくというもの。
昭和前半という当時の時代背景や、その時代を生きた人々の想いを色濃く取り入れた作品。
ミステリーという点では『点と線』のトリックが好きだが、小説として見るとこちらの方が何度も読みたいと思えるのではないか。
事実2度の映画化に加え、多数テレビドラマ化されている名作である。


 

24.『キッチン』/吉本ばなな

家族という、確かにあったものが年月の中でひとりひとり減っていって、自分がひとりここにいるのだと、ふと思い出すと目の前にあるものがすべて、うそに見えてくる―。唯一の肉親の祖母を亡くしたみかげが、祖母と仲の良かった雄一とその母(実は父親)の家に同居する。日々のくらしの中、何気ない二人の優しさにみかげは孤独な心を和ませていくのだが…。世界二十五国で翻訳され、読みつがれる永遠のベスト・セラー小説。泉鏡花文学賞受賞。
「BOOK」データベースより引用

祖母を亡くして独りになった大学生のみかげが、祖母の知り合いの田辺家に拾われ居候となり、徐々に不安定な心を取り戻していく再生の物語
どん底にいる時に人がくれる無償の優しさ、そしてそれを逆の立場になった時に人に与えられること。みかげと雄一の互いを思いやる気持ちに、何度読んでも涙してしまう。
他の吉本ばなな作品にも言えることだが、”“の要素が濃い作品であるにも関わらずさっぱりとした読後感であり、四季を感じられる穏やかな風景描写も実に素晴らしい。これがデビュー作品とは信じられないほど、完璧な小説。


 

25.『山猫の夏』/船戸与一

ブラジル東北部の町エクルウは、アンドラーデ家とビーステルフェルト家に支配されている。両家はことごとに対立反目し、殺し合いが絶えない。そんな怨念の町に「山猫」こと弓削一徳がふらりと現れた。山猫の動く所、たちまち血しぶきがあがる。謎の山猫の恐るべき正体はいつ明かされる。
「BOOK」データベースより引用

日本冒険小説協会大賞の受賞回数は史上最多の6回、名実ともに冒険小説の第一人者である著者の代表作。
登場人物や設定は異なるものの、同じく南米を舞台にした『神話の果て』『伝説なき地』とともに南米三部作と呼ばれている。
ブラジルの田舎町を舞台に、互いに憎み合う両家を利用する日本人の”山猫“。おびただしい数の死者が出る血なまぐさいストーリーであるものの、強烈で人を惹きつける山猫のキャラクターに加えて迫力あるアクション、先の読めない展開とまさにロマン溢れる冒険小説である。
またブラジルをめぐる世界情勢や、現地移民の歴史など物語を支える情報も過不足なく詰まっており、最後まで読めば灼熱のブラジルの大地に焦がれることは間違いないだろう。


 

26.『今夜、すべてのバーで』/中島らも

「この調子で飲み続けたら、死にますよ、あなた」。それでも酒を断てず、緊急入院するはめになる小島容。ユニークな患者たち、シラフで現実と対峙する憂鬱、親友の妹が繰り出す激励の往復パンチ。実体験をベースに生と死のはざまで揺らぐ人々を描いた、すべての酒飲みに捧ぐアル中小説。第13回吉川英治文学新人賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

重度のアルコール依存により緊急入院することになった主人公の入院生活を描いた、入院記と言える作品。吉川英治新人文学賞を受賞したことでも知られている。
自覚症状から医者の言葉、入院生活の細部まで非常にリアルな描写が続く。著者の実体験が元になっているのも納得である。
またアルコール依存はもちろん、薬やドラッグの知識も半端ないが、それを丁寧に説明することでこれらの怖さを実直に読者に伝えようとしている姿勢が見て取れる。
すべての酒飲みに捧ぐアル中小説」とはよくいったもので、確かにお酒を飲む人は一度読んでおいて損はない名作である。


 

27.『西の魔女が死んだ』/梨木香歩

中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、西の魔女のもとで過した。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも…。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。
「BOOK」データベースより引用

クラスで孤立してしまった中学一年生の少女が、祖母の家で過ごした一夏を回想する物語。
感受性豊かなローティーンが穏やかでちょっぴり秘密めいた祖母と暮らした穏やかな生活を色彩豊かに、そして丁寧に描いた優しい作品。
児童文学としての完成度はもちろん母や祖母の年代から読んでも楽しむことができるため幅広い世代に愛されており、著者のデビュー作であるが刊行から30年近くたっても未だに新潮文庫のおすすめフェアで書店に平積みされる人気作。


 

28.『クライマーズ・ハイ』/横山秀夫

1985年、御巣鷹山に未曾有の航空機事故発生。衝立岩登攀を予定していた地元紙の遊軍記者、悠木和雅が全権デスクに任命される。一方、共に登る予定だった同僚は病院に搬送されていた。組織の相剋、親子の葛藤、同僚の謎めいた言葉、報道とは―。あらゆる場面で己を試され篩に掛けられる、著者渾身の傑作長編。
「BOOK」データベースより引用

著者が上毛新聞社で新聞記者として勤務していた頃に遭遇した、日航機墜落事故を題材としている。
登場する新聞社や人物らは架空の設定とはいえ、実際に著者の経験談を基にしているため迫力があるし、ほとんどノンフィクションと言って良いようなのある小説となっている。
日航機墜落事故は他にも『沈まぬ太陽』など書籍化・メディア化されている作品はあるが、この作品では地方紙の新聞記者という異なった視点から事件を知ることができる。
D県警シリーズ」などミステリー分野での著作が多いが、横山秀夫の代表作と言えばやはりこの『クライマーズ・ハイ』を推す方が圧倒的に多いのではないだろうか。


 

29.『白夜行』/東野圭吾

1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局、事件は迷宮入りする。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂―暗い眼をした少年と、並外れて美しい少女は、その後、全く別々の道を歩んで行く。二人の周囲に見え隠れする、幾つもの恐るべき犯罪。だが、何も「証拠」はない。そして十九年…。息詰まる精緻な構成と、叙事詩的スケール。心を失った人間の悲劇を描く、傑作ミステリー長篇。
「BOOK」データベースより引用

大阪で発生した殺人事件の、被害者の息子と容疑者の娘。2人の数奇な運命を描いた長編ミステリー。
過去の事件の犯人が誰なのか、という謎はもちろんの事。被害者の息子と容疑者の娘、主役2人が客観的に描かれており心理描写が全くないのが特徴
数多くの東野圭吾作品の中で、圧倒的な指示を得ている作品で、文庫版で850ページ大長編にもかかわらず中だるみは一切なく、何度も読み返したいと感じる一作。


 

30.『ミカヅキ』/森絵都

昭和36年。放課後の用務員室で子供たちに勉強を教えていた大島吾郎は、ある少女の母・千明に見込まれ、学習塾を開くことに。この決断が、何代にもわたる大島家の波瀾万丈の人生の幕開けとなる。二人は結婚し、娘も誕生。戦後のベビーブームや高度経済成長の時流に乗り、急速に塾は成長していくが…。第14回本屋大賞で2位となり、中央公論文芸賞を受賞した心揺さぶる大河小説、ついに文庫化。
「BOOK」データベースより引用

昭和から平成まで、高度経済成長期を経て少子化問題に直面する激動の日本において、学習塾を立ち上げたある夫婦の物語。
満ち足りる事のない教育への情熱を一心に子供たちに注ぎ込み、昭和の世を駆け抜けた夫妻の生き様には胸を打たれる。
またこの物語はそれだけでなく、彼らから子、そして孫世代まで親子3代に渡って脈々と受け継がれる教育者の血筋を描いた家族の物語でもある。
想いは違えど互いを尊重し、各々の視点で教育と向き合う大島家の人々は、まるで良質の大河ドラマを見ているかのようである。


 

31.『サラバ!』/西加奈子

僕はこの世界に左足から登場した―。圷歩は、父の海外赴任先であるイランの病院で生を受けた。その後、父母、そして問題児の姉とともに、イラン革命のために帰国を余儀なくされた歩は、大阪での新生活を始める。幼稚園、小学校で周囲にすぐに溶け込めた歩と違って姉は「ご神木」と呼ばれ、孤立を深めていった。そんな折り、父の新たな赴任先がエジプトに決まる。メイド付きの豪華なマンション住まい。初めてのピラミッド。日本人学校に通うことになった歩は、ある日、ヤコブというエジプト人の少年と出会うことになる。
「BOOK」データベースより引用

父親の海外赴任により幼少期からイラン,日本,そしてエジプトと渡り歩いた主人公の半生を描いた作品。
個性的な家族の影響を強く受けながら人格形成をしていた主人公が、次第に外に意識を向け、様々な人やものと出会いながら波乱に満ちた人生を歩んでいく。
家族や友人との絆を考えさせられる内容でありながら、中盤以降はそれに加えて宗教世界情勢を絡めた重めのテーマが次々と投下されていく。
見所満載の内容に加えて、小気味良いやりとりやテンポの良さ、そして所々で差し込まれる煌めきを放つような描写がアクセントとなり、計750ページと大長編ながらページをめくる手が止まらない、そんな作品である。


 

32.『落日燃ゆ』/城山三郎

東京裁判で絞首刑を宣告された七人のA級戦犯のうち、ただ一人の文官であった元総理、外相広田弘毅。戦争防止に努めながら、その努力に水をさし続けた軍人たちと共に処刑されるという運命に直面させられた広田。そしてそれを従容として受け入れ一切の弁解をしなかった広田の生涯を、激動の昭和史と重ねながら抑制した筆致で克明にたどる。
「BOOK」データベースより引用

文学賞にその名がつくほど経済小説の開拓者として知られている著者。吉川英治文学賞受賞を受賞した本作の題材は、文官で唯一絞首刑となったA級戦犯、悲劇の宰相と呼ばれた広田弘毅物来順応を信条に掲げ、処刑間際までそれを貫き通した広田の生涯を描いた伝記小説である。
軍政をひたすら突き進む昭和初期の日本を舞台に、陸軍が次第に暴走していく過程を外務省外交官の立場から描いている。また戦後の極東裁判にも紙面を割いており、世間一般に広く知られていない事実を知ることの出来る、非常に貴重な文学作品である。


 

33.『錦繍』/宮本輝

「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」運命的な事件ゆえ愛し合いながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年の歳月を隔て再会した。そして、女は男に宛てて一通の手紙を書き綴る―。往復書簡が、それぞれの孤独を生きてきた男女の過去を埋め織りなす、愛と再生のロマン。
「BOOK」データベースより引用

10年前にとある出来事がきっかけで離婚した夫婦が旅先で出会い、その再会をきっかけに10年間の空白が埋められていく恋愛小説。
何と言ってもお互いへの手紙という形式で物語が進行していく、その大胆な構成に驚かされる。
14通の手紙により、2人の出会いから結婚、そしてなぜ離婚しなければならなかったのか。その経緯が明かされるとともに、2人の内に秘めた想いを垣間見ることができる。
過去から現在、そして未来へ。男女の考え方の相違点なども手紙文から浮かび上がってくるのが面白い。宮本輝にしか書けない小説なのではないか。
流転の海』シリーズをここに入れることも考えたのだが(読んだことのない人は是非手に取ってほしい)、全9冊に及ぶシリーズよりもこちらが宮本輝の魅力を端的に味わえると考えたため。どちらも素晴らしい作品であることに変わりはない。


 

34.『何者』/朝井リョウ

就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから―。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて…。
「BOOK」データベースより引用

平成生まれを代表する作家朝井リョウの直木賞受賞作は、大学生たちの就職活動を通して今時の若者のリアルを描いた群像劇。
現代では必須のコミュニケーションツールとなったSNSの投稿が物語の合間合間に挟まり、また作品冒頭にある人物紹介もSNSのプロフィール調になっているなど、随所に工夫が見られる。
作品の大部分がセリフとSNSの投稿で占められており非常に読みやすい。
人間が心のうちに秘めている腹黒さのようなものをしっかりと表現しているため決して読後感は良いとは言えないが、終盤の登場人物たちによる会話の応酬は迫力も十分。
続編に当たる『何様』と合わせて読むとより楽しめる。


 

35.『楽園のカンヴァス』/原田マハ

ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに篭めた想いとは―。山本周五郎賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

文化施設などで鑑定や研究を行うキュレーターという職業に焦点を当て、絵画の魅力にも十分に触れたエンターテイメント作品。
著者自身MoMA(ニューヨーク近代美術館)のキュレーターとして勤務しており、その経験が十二分に生かされた小説であると言える。
絵画の知識をふんだんに取り入れながらもその分野に疎い読者も置いていかない丁寧な説明に加え、アートの要素を抜いても導入〜ラストまでミステリーとして素晴らしい出来。
本来ミステリー作家ではなく、『本日は、お日柄もよく』『カフーを待ちわびて』など別ジャンルでの代表作も多数あるが、アート×ミステリーこそが原田マハの真骨頂なのではないかと思う。
他にも謎めいたアートの世界を味わいたい方は『暗幕のゲルニカ』『たゆたえども沈まず』がおすすめ。


 

36.『重力ピエロ』/伊坂幸太郎

兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった頃、事件は始まる。連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアートの出現。そしてそのグラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎解きに乗り出した兄が遂に直面する圧倒的な真実とは―。溢れくる未知の感動、小説の奇跡が今ここに。
「BOOK」データベースより引用

平成のヒットメイカーである著者のデビュー作『オーデュボンの祈り』から数えて4作目、いよいよ世に伊坂幸太郎の名が広まっていくかという時分の作品。
仙台で起こる連続放火事件、そして事件現場近くに必ず残されるグラフィティアートの謎に兄弟が挑む。
犯人は誰なのか?というミステリー要素に、家族が抱える過去や遺伝子とのリンクを絡めて終盤に大きな山場を作るのはさすがと言う他ない。
さらに重いテーマを軽快な会話で読ませるのは初期の頃からの特徴で、他にも他分野に渡る雑学知識など、読んでいて飽きない作品。


 

37.『一瞬の風になれ』/佐藤多佳子

春野台高校陸上部、一年、神谷新二。スポーツ・テストで感じたあの疾走感…。ただ、走りたい。天才的なスプリンター、幼なじみの連と入ったこの部活。すげえ走りを俺にもいつか。デビュー戦はもうすぐだ。「おまえらが競うようになったら、ウチはすげえチームになるよ」。青春陸上小説、第一部、スタート。
「BOOK」データベースより引用

陸上100m×4リレー、通称4継。高校から陸上を始めた主人公が親友の天才ランナーの存在に憧れ、理想とのギャップに葛藤する。
スポーツに真摯に向き合い、才能と努力の狭間で悩み成長していく少年たちを爽やかに描いた青春小説。
今まさに部活動に打ち込んでいる人、学部活動に励んでいた学生時代を思い出したい人、全ての世代におすすめできる作品となっている。
文庫本は第1部〜第3部と3冊に分かれている大作なので購入の際は注意が必要。


 

38.『蜩ノ記』/葉室麟

豊後羽根藩の檀野庄三郎は不始末を犯し、家老により、切腹と引き替えに向山村に幽閉中の元郡奉行戸田秋谷の元へ遣わされる。秋谷は七年前、前藩主の側室との密通の廉で家譜編纂と十年後の切腹を命じられていた。編纂補助と監視、密通事件の真相探求が課された庄三郎。だが、秋谷の清廉さに触るうち、無実を信じるようになり…。凛烈たる覚悟と矜持を描く感涙の時代小説!
「BOOK」データベースより引用

江戸時代後期の九州地方にある架空の羽根藩を舞台に、ある騒ぎを起こした主人公が僻地での囚人環視を命じられるが、その囚人と触れ合う中で次第に無実を確信するようになる。というストーリー。
警察小説やミステリーよろしく真犯人を見つけて大逆転勝利!とならないのがこの時代のリアルなのだろう。自らの運命を静かに受け入れ、武士としての生き様を全うする彼らには、藤沢周平の『蟬しぐれ』と同様に、ひたすらに読者の胸を打つ。
小説家デビューは地方紙の記者などを経て50歳を過ぎてから。2017年に亡くなるまでの十余年の作家生活で多くの作品を残したが、もう著者の新作を読むことが出来ないと思うと寂しさが募る。


 

39.『異邦の騎士』/島田荘司

失われた過去の記憶が浮かびあがり男は戦慄する。自分は本当に愛する妻子を殺したのか。やっと手にした幸せな生活にしのび寄る新たな魔の手。名探偵御手洗潔の最初の事件を描いた傑作ミステリ『異邦の騎士』に著者が精魂こめて全面加筆修整した改訂完全版。幾多の歳月を越え、いま異邦の扉が再び開かれる。
「BOOK」データベースより引用

著者のデビュー作『占星術殺人事件』を1作目とする探偵御手洗潔シリーズ、本作はシリーズ4作目に該当する。
『金田一少年の事件簿』でトリックが流用された『占星術殺人事件』ももちろん傑作だが、あえて幾つかの理由からこちらの作品を推したいと思う。
・本シリーズの探偵御手洗と助手の石岡、若き日の2人の物語であり、シリーズ全体の肝となる点
・作品に仕掛けられた設定が光明であり、ラストまで驚きが持続する点
・ミステリーとしても素晴らしいのに加え、時に荒々しくも感情的・エネルギッシュな書きっぷりが新鮮である点


 

40.『旅のラゴス』/筒井康隆

北から南へ、そして南から北へ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隷の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か?異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間の一生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。
「BOOK」データベースより引用

文明を失い、代わりに人々が超能力を得た世界で、旅を続ける男ラゴスの半生を描いたSF小説。
ミステリーなどでも有名だが、「SF御三家」とも称される著者の代表作の一つである。
紆余曲折あるラゴスの旅行記として、あるいは行く先々の国や集落の世界観をファンタジーとしても楽しめる。
物語は淡々と進むが、ラゴスの生き様を通して人生について考えさせられる作品である。


 

41.『亡国のイージス』/福井晴敏

在日米軍基地で発生した未曾有の惨事。最新のシステム護衛艦“いそかぜ”は、真相をめぐる国家間の策謀にまきこまれ暴走を始める。交わるはずのない男たちの人生が交錯し、ついに守るべき国の形を見失った“楯”が、日本にもたらす恐怖とは。
「BOOK」データベースより引用

作品を一言で表すならば、イージスシステムを搭載せんとする自衛隊の護衛艦と、未知の生物化学兵器を軸にした国防スペクタクル。日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞をトリプル受賞した名作。
作品の特徴はその緻密なストーリー展開。伏線の貼り方は細やかで丁寧で、国防に関する様々な専門用語が飛び交う内容は重めではあるものの、大胆などんでん返しもあり読者を惹きつける。
また序盤に主要人物の背景描写をしっかりと行っている点も見逃せない。彼らの生い立ちや動機の部分をしっかりと描くことで、感情移入を図り、それが終盤の展開に生きてくる。平和ボケした現代の日本人におすすめする、必読の一冊である。
また作品に登場する架空の機関「ダイス」は他作品にも登場する。江戸川乱歩賞の『Twelve Y.O.』から読んでみることをおすすめする。


 

42.『姑獲鳥の夏』/京極夏彦

この世には不思議なことなど何もないのだよ―古本屋にして陰陽師が憑物を落とし事件を解きほぐす人気シリーズ第一弾。東京・雑司ケ谷の医院に奇怪な噂が流れる。娘は二十箇月も身籠ったままで、その夫は密室から失踪したという。文士・関口や探偵・榎木津らの推理を超え噂は意外な結末へ。
「BOOK」データベースより引用

著者がデザイン会社勤務中に執筆したデビュー作であり、京極堂こと中禅寺秋彦を探偵役とした「百鬼夜行シリーズ」の1作目でもある。
20ヶ月もの間妊娠し続ける妻、密室から失踪した夫、久遠寺家にまつわる奇怪な噂を「憑き物落とし」として京極堂が解決していく。
ミステリでありながら民俗的要素が強く、伝奇小説のジャンルにも分類される。と言いつつオカルト全開の内容かと思いきや、東洋医学や心理学など学問的知見も散見される。
作品全体に漂う怪しい雰囲気はシリーズ通しての特徴であり、次作『魍魎の匣』をはじめ根強い人気を誇る。


 

43.『雪国』/川端康成

頑なに無為徒食に生きて来た主人公島村は、半年ぶりに雪深い温泉町を訪ね、芸者になった駒子と再会し、「悲しいほど美しい声」の葉子と出会う。人の世の哀しさと美しさを描いて日本近代小説屈指の名作に数えられる、川端康成の代表作。
「BOOK」データベースより引用

日本人初のノーベル文学賞受賞者である川端康成を外すことはできない。
中でも温泉街における文筆家と芸者の恋愛を描いた本作は著者の代表作であり、小説の冒頭文は説明不要なほど有名である。
二文目の「夜の底が白くなった」も個人的には大好き。
妻子ある主人公の不倫、酷い死を扱っており、儚さが演出されているが現代には少しそぐわない内容であるかもしれない。


 

44.『マリオネットの罠』/赤川次郎

“私の事を、父は「ガラスの人形」だと呼んでいた。脆い、脆い、透き通ったガラスの人形だと。その通りかもしれない”…森の館に幽閉された美少女と、大都会の空白に起こる連続殺人事件の関係は?錯綜する人間の欲望と、息もつかせぬストーリー展開で、日本ミステリ史上に燦然と輝く赤川次郎の処女長篇。
「BOOK」データベースより引用

『三毛猫ホームズ』『セーラー服と機関銃』など有名シリーズ多数、執筆数はなんと600作品超という赤川次郎の処女長編。
誰がやったのか(フーダニット)、どうやったのか(ハウダニット)が物語前半で解明されているにもかかわらず、なぜやったのか(ホワイダニット)一点のみでここまで惹きつけられるものだろうか。
終盤まで読者を飽きさせないスピーディーな展開、そして大どんでん返しともいうべき衝撃の結末は処女長編とは思えない完成度。
また時代背景や設定など、古さをあまり感じさせないのは、本作品にかかわらず著者の特徴である。
流行を取り入れない/取材をしないというポリシーを持つ著者だからこそ、時代が移り変わっても新鮮味が薄れることがないのかもしれない。


 

45.『邂逅の森』/熊谷達也

秋田の貧しい小作農に生まれた富治は、伝統のマタギを生業とし、獣を狩る喜びを知るが、地主の一人娘と恋に落ち、村を追われる。鉱山で働くものの山と狩猟への思いは断ち切れず、再びマタギとして生きる。失われつつある日本の風土を克明に描いて、直木賞、山本周五郎賞を史上初めてダブル受賞した感動巨編。
「BOOK」データベースより引用

大正時代の秋田県阿仁町を舞台に、伝統狩猟を行うマタギの生き様を描いた作品。
古くからの言い伝えや狩猟方法を重視しつつ日々を懸命に生きるマタギの実態や、東北地方の厳しい自然環境がとても丁寧に描かれている。特に最終章のヌシとの戦いは圧巻の出来。
加えて1人のマタギの人生を追いながら、愛する者への想いが良く表現出来ている。中盤以降、主人公がイクと出会ってから後のエピソードは心温まる展開。
またあらすじにもあるように、直木賞と山本周五郎賞のW受賞を果たした史上初の作品(その後佐藤究も『テスカトリポカ』でW受賞)としても有名である。


 

46.『夏の庭』/湯本香樹実

町外れに暮らすひとりの老人をぼくらは「観察」し始めた。生ける屍のような老人が死ぬ瞬間をこの目で見るために。夏休みを迎え、ぼくらの好奇心は日ごと高まるけれど、不思議と老人は元気になっていくようだ―。いつしか少年たちの「観察」は、老人との深い交流へと姿を変え始めていたのだが…。喪われ逝くものと、決して失われぬものとに触れた少年たちを描く清新な物語。
「BOOK」データベースより引用

小学校6年生の男子3人組と町外れに住む老人の、一夏の交流を描いた心温まる作品。
設定はよく語られるように映画『スタンド・バイ・ミー』に似ており、個人的にはそこに久石譲の「SUMMER」がBGMでかかっているようなイメージ。
児童文学として登場人物の年齢である小学校高学年から読めるような内容でありながら、大人になっても爽やかな読後感を提供してくれるまさに『スタンド・バイ・ミー』さながらの名作っぷり。
他にも『ポプラの秋』など、老若男女が楽しめる作品が多い。


 

47.『鳩の撃退法』/佐藤正午

かつては直木賞も受賞した作家・津田伸一は、「女優倶楽部」の送迎ドライバーとして小さな街でその日暮らしを続けていた。そんな元作家のもとに三千万円を超える現金が転がりこんだが、喜びも束の間、思わぬ事実が判明する。―昨日あんたが使ったのは偽の一万円札だったんだよ。偽札の出所を追っているのは警察だけではない。一年前に家族三人が失踪した事件をはじめ、街で起きた物騒な事件に必ず関わっている裏社会の“あのひと”も、その動向に目を光らせているという。小説名人・佐藤正午の名作中の名作。圧倒的評価を得た第六回山田風太郎賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

偽札を掴まされた元小説家、現送迎ドライバーのお話。
特徴は何と言っても上下巻で1000ページを超す大長編、の大半を占める饒舌な会話。
点在する時系列に事実と現実、そしてフィクションを絡ませたストーリーテリング。これぞメタフィクションだと言わんばかりの内容に、読む者の日常を奪われるがごとくのめり込んでしまう。
会話の長さはその冗長さに閉口してしまうかもしれないが、熟慮された伏線を隠すなら森の中、重要なピースを会話の中から拾い上げていくことができればよりこの作品を楽しめるだろう。


 

48.『双頭の悪魔』/有栖川有栖

他人を寄せつけず奥深い山で芸術家たちが創作に没頭する木更村に迷い込んだまま、マリアが戻ってこない。救援に向かった英都大学推理研の一行は、大雨のなか木更村への潜入を図る。江神二郎は接触に成功するが、ほどなく橋が濁流に呑まれて交通が途絶。川の両側に分断された木更村の江神・マリアと夏森村のアリスたち、双方が殺人事件に巻き込まれ、各々の真相究明が始まる…。
「BOOK」データベースより引用

新本格派の代表作家の1人である有栖川有栖、国名シリーズ読者への挑戦などエラリー・クイーンの影響を色濃く受けた作風で知られる推理小説家で、代表作として「作家アリス」「学生アリス」2つのシリーズがあるが、ここでは「学生アリス」シリーズの第3作目をチョイス。
大学の推理小説研究会に所属する主人公が、人里離れた田舎村で事件に遭遇する。
「学生アリス」シリーズ長編の特徴でもあるクローズド・サークルを生かしたトリック、探偵役である江神二郎の魅力、そして読者への挑戦状は作中に3回も登場するなど、シリーズ随一の内容であり、有栖川有栖の魅力がたっぷりと詰まった名作である。


 

49.『高円寺純情商店街』/ねじめ正一

高円寺駅北口「純情商店街」。魚屋や呉服屋、金物店などが軒を並べる賑やかな通りである。正一少年は商店街の中でも「削りがつをと言えば江州屋」と評判をとる乾物屋の一人息子だった―。感受性豊かな一人の少年の瞳に映った父や母、商店街に暮らす人々のあり様を丹念に描き「かつてあったかもしれない東京」の佇まいを浮かび上がらせたハートウォーミングな物語。直木賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

高円寺駅北口に伸びる商店街に店を構える乾物屋、その一人息子の視点から、商店街を行き交う人々と日常が描かれた作品。
杉並区に生まれ育ち、実家は高円寺の商店街で乾物屋をやっていた著者の自伝的小説でもある。
なお小説の舞台となった「高円寺銀座商店街」は、この作品にちなみ「高円寺純情商店街」と名前を変えている。
連作短編集の形態をとっており、その一つ一つに昭和の下町情緒が感じられる心温まるストーリーとなっている。教科書にも掲載された名作。


 

50.『ボッコちゃん』/星新一

スマートなユーモア、ユニークな着想、シャープな諷刺にあふれ、光り輝く小宇宙群! 日本SFのパイオニア星新一のショートショート集。表題作品をはじめ「おーい でてこーい」「殺し屋ですのよ」「月の光」「暑さ」「不眠症」「ねらわれた星」「冬の蝶」「鏡」「親善キッス」「マネー・エイジ」「ゆきとどいた生活」「よごれている本」など、とても楽しく、ちょっぴりスリリングな自選50編。
「BOOK」データベースより引用

質・量ともに他の追随を許さないショートショートの神様、同ジャンルを確立した第一人者でもある星新一の自選短編集。
1話あたり5〜10ページと、わずか数分で読み切れる分量の作品がなんと50も編収録されている。
著者は小松左京・筒井康隆と共に「SF御三家」とも呼ばれており、内容はSFチックなものや独特の風刺が効いているものが多く、短いストーリーの中にたくさんのユーモアが溢れている。
また時代背景や固有名詞の排除が徹底されており、環境や時代に依らず作品を楽しむための工夫が凝らされているのも特徴。今も子供から大人まで多くの読者が存在する。


 

51.『日本沈没』/小松左京

鳥島の南東にある無人島が、一夜にして海中に沈んだ。深海潜水艇の操艇責任者の小野寺は、地球物理学の田所博士とともに、近辺の海溝を調査し、海底の異変に気づく。以降、日本各地で地震や火山の噴火が頻発。自殺した友人を京都で弔っていた小野寺も、大地震に巻き込まれ、消息不明になるが、ある日突然、ナポリの消印がある辞表が会社に届いた。どうやら田所の個人研究所と関係があるようで…。日本SF史に輝くベストセラー。
「BOOK」データベースより引用

日本推理作家協会賞を受賞した、SF御三家が一人小松左京の代表作。当時世間に認知され始めたプレート理論を取り入れ、地殻変動により海底へ沈没していく日本列島を舞台に、祖国を失う国民のメンタリティを奥深く掘り下げたSFエンタメ小説である。
氏の著作には数々の名作があるが、本作はその中でもまるで未来の日本を見てきたかのような先見性が感じられる。
1973年の刊行から半世紀が経つが、50年前の作品とは思えない新鮮かつ重厚な内容。これまで数多くメディア化されてきており、2021年10月からは「日曜劇場」で再度ドラマ化されている。


 

52.『兎の眼』/灰谷健次郎

ふうちゃんは、神戸生まれの女の子。おとうさんとおかあさんは沖縄出身で、神戸の下町で琉球料理の店「てだのふあ・おきなわ亭」を営んでいる。やさしい常連さんたちに囲まれて明るく育ったふうちゃんだが、六年生になった頃、おとうさんが心の病気で苦しむようになる。おとうさんの病気の原因は何なのか?ふうちゃんは、「沖縄と戦争」にその鍵があることに気づきはじめる…。戦争は本当に終わっているのだろうか。なぜおとうさんの心の中でだけ戦争は続くのか?今、日本人が本当に知らなくてはならないことがここにある。
「BOOK」データベースより引用

第二次世界大戦から30年後の神戸を舞台に、沖縄出身の家族が抱える現状を描き出した児童文学の名作。
自殺した灰谷健次郎の長兄が住んでいた神戸、その後教師を退職し著者が放浪していた沖縄と、この小説自体に著者自身の経験が含まれている。
沖縄で戦争を経験した人には忘れることの出来ない記憶を後世に生きるものへ繋いでいく、という題材を児童文学に昇華させた功績はとても大きいと感じる。
読みやすい文章でありながら、大人が読んでも考えさせられる内容となっている。


 

53.『孤狼の血』/柚月裕子

昭和63年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上とコンビを組むことに。飢えた狼のごとく強引に違法捜査を繰り返す大上に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて金融会社社員失踪事件を皮切りに、暴力団同士の抗争が勃発。衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが…。正義とは何か。血湧き肉躍る、男たちの闘いがはじまる。
「BOOK」データベースより引用

昭和末期の広島を舞台に、違法捜査も辞さない型破りなマル暴刑事と地元ヤクザの奮闘を描いた刑事小説。
主婦業の傍ら講座を学び、40代で小説家デビューという異色の経歴を持つ著者。ヤクザや刑事による荒々しい広島弁の応酬は、女性作家が書いたとは思えない程の迫力。
一方でどんでん返しにつながるストーリー展開は女性らしい緻密さも見えるなど、非常に魅力的な作品である。
続巻2巻が刊行されているシリーズものであり、3作目『暴虎の牙』をもって完結している。2018年には映画公開され、続編も制作・公開予定。


 

54.『カディスの赤い星』/逢坂剛

フリーのPRマン・漆田亮は、得意先の日野楽器から、ある男を探してくれと頼まれる。その男の名はサントス、20年前スペインの有名なギター製作家ホセ・ラモスを訪ねた日本人ギタリストだという。わずかな手掛りをもとに、サントス探しに奔走する漆田は、やがて大きな事件に巻きこまれてゆく…。国際冒険小説の達成点。
「BOOK」データベースより引用

推理小説や時代小説、冒険小説と幅広いジャンルを執筆する著者にとって、直木賞・日本冒険小説協会大賞・日本推理作家協会賞の3冠を達成した本作品は間違いなく代表作と言えるだろう。
洒落の効いた小気味良い会話に、スリルたっぷりのアクションシーンにひりつく展開。
フリーのPRマンが(上客の後ろ盾があるとしても)これほどの大立ち回りが出来るのか?と首を傾げたくなるような場面も多少あるが、そうした要素を除外しても、日本とスペインの2カ国に跨って展開される重厚なハードボイルド小説としての評価は疑いようがない。
また作中では著者が好むスペインとフラメンコの知識が存分に生かされており、フランコ独裁政権終焉間際のスペインの様子が臨場感を持って描かれているのも特徴。


 

55.『すべてがFになる』/森博嗣

孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る天才工学博士・真賀田四季。彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平と女子学生・西之園萌絵が、この不可思議な密室殺人に挑む。新しい形の本格ミステリィ登場。
「BOOK」データベースより引用

元名古屋大学助教授、工学者であり小説家であり「理系ミステリ」と呼ばれる作風でも知られる著者のデビュー作。
著者の作品には多くのシリーズものが存在するが、犀川創平と西之園萌絵が主人公の『S&Mシリーズ』の1作目としても知られている。
クローズドサークルや密室殺人といったミステリの鉄板設定でありながら、1996年当時には最先端・近未来と言えるAI技術やITテクノロジーをふんだんに取り入れた画期的なミステリー作品と言える。
登場人物のキャラは立っているし、テンポの良い会話も手伝って専門用語が多くとも読むのにそこまで苦にならない。特に真賀田四季の不気味さ、恐ろしさは他作品含めて魅力的。
理系であればオチが読める人もいるかもしれないが、それでもタイトルに込められた意味が回収されるラストは素晴らしい。


 

56.『蟹工船』/小林多喜二

殺されたくなければ、立ち上がれ!プロレタリアートの生存闘争を鼓舞した古典的名著『蟹工船』を、丹念な注を付して現代に読まれるテキストとして復刻。新自由主義の暴虐がプレカリアートを襲う時代に、今こそ甦る『蟹工船』の叫びを雨宮処凛と野崎六助が解読する。
「BOOK」データベースより引用

航海法も労働法も適用されない「蟹工船」を舞台に劣悪な労働環境がストレートな表現で描かれており、人の扱いを受けられないような虐げられっぷりにストライキを検討する労働者たちの苦悩が痛いほど伝わってくる。
発表は1929年、掲載雑誌では検閲に配慮し伏字箇所も多く、その後新聞紙法に抵触し発売頒布禁止処分。小林多喜二本人も不敬罪で起訴されるなど、表現の自由が制限された当時の時代背景にも負けず信念を貫き、決死の思いで世に送り出されたプロレタリア文学の代表作。


 

57.『砂の女』/安部公房

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める部落の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のなかに、人間存在の象徴的な姿を追求した書き下ろし長編。20数ヶ国語に翻訳された名作。
「BOOK」データベースより引用

休暇を利用して立ち寄った海辺の砂丘村で、蟻地獄のような砂の家に閉じ込められてしまうサスペンス小説。
社会主義が横行する閉ざされた社会を舞台に、そこからの脱出を試みるパニックサスペンスとして圧倒的な臨場感がある。
また砂に支配された村を題材に地域や組織に縛られた現代社会を比喩的に表しており、そうしてみると主人公が極限状態で取る選択も理解が出来そうに思えてくるから不思議である。
ラストも衝撃の展開で、読後の余韻はすさまじい。海外からも高い評価を得ており、作家としての地位を確立したと言っても良い傑作。


 

58.『二十四の瞳』/壺井栄

瀬戸内の一寒村に赴任した若い女性教師と十二人の生徒の、昭和初期から戦後までの二十数年にわたるふれあいの物語。子供たちを育み守ろうとする先生と、時代の引き起こすきびしさと貧しさに翻弄されながら懸命に生きる子供たち。戦争への怒りと悲しみが訴えかけられる。
「BOOK」データベースより引用

女学校を卒業したばかりの新任教師である大石先生と、彼女が初めて受け持った12人の小学一年生。第二次世界大戦へ突き進む昭和の日本において徐々に戦争の影響を受ける児童たちの痛みや悲しみを捉えた作品。
かつての教え子たちがその後10年と立たず、お国のためにと自ら進んで徴兵されていく。そんな凄まじい時代にあって大石先生が生徒たちに注ぐ一貫した愛は、場面ごとに強烈な感動シーンを生み出す。
反戦文学という括りが正しいかは分からないが、この作品の登場人物と同じく戦争の世を生きた著者が後世に伝えようと発表した作品は、児童文学の名作として今も現代まで語り継がれている。


 

59.『細雪』/谷崎潤一郎

大阪・船場の旧家、蒔岡家には鶴子、幸子、雪子、妙子の美しい四姉妹がいる。三十歳にして独身の三女・雪子には次々と縁談が舞い込むが、なかなかうまくまとまらずにいた。上流階級社会の何気ない日常と、美しく移ろう四季、そして関西の街を写す、著者の代表作。
「BOOK」データベースより引用

戦前の大阪を舞台に、上流階級の蒔岡家4姉妹の日常を描いた作品。
三女雪子のお見合いを中心に話が進んでいくが、旧家のプライドから中々縁談がまとまらなかったり、本家と分家を行き来する自由度の高い生活の中に、当時の中上流階級の豊かな暮らしを覗き見ることが出来る。
また4姉妹のやりとりは女性心理をうまく捉えながら非常に丁寧に描写されており、彼女たちのそれぞれの特徴も引き出されているため、登場人物たちの会話を楽しみながら読み進めることが出来る。
『痴人の愛』や『春琴抄』などの代表作に現れているが、同じ作家か?と疑ってしまうほど作品によって文体や語り口調が変わるのが著者の特徴。それぞれ読み比べてみて欲しい。


 

60.『黒い雨』/井伏鱒二

一瞬の閃光とともに焦土と化したヒロシマ。不安な日々をおくる閑間重松とその家族…彼らの被爆日記をもとに描かれた悲劇の実相。原爆をとらえ得た世界最初の文学的名作。 –このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
「BOOK」データベースより引用

黒い雨とは、原子爆弾投下後に降る、放射性物質等を含んだ粘り気のある大粒の雨のことである。
原子爆弾を投下された広島で、被爆した家族のその後を描いた作品。
重松日記」と呼ばれる実際の被爆者の日記を元にしていることもあり、原爆症や人々からの迫害に苦しむ、被爆者の苦悩がとてもリアルに描かれている。
当時を知りえない我々こそが、この平和な日本で生活できる恩恵を享受するために読まなければならない、そんな作品だと思う。


 

61.『テスカトリポカ』佐藤究

メキシコのカルテルに君臨した麻薬密売人のバルミロ・カサソラは、対立組織との抗争の果てにメキシコから逃走し、潜伏先のジャカルタで日本人の臓器ブローカーと出会った。二人は新たな臓器ビジネスを実現させるため日本へと向かう。川崎に生まれ育った天涯孤独の少年・土方コシモはバルミロと出会い、その才能を見出され、知らぬ間に彼らの犯罪に巻きこまれていく――。
「BOOK」データベースより引用

14〜16世紀に栄えたアステカ文明、現代メキシコの裏社会を牛耳る麻薬カルテル、そして東南アジアで蔓延る臓器売買。時代や国が異なるいくつものエピソードが複雑に絡み合いながら、やがて日本を拠点とした犯罪集団にスポットが当たる、壮大な犯罪小説。
一口にクライムサスペンスと言っても数多の小説がある中、これほどまでに宗教や歴史を掘り下げた作品があっただろうか。アステカ文明や神話にも詳細に触れており、その不気味さは取材力の賜物だろう。
また登場人物は全員ネジが何本も飛んでいるような危険人物だが、その圧倒的暴力性が本作を支えている。ラストが若干物足りないが、直木賞&山本周五郎賞のW受賞も納得の傑作。


 

62.『とんび』/重松清

昭和三十七年、ヤスさんは生涯最高の喜びに包まれていた。愛妻の美佐子さんとのあいだに待望の長男アキラが誕生し、家族三人の幸せを噛みしめる日々。しかしその団らんは、突然の悲劇によって奪われてしまう―。アキラへの愛あまって、時に暴走し時に途方に暮れるヤスさん。我が子の幸せだけをひたむきに願い続けた不器用な父親の姿を通して、いつの世も変わることのない不滅の情を描く。魂ふるえる、父と息子の物語。
「BOOK」データベースより引用

子供から大人まで、幅広い世代に愛される重松清作品の中でもダントツで感動した・泣いたのがこの『とんび』。ザ・昭和の不器用親父”ヤス”と優しい息子”アキラ”、2人の親子愛を彼らの半生とともに描いた作品。
序盤で妻に先立たれ父子家庭となってしまう(この時点で既に涙無しには読めない)のだが、そこからアキラがまっすぐ育つのは和尚をはじめ近所の人々の支えによるところが大きい。
親子だけでなく、そうした周囲の人間の愛情をも巻き込んで物語にするストーリー構成、多くの人間の心理描写を適切に書き分ける著者だからこその感動作品だと思う。


 

63.『氷菓』/米澤穂信

いつのまにか密室になった教室。毎週必ず借り出される本。あるはずの文集をないと言い張る少年。そして『氷菓』という題名の文集に秘められた三十三年前の真実―。何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリ登場!第五回角川学園小説大賞奨励賞受賞。
「BOOK」データベースより引用

京都アニメーション制作でアニメ化もされた大人気シリーズ「古典部シリーズ」の1作目。
省エネを信条とする高校生折木奉太郎が、なりゆきで入部した古典部で仲間たちと日常や学園に潜む謎を解決していくという物語。
様々な設定のミステリーを幅広く執筆している著者だが、中でもこちらは殺人や強盗などの重犯罪が起こらない、いわば誰も傷つけないミステリーとして幅広い世代から人気を集めている。
一つ一つのエピソードはもちろん、シリーズ全体として着眼点が素晴らしい。そして上述したアニメ版も原作に忠実に、丁寧に作られており非常に好感が持てる。小説の売れ行きにもポジティブな影響を与えていると思う。


 

64.『新宿鮫』/大沢在昌

ただ独りで音もなく犯罪者に食らいつく―。「新宿鮫」と怖れられる新宿署刑事・鮫島。歌舞伎町を中心に、警官が連続して射殺された。犯人逮捕に躍起になる署員たちをよそに、鮫島は銃密造の天才・木津を執拗に追う。突き止めた工房には、巧妙な罠が鮫島を待ち受けていた!絶体絶命の危機を救うのは…。超人気シリーズの輝ける第一作が新装版で登場!!長編刑事小説。
「BOOK」データベースより引用

新宿署に勤務する刑事鮫島を主人公とした警察小説で、日本を代表するハードボイルド小説でもある。
鮫島というアウトローが新宿を舞台に、凶悪犯やヤクザ、果ては警察内部で孤独に闘う様子を魅力たっぷりに描いた作品。
舞台となるのはバブル期の新宿・歌舞伎町。今は無きコマ劇場をはじめ、当時のネオンきらめく歓楽街をイメージしながら読むのも一興。
基本は1冊ごとに事件が解決していく完結型だが、シリーズが進むにつれ見えざる敵の姿が徐々に明らかになっていく。シリーズとしても素晴らしい。


 

65.『告白』/町田康

人はなぜ人を殺すのか。河内音頭のスタンダードナンバー“河内十人斬り”をモチーフに、町田康が永遠のテーマに迫る渾身の長編小説。
「BOOK」データベースより引用

1893年に大阪府で起きた殺人事件、「河内十人斬り」。金銭と男女トラブルをきっかけに10人もの人間が殺害された当時の大事件は、その後河内音頭の曲目となった。
本作品は実在の事件を実行犯の視点で描いた超大作である。文庫本で800ページを超える長編だが、それは主人公のとりとめの無い思考を全て河内弁で文章化しているからである。
幼少期から思弁的で不器用で、気弱な熊太郎の心理描写はあまりにも長いが、それもクライマックスを迎えるための壮大な序章だったのかと思えるほどラストはあっけない。
一体なぜこれほどまでに人物の”内面“に深く入り込み、読者が登場人物に”同化“してしまう感覚を覚えるほど読ませる文章を書けるのか。町田康の才能が凝縮された作品である。


 

66.『青の炎』/貴志祐介

櫛森秀一は、湘南の高校に通う十七歳。女手一つで家計を担う母と素直で明るい妹との三人暮らし。その平和な家庭の一家団欒を踏みにじる闖入者が現れた。母が十年前、再婚しすぐに別れた男、曾根だった。曾根は秀一の家に居座って傍若無人に振る舞い、母の体のみならず妹にまで手を出そうとしていた。警察も法律も家族の幸せを取り返してはくれないことを知った秀一は決意する。自らの手で曾根を葬り去ることを…。完全犯罪に挑む少年の孤独な戦い。その哀切な心象風景を精妙な筆致で描き上げた、日本ミステリー史に残る感動の名作。
「BOOK」データベースより引用

自分の母親と妹を守るため、かつての義父の殺害を企てる少年を主人公としたミステリー。犯人側の視点から描かれた、いわゆる倒叙推理小説である。
その殺害動機から主人公に共感する者も多いが、殺害を決意してから計画〜実行に至るまでの思春期の不安定な心理描写がとてもリアルに描かれている。
加えて情景描写も素晴らしく、この切ない物語に湘南の海が哀しく映える。
以降にあげる他ジャンルでも代表作と呼べる作品が多く存在するが、ドラマ化等で幅広い認知をされているだけでなく青春要素の強いミステリーという難しいジャンルでこの完成度を誇る本作品がやはり著者の代表作ではないだろうか。


 

67.『精霊の守り人』/上橋菜穂子

老練な女用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の二ノ妃から皇子チャグムを託される。精霊の卵を宿した息子を疎み、父帝が差し向けてくる刺客や、異界の魔物から幼いチャグムを守るため、バルサは身体を張って戦い続ける。建国神話の秘密、先住民の伝承など文化人類学者らしい緻密な世界構築が評判を呼び、数多くの受賞歴を誇るロングセラーがついに文庫化。痛快で新しい冒険シリーズが今始まる。
「BOOK」データベースより引用

日本を代表するファンタジー作家の1人、上橋直子の代表作。本作は短編集や外伝を合わせるとシリーズ合計14作品にも及ぶ「守り人シリーズ」の1作目にあたる。
短槍使いバルサ(〜の守り人)と皇子チャグム(〜の旅人)の冒険を描いた異世界ファンタジーで、児童向けの小説でありながら壮大な世界観や魅力あるキャラクターが大人にも人気である。
著作にファンタジー小説がある作家は多くいるが、これだけファンタジーの1ジャンルで大ヒットを飛ばし続ける作家はそういない。大人なら長期休みにしっかりと時間を確保して読み進めたいところ。


 

68.『キスまでの距離』/村山由佳

高校3年生になる春、父の転勤のため、いとこ姉弟と同居するはめになった勝利。そんな彼を驚かせたのは、久しぶりに会う5歳年上のかれんの美しい変貌ぶりだった。しかも彼女は、彼の高校の新任美術教師。同じ屋根の下で暮らすうち、勝利はかれんの秘密を知り、その哀しい想いに気づいてしまう。守ってあげたい!いつしかひとりの女性としてかれんを意識しはじめる勝利。ピュアで真摯な恋の行方は。
「BOOK」データベースより引用

勝利とかれん、2人の純愛を描いた恋愛小説シリーズ「おいしいコーヒーのいれ方」の1作目、勝利が従兄弟であるかれんたち花村家と同居することになり、久しぶりに再会する場面から互いを意識するようになるまでを描く。
20年以上も続いた超人気シリーズを最初に読んだのは中学生の時。後にも先にも恋愛小説にこれほどはまったのは村山由佳の作品だけではないだろうか。
彩りを感じられるような優しい情景描写、ストレートに感情を揺さぶってくるような登場人物の心理描写、初期〜中期の村山作品には今でも私の青春が詰まっている。そんな30代の読者は私だけではないだろう。


 

69.『OUT』/桐野夏生

深夜の弁当工場で働く主婦たちは、それぞれの胸の内に得体の知れない不安と失望を抱えていた。「こんな暮らしから脱け出したい」そう心中で叫ぶ彼女たちの生活を外へと導いたのは、思いもよらぬ事件だった。なぜ彼女たちは、パート仲間が殺した夫の死体をバラバラにして捨てたのか?犯罪小説の到達点。
「BOOK」データベースより引用

1994年に発生した未解決事件”井の頭公園バラバラ殺人事件“から着想を得たと言われる、桐野夏生の代表作。
弁当工場の夜勤を行う平凡な主婦たちが死体損壊と死体遺棄という犯罪に手を染めていく。何より犯罪に至る背景やアプローチなど4者4様の犯罪心理を描き分けていることで、物語へ入り込めるし作品としての軸がぶれることがない。
クライムサスペンスとしての疾走感や恐怖感も抜群、犯罪に加担する主婦たちが狂っていく様子は臨場感たっぷりで、日本推理作家協会賞として申し分ない傑作である。


 

70.『13階段』/高野和明

犯行時刻の記憶を失った死刑囚。その冤罪を晴らすべく、刑務官・南郷は、前科を背負った青年・三上と共に調査を始める。だが手掛かりは、死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶のみ。処刑までに残された時間はわずかしかない。二人は、無実の男の命を救うことができるのか。江戸川乱歩賞史上に燦然と輝く傑作長編。
「BOOK」データベースより引用

松山刑務所に勤務する刑務官がある死刑囚の冤罪を晴らすため、傷害致死の前科を持つ若者とともに調査に乗り出すという一風変わった設定のミステリー。
デビュー作にして江戸川乱歩賞受賞作の名にふさわしい出来栄えであり、フーダニットを突き詰めるだけでなく死刑制度・裁判制度にも一石を投じる内容になっている。
かといってそれに縛られすぎることはなく、解説の宮部みゆきの言葉を借りれば、「重いテーマに酔いしれることなく、慎重に冷静に書き進めている」のだと思う。


 

71.『BUTTER』/柚木麻子

男たちの財産を奪い、殺害した容疑で逮捕された梶井真奈子。若くも美しくもない彼女がなぜ―。週刊誌記者の町田里佳は親友の伶子の助言をもとに梶井の面会を取り付ける。フェミニストとマーガリンを嫌悪する梶井は、里佳にあることを命じる。その日以来、欲望に忠実な梶井の言動に触れるたび、里佳の内面も外見も変貌し、伶子や恋人の誠らの運命をも変えてゆく。各紙誌絶賛の社会派長編。
「BOOK」データベースより引用

実際に起きた首都圏連続婚活殺人を題材にした社会派小説。木嶋死刑囚が逮捕された当時や死刑が確定した際の報道を思い返す方も多いだろう。
世にも珍しいこの事件の概要をなぞりつつも、加害者のバックグラウンドや主人公である臨床心理士のサイドストーリーはフィクションとなっている。
主人公が「バター」をきっかけとして殺人犯に心乱され、外見・内面共に変貌していく様が生々しく描写されており、恐怖すら覚える。
他方、この”バター“に関しては物語の展開が作品のテーマから逸脱しないように繋ぎ止める役割も果たしていると感じる。
現実の事件をベースとした物語にフィクションとしての結末を付与し、後味も悪くないラストでまとめる。著者の力量を感じる作品である。


 

72.『冷静と情熱の間』/辻人成,江國香織

あのとき交わした、たわいもない約束。10年たった今、君はまだ覚えているだろうか。やりがいのある仕事と大切な人。今の僕はそれなりに幸せに生きているつもりだった。だけど、どうしても忘れられない人、あおいが、心の奥に眠っている。あの日、彼女は、僕の腕の中から永遠に失われてしまったはずなのに―。切ない愛の軌跡を男性の視点から描く、青の物語。
「BOOK」データベースより引用

絵画の修復士としてイタリアのフィレンツェで働く阿形順正と、大学時代にともに時間を過ごした忘れられない女性あおい、2人のラブストーリーを男性(順正)の視点で描いた作品。
テーマは純愛だが、フィレンツェやミラノの情景描写やアートへのリスペクトも感じられる、色々な意味で美しい作品。
本作品『冷静と情熱の間』は辻人成が男性(順正)目線で、江國香織が女性(あおい)目線でそれぞれ交互連載の形を取りながら綴られていった物語。上記に紹介しているのは男性目線の「Blu」。女性目線の「Rosso」も合わせて読んでほしい。
当時から人気作家であった2人の贅沢なタッグは小説ファンにはたまらない。2人それぞれの作品を別々に紹介することも考えたが、この作品が自分にとってはベストだと考えた。
ちなみに他作品は辻人成の『海峡の光』『オキーフの恋人 オズワルドの追憶』、江國香織の『きらきらひかる』『東京タワー』などがおすすめ。


 

73.『スロウハイツの神様』/辻村深月

人気作家チヨダ・コーキの小説で人が死んだ―あの事件から十年。アパート「スロウハイツ」ではオーナーである脚本家の赤羽環とコーキ、そして友人たちが共同生活を送っていた。夢を語り、物語を作る。好きなことに没頭し、刺激し合っていた6人。空室だった201号室に、新たな住人がやってくるまでは。
「BOOK」データベースより引用

アパート「スロウハイツ」での夢を追うクリエイターたちの共同生活を描いた作品で、スロウハイツに新たな住人加々美莉々亜が加わったことで物語が大きく動き出す。
他作品にも共通した特徴ではあるが、本作品もちょっぴり不思議でちょっぴり不気味な辻村ワールド全開。
まるで少女漫画のように心理描写やたわいもないやりとりにページが割かれているので、リズムが合わないと思う人はいるかもしれない。
とはいえ、そんな中に物語のポイントとなる伏線が隠されており、それが下巻で見事に回収されていく様は見事。
著者にしか描けない独特の空気感を心ゆくまでお楽しみあれ。


 

74.『鹿男あをによし』/万城目学

大学の研究室を追われた二十八歳の「おれ」。失意の彼は教授の勧めに従って奈良の女子高に赴任する。ほんの気休めのはずだった。英気を養って研究室に戻るはずだった。渋みをきかせた中年男の声が鹿が話しかけてくるまでは。「さあ、神無月だ―出番だよ、先生」。彼に下された謎の指令とは?古都を舞台に展開する前代未聞の救国ストーリー。
「BOOK」データベースより引用

奈良にある女子校に赴任した主人公が、奈良公園の”鹿らと繰り広げるファンタジーコメディ。
鹿が喋ったり、人間の顔が鹿になってしまったりとドタバタの連続だが、テンポが良く不思議とこれらのファンタジー要素がすんなり頭に入ってくるのでぐんぐん読み進められる。まさに万城目ワールドここにありといった作品である。
舞台設定や会話の小気味よさなど、同じく京大出身の森見登美彦作品に通じる箇所が多いが、歴史や神話などに結び付けた設定がよく練られており物語のアクセントになっている。
本作と合わせて関西三部作と呼ばれる『鴨川ホルモー』『プリンセス・トヨトミ』もおすすめ。


 

75.『国境』/黒川博行

「疫病神」コンビこと、建設コンサルタントの二宮と二蝶会幹部の桑原は北朝鮮に飛んだ。二宮は重機の輸出で、桑原は組の若頭がカジノ建設の投資話でそれぞれ詐欺に遭い、企んだ男を追ってのことだった。平壌に降り立ったふたりだが、そこには想像以上に厳しい現実と監視が待っていた。シリーズ最高傑作の呼び声高い超大作!
「BOOK」データベースより引用

大阪のヤクザ桑原と建設コンサルタント二宮、極道と堅気の凸凹コンビが繰り広げるハードボイルド小説。
本作は『厄病神シリーズ』の2作目にあたる。シリーズを通して人気を博し、5作目の『破門』では直木賞も受賞した。
シリーズの特徴は暴力と金にまみれた血みどろのアンダーグラウンド性ではあるが、しっかりと経済界の闇をあぶり出しており重厚な内容。
また何より桑原・二宮の大阪弁での小気味良いやり取りがコミカルで良いアクセントになっており、どうしてもクセになる。
本作はシリーズの中でも特に素晴らしい出来栄えで、上記のような特徴に加え、北朝鮮での潜伏活動が圧倒的なスリルを持って描写されている。


 

76.『あすなろ物語』/井上靖

天城山麓の小さな村で、血のつながりのない祖母と二人、土蔵で暮らした少年・鮎太。北国の高校で青春時代を過ごした彼が、長い大学生活を経て新聞記者となり、やがて終戦を迎えるまでの道程を、六人の女性との交流を軸に描く。明日は檜になろうと願いながら、永遠になりえない「あすなろ」の木の説話に託し、何者かになろうと夢を見、もがく人間の運命を活写した作者の自伝的小説。
「BOOK」データベースより引用

静岡で暮らした祖母との二人暮らしに始まり、青春時代や学生時代、そして新聞記者として働きながら戦争を経験した著者の自伝小説。
本作は著者本人曰く創作であり、井上靖の自伝小説としては『しろばんば』『夏草冬濤』『北の海』の3作品が該当する。一方本作はこの3つの作品、つまり著者の半生を網羅しているような内容になっている。
檜のように明日なろう」とするあすなろたちの姿を当時の時代背景とともに切なく描きながら、場面場面で主人公と関わり合いを持つ女性たちの強さが光る小説。読み終わるとやはりこれは自叙伝なのではないか?と思ってしまう。


 

77.『バッテリー』/あさのあつこ

「そうだ、本気になれよ。本気で向かってこい。―関係ないこと全部捨てて、おれの球だけを見ろよ」中学入学を目前に控えた春休み、岡山県境の地方都市、新田に引っ越してきた原田巧。天才ピッチャーとしての才能に絶大な自信を持ち、それゆえ時に冷酷なまでに他者を切り捨てる巧の前に、同級生の永倉豪が現れ、彼とバッテリーを組むことを熱望する。巧に対し、豪はミットを構え本気の野球を申し出るが―。
「BOOK」データベースより引用

野球の才能に溢れ、それゆえに唯我独尊のピッチャー巧が、キャッチャー豪との出会いや中学野球部の人間関係を通して野球や人間関係に向き合っていく。
うまくいかずやり場のない怒りを覚えたり、1人の力ではどうしようもなく行き場のない感情を覚えたり。女性作家とは思えないほど、思春期の男の子たちの心情を事細かに描いているのが特徴。
文庫本で6冊、続編に当たる「ラストイニング」まで含めれば計7冊に渡るシリーズもの。1冊あたりの分量は多くないので一気に読みきってしまうのが良い。
児童文学の傑作として教科書に掲載されるだけでなく、マンガやテレビアニメなど、多くの媒体でメディアミックス化されている。


 

78.『凍える牙』/乃南アサ

深夜のファミリーレストランで突如、男の身体が炎上した!遺体には獣の咬傷が残されており、警視庁機動捜査隊の音道貴子は相棒の中年デカ・滝沢と捜査にあたる。やがて、同じ獣による咬殺事件が続発。この異常な事件を引き起こしている怨念は何なのか?野獣との対決の時が次第に近づいていた―。女性刑事の孤独な闘いが読者の圧倒的共感を集めた直木賞受賞の超ベストセラー。
「BOOK」データベースより引用

女刑事音道貴子シリーズ」の第一作。刑事という究極の男性社会で生きるたくましい女性刑事の姿を描いた珍しい警察小説。
音道と男性刑事との掛け合いも含めキャリアウーマンの生き様をうまく描きつつ、ミステリーとしても魅力的なストーリー展開で男女問わず人気のシリーズ。
またタイトルからも連想できるかもしれないが、孤独なオオカミ犬の存在が物語のアクセントになっている。
あの『蒼穹の昴』を退けて直木賞を受賞した、完成度の高い刑事物。


 

79.『天地明察』/冲方丁

徳川四代将軍家綱の治世、ある「プロジェクト」が立ちあがる。即ち、日本独自の暦を作り上げること。当時使われていた暦・宣明暦は正確さを失い、ずれが生じ始めていた。改暦の実行者として選ばれたのは渋川春海。碁打ちの名門に生まれた春海は己の境遇に飽き、算術に生き甲斐を見出していた。彼と「天」との壮絶な勝負が今、幕開く―。日本文化を変えた大計画をみずみずしくも重厚に描いた傑作時代小説。第7回本屋大賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

江戸時代前期の囲碁棋士安井算哲(渋川春海)の生涯を描いた時代小説。
史実をベースにしながらもエンターテイメント性が高く、漫画化・映画化もされている。
碁打ちの名家に生まれた主人公が算術に魅入られ、改暦という当時の一大事業に命名されるというストーリー。
生涯をかけて一つの事業をやり抜く気概はもちろんのこと、現代では当たり前となったに隠された緻密さや難解さを伺い知ることができる。


 

80.『悼む人』/天童荒太

不慮の死を遂げた人々を“悼む”ため、全国を放浪する坂築静人。静人の行為に疑問を抱き、彼の身辺を調べ始める雑誌記者・蒔野。末期がんに冒された静人の母・巡子。そして、自らが手にかけた夫の亡霊に取りつかれた女・倖世。静人と彼を巡る人々が織りなす生と死、愛と僧しみ、罪と許しのドラマ。第140回直木賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

事故などで亡くなった人たちを”悼む“ために全国を旅する主人公の物語。
偽善や自己満足なのか?その行動の裏には後ろめたいことがある故なのか、作中の雑誌記者のようにたいていの人はそう思うだろう。
そして読み終わった後に「悼む」という言葉の意味を正確に理解できていなかった自分を恥じる人もいるだろう。
命の尊さを教えられる、自身の人生を問われるような作品。


 

81.『ストロベリーナイト』/誉田哲也

溜め池近くの植え込みから、ビニールシートに包まれた男の惨殺死体が発見された。警視庁捜査一課の警部補・姫川玲子は、これが単独の殺人事件で終わらないことに気づく。捜査で浮上した謎の言葉「ストロベリーナイト」が意味するものは?クセ者揃いの刑事たちとともに悪戦苦闘の末、辿り着いたのは、あまりにも衝撃的な事実だった。人気シリーズ、待望の文庫化始動。
「BOOK」データベースより引用

竹内結子主演でテレビドラマ・映画化もされた大人気シリーズで、警視庁捜査一課の女刑事姫川玲子を主人公とした警察小説のシリーズ1作目。
姫川を取り巻く部下や上司が皆個性的で、さらに上司と部下の関係性も良い。またシリーズが進むにつれメンバーの内面や境遇も深堀されていき、知らずのうちに姫川班の刑事たちのファンになっている。
本作だけでなくシリーズを通して事件や犯人の残虐性が目立っており、グロテスクなシーンも多くあるのが特徴。


 

82.『僕は勉強ができない』/山田詠美

ぼくは確かに成績が悪いよ。でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ―。17歳の時田秀美くんは、サッカー好きの高校生。勉強はできないが、女性にはよくもてる。ショット・バーで働く年上の桃子さんと熱愛中だ。母親と祖父は秀美に理解があるけれど、学校はどこか居心地が悪いのだ。この窮屈さはいったい何なんだ!凛々しい秀美が活躍する元気溌刺な高校生小説。
「BOOK」データベースより引用

勉強はできないけど女にモテる高校生の”僕”と、家族や恋人、同級生ら周辺人物との日々を描いた作品。
あらすじだけ見るといけ好かない、はすに構えた男子高校生を想像してしまうかもしれない。
ある部分ではその通りなのだが、本質は人とは違う自分を思春期の高校生が不器用に表現しようとしている様子がとても愛らしく描写されているところ。
多様性の現代を先取りしたようなテーマに先見の明を感じつつ、読みやすく平易な文章で今も昔も人気の作品。


 

83.『解夏』/さだまさし

東京で教師をしていた隆之は、視力を徐々に失っていく病におかされ、職を辞し、母が住む故郷の長崎に帰った。そこへ東京に残した恋人の陽子がやってくる。この先の人生を思い悩む隆之。彼を笑顔で支えようとする陽子。ある日、二人はお寺で出会った老人から「解夏」の話を聞く―。表題作他、人間の強さと優しさが胸をうつ、感動の小説集。
「BOOK」データベースより引用

さだまさしによる、表題作を含めた4編からなる短編集。
「解夏」は難病で視力を失っていく若者を描いた作品。主人公の苦悩を精巧に描くだけでなく、低下する視力で目に焼き付けようとする故郷長崎の風景は、どこか懐かしさを感じるような優しさをも孕んでいる。
他作品も名作ぞろい。音楽の才能だけでなく、文学的才能もずば抜けているのだと著作を読むたびに思い知る。


 

84.『心淋し川』/西條奈加

不美人な妾ばかりを囲う六兵衛。その一人、先行きに不安を覚えていたりきは、六兵衛が持ち込んだ張形に、悪戯心から小刀で仏像を彫りだして…(「閨仏」)。飯屋を営む与吾蔵は、根津権現で小さな女の子の唄を耳にする。それは、かつて手酷く捨てた女が口にしていた珍しい唄だった。もしや己の子ではと声をかけるが―(「はじめましょ」)他、全六編。生きる喜びと哀しみが織りなす、渾身の時代小説。
「BOOK」データベースより引用

2020年下半期に直木賞を受賞した本作、江戸の心町を舞台に長屋に住む人々の生活や恋愛を描いた時代物の連作短編集。
この時代の人々の悩みをそれぞれの章で丁寧に描写しており、それぞれの短編は切ないもの、心温まるもの、少し肝が冷えるものとバラエティに富んでいる。
そしてラストにそれらが綺麗に繋がる。江戸の人情や風情も感じられる作品。


 

85.『四日間の奇蹟』/浅倉卓弥

第1回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞金賞受賞作として、「描写力抜群、正統派の魅力」「新人離れしたうまさが光る!」「張り巡らされた伏線がラストで感動へと結実する」「ここ十年の新人賞ベスト1」と絶賛された感涙のベストセラーを待望の文庫化。脳に障害を負った少女とピアニストの道を閉ざされた青年が山奥の診療所で遭遇する不思議な出来事を、最高の筆致で描く癒しと再生のファンタジー。
「BOOK」データベースより引用

第1回「このミス」大賞作品ではあるが、実際には心温まるSFファンタジー小説である。
両親を失い障害を持つ少女と、彼女を守るためにピアニストとして致命的な傷を負った青年が、落雷をきっかけに不思議な体験をする、というストーリー。
あらすじからは想像もできない大胆な展開、タイトルに込められた意味、そして感動のラスト。読後に大変満足感、充実感を感じられる作品。
本作品は著者のデビュー作なのだが、2作目の『君の名残を』はSFファンタジーに歴史要素、恋愛要素が絡んでおりまた面白い。


 

86.『博士の愛した数式』/小川洋子

「ぼくの記憶は80分しかもたない」博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた―記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。
「BOOK」データベースより引用

事故の後遺症で80分しか記憶が保たない数学者と、彼の家で働く家政婦さんの日常を描いた物語。
数学というロジカルな学問が時に人と人をつなぐコミニュケーションツールになる。数学に関する知識も適度に含まれていてそれが物語のアクセントになっている。
ゆったりした時間の中で人を思いやる気持ちの大切さを教えてくれる、優しさに溢れた心温まる物語。


 

87.『贖罪の奏鳴曲』/中山七里

御子柴礼司は被告に多額の報酬を要求する悪辣弁護士。彼は十四歳の時、幼女バラバラ殺人を犯し少年院に収監されるが、名前を変え弁護士となった。三億円の保険金殺人事件を担当する御子柴は、過去を強請屋のライターに知られる。彼の死体を遺棄した御子柴には、鉄壁のアリバイがあった。驚愕の逆転法廷劇!
「BOOK」データベースより引用

クセのある悪辣弁護士御子柴礼司を主人公とした法廷ミステリーシリーズの1作目。
自身の罪と向き合いながら、真摯に事件に対応していく御子柴の魅力あるキャラクターに加え、手に汗握る迫力のある法廷での弁論、これぞ中山七里という大どんでん返しとエンターテイメント性に溢れた作品。
ミステリー作家の中でも超速筆で知られており、他にも音楽家を主人公とした「岬洋介シリーズ」、解剖医を主人公とした法医学ミステリー「ヒポクラテスシリーズ」など人気シリーズ多数。


 

88.『八日目の蝉』/角田光代

逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるだろうか…。東京から名古屋へ、女たちにかくまわれながら、小豆島へ。偽りの母子の先が見えない逃亡生活、そしてその後のふたりに光はきざすのか。心ゆさぶるラストまで息もつがせぬ傑作長編。第二回中央公論文芸賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

不倫相手の子供を衝動的に誘拐してしまった女の逃亡劇と、彼女に育てられた子供の葛藤を描いた作品。
誘拐後の3年間の行動・足跡がとてもリアルに辿られているのに驚くが、この話が実際に起こった事件を元にしていることに更に驚く。
女性にしか描けないような感情の揺れ動きはさすが角田光代。「母性」がテーマとのことだが、タイトルから連想されるイメージと読後のギャップには爽やかさすら感じる。


 

89.『イン・ザ・プール』/奥田英朗

「いらっしゃーい」。伊良部総合病院地下にある神経科を訪ねた患者たちは、甲高い声に迎えられる。色白で太ったその精神科医の名は伊良部一郎。そしてそこで待ち受ける前代未聞の体験。プール依存症、陰茎強直症、妄想癖…訪れる人々も変だが、治療する医者のほうがもっと変。こいつは利口か、馬鹿か?名医か、ヤブ医者か。
「BOOK」データベースより引用

精神科医伊良部一郎と、心の病に悩まされる患者との触れ合いを描いた小説。
センシティブな題材であり中には深刻な症状も含まれるが、伊良部一郎のキャラクターや文体から全体としてコミカルな印象が伝わってくる。
笑いを誘う伊良部の言動や患者とのやり取りを通して、最終的には解決に向かう。どこかホッとする読後感を味わえる。
続編『空中ブランコ』が直木賞を受賞したことでも有名。『町長選挙』と合わせて3部作となっているが、一話完結形式なのでどれから読んでも問題なく楽しめる。


 

90.『コンビニ人間』/村田沙耶香

「いらっしゃいませー!」お客様がたてる音に負けじと、私は叫ぶ。古倉恵子、コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。ある日婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて…。現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

コンビニバイト歴は生きてきた人生の半分、日々の暮らしのほとんどをコンビニに費やす独身アラフォー女性を主人公とした物語。
いわゆる発達障害やアスペルガー症候群といった症状を連想させる描写が点在するが、具体的な記述はない。
あくまでも普通の、でも少し変わったコンビニアルバイトが日々を生きる様子が淡々と描かれる。
普通とは何か、何が幸せなのかを激しく考えさせられる。主人公の性格も、境遇も、そして彼女が行き着くこの物語の結末も、人それぞれの生き方があっていいと思えるような作品。
多様性の時代だからこそ受け入れられる、現代の「芥川賞」らしい作品。


 

91.『昨夜のカレー、明日のパン』/木皿泉

7年前、25歳で死んでしまった一樹。遺された嫁・テツコと今も一緒に暮らす一樹の父・ギフが、テツコの恋人・岩井さんや一樹の幼馴染みなど、周囲の人物と関わりながらゆるゆるとその死を受け入れていく感動作。本屋大賞第二位&山本周五郎賞にもノミネートされた、人気夫婦脚本家による初の小説。
「BOOK」データベースより引用

夫と妻、夫婦二人三脚で「木皿泉」というペンネームで活動されている脚本家の小説デビュー作。脚本では『野ブタ。をプロデュース』が有名。
夫に先立たれた若妻と、義父との共同生活における日常を描いた作品。
夫が死んだのは7年前だが、家族を失った悲しみが消えるわけではない。それでも時が経てば徐々に前を向いて歩き出さなくてはいけない。
登場人物はクセもあったりするが皆優しく、彼らとの日常がコミカルに描くことでテーマを重くしすぎないようにしているがそれがかえって涙を誘う。


 

92.『羊と鋼の森』/宮下奈都

ゆるされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。ピアノの調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。
「BOOK」データベースより引用

田舎に住む寡黙な少年が、ピアノの調律師との出会いをきっかけに、自らも調律師を志す物語。
先輩調律師や双子の演奏家との出会いを通して、寡黙だった少年が自らの意思を表現しはじめ、社会人として成長していく様子が丁寧に描かれている。
表面上は穏やかに、けれど内面は熱く。仕事への熱意が読者を惹きつけつつ、登場人物の誠実さが物語を引き締めていて、大きな展開こそないが、じんわり暖かい気持ちにさせてくれる優しい作品。


 

93.『そしてバトンは渡された』/瀬尾まいこ

幼い頃に母親を亡くし、父とも海外赴任を機に別れ、継母を選んだ優子。その後も大人の都合に振り回され、高校生の今は二十歳しか離れていない“父”と暮らす。血の繋がらない親の間をリレーされながらも出逢う家族皆に愛情をいっぱい注がれてきた彼女自身が伴侶を持つとき―。大絶賛の本屋大賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

死別や離婚、転勤などで親が何回も変わり、本当の家族がいなくなった女子高生を主人公に、家族や幸せの形を問う物語。
お世辞にも幸せとは言い難い境遇に置かれても、主人公はあっけらかんとしており、物語全体も淡々と進んでいく印象を受ける。
終盤にかけては主人公が自分なりの幸せを掴み、ほっこりするし爽やかな読後感も味わえる。非常に読みやすい作品。


 

94.『犯罪者』/太田愛

白昼の駅前広場で4人が刺殺される通り魔事件が発生。犯人は逮捕されたが、ただひとり助かった青年・修司は搬送先の病院で奇妙な男から「逃げろ。あと10日生き延びれば助かる」と警告される。その直後、謎の暗殺者に襲撃される修司。なぜ自分は10日以内に殺されなければならないのか。はみだし刑事・相馬によって命を救われた修司は、相馬の友人で博覧強記の男・鑓水と3人で、暗殺者に追われながら事件の真相を追う。
「BOOK」データベースより引用

大人気ドラマ「相棒」シリーズの脚本を手がけたことで知られる太田愛の作家デビュー作品。
ある通り魔事件の被害者である主人公が、その後何者かに襲われるようになるというストーリーで、通り魔事件に隠された陰謀を、薬害や環境問題、大企業と政治家の癒着問題と多岐に渡るテーマを絡めて描いたクライムサスペンス。
登場人物による小気味良いやりとりやスピーディーな展開はさすが売れっ子脚本家であると感じる。
なお『幻夏』、『天上の葦』とシリーズになっているので、3作品順番通りに読んだ方が楽しめる。


 

95.『窓ぎわのトットちゃん』/黒柳徹子

「君は、ほんとうは、いい子なんだよ。」小林先生のこの言葉は、トットちゃんの心の中に、大いなる自信をあたえてくれました―。トモエ学園の、子どもたちの心をつかんだユニークな教育の実際と、そこに学ぶ子どもたちのすがたをえがいた感動の名作「窓ぎわのトットちゃん」を子どもたち自身におくります。
「BOOK」データベースより引用

かつて実在した私立の学校「トモエ学園」を舞台に、黒柳徹子の幼少期を書き綴った自伝小説。作中に出てくる名前も全て実名とのことで、完全なノンフィクション作品である。
女優やタレントとして今なお活躍する黒柳徹子の根っこの部分がここにはある。当時はただの落ち着きがない子供とレッテルを貼られる時代だと思うが、トモエ学園の自由な校風と関係者の器の大きさにただただ感動する。
平易な文章で読みやすく、児童書として素晴らしい。それに加え現代では発達障害に悩む家庭も多い。そうした関係者を勇気付けてくれる作品としても価値が高い小説である。


 

96.『しんがり 山一證券最後の12人』/清武英利

1997年、四大証券の一角を占める山一證券が突如破綻に追い込まれた。幹部たちまでもが我先にと沈没船から逃げ出すなかで、最後まで黙々と真相究明と清算業務を続けたのは、社内中から「場末」と呼ばれる部署の社員だった。社会部時代に「四大証券会社の損失補填」「日債銀の粉飾疑惑」など、数々のスクープを放った伝説の記者・清武英利、渾身のビジネス・ノンフィクション。
「BOOK」データベースより引用

かつて野村・大和・日興とともに四大証券と呼ばれていた山一證券が自主廃業に追い込まれた際、最後まで清算業務に当たった12人の社員の奮闘を描いた経済小説。
再就職で難局からの脱却を図る社員がほとんどの中で、まさに部隊の最後尾よろしく「しんがり」を務めた社員の姿は文句なく賞賛に値する。
加えてなぜ廃業に追い込まれてしまったのか、巨大企業の抱える闇を綿密な取材によって詳細に描いていおり、ノンフィクション小説として非常に興味深い。
巨大企業が没落していく様を描いたという観点では、コダックの倒産を題材にした楡周平の『象の墓場』もおすすめ。


 

97.『村上海賊の娘』/和田竜

時は戦国。乱世にその名を轟かせた海賊衆がいた。村上海賊―。瀬戸内海の島々に根を張り、強勢を誇る当主の村上武吉。彼の剛勇と荒々しさを引き継いだのは、娘の景だった。海賊働きに明け暮れ、地元では嫁の貰い手のない悍婦で醜女。この姫が合戦前夜の難波へ向かう時、物語の幕が開く―。本屋大賞、吉川英治文学新人賞ダブル受賞!木津川合戦の史実に基づく壮大な歴史巨編。
「BOOK」データベースより引用

戦国時代の瀬戸内を舞台に、当時実在した村上水軍を題材にしたエンタメ性の高い歴史小説。
本作の主人公となる娘・景は村上水軍の当主・村上武吉の娘として実在することは史実に残っているが、物語自体は著者の創作である。
当時の毛利家と織田家の間で起こった第一次木津川口の戦いでの村上水軍の海戦を迫力たっぷりに描いている。
歴史小説ではあるが言葉遣いなどを意図して現代風にアレンジしており、個々の登場人物も個性がはっきりしているため、長編ではあるが非常に読みやすくなっている。本屋大賞にぴったりの作品と言える。


 

98.『蹴りたい背中』/綿矢りさ

“この、もの哀しく丸まった、無防備な背中を蹴りたい”長谷川初実は、陸上部の高校1年生。ある日、オリチャンというモデルの熱狂的ファンであるにな川から、彼の部屋に招待されるが…クラスの余り者同士の奇妙な関係を描き、文学史上の事件となった127万部のベストセラー。史上最年少19歳での芥川賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

インストール』で衝撃的なデビューを果たした綿矢りさの2作目に当たる中編小説は、仲間から除け者にされた少女ハツと、アイドルオタクのにな川のやり取りを描いた青春小説。
周囲に溶け込めない2人ではあるが、その立場は実は異なる。思春期の微妙な対人関係を丁寧な心理描写で表現した作品。
本作は早稲田大学在学中に執筆され、金原ひとみとともに史上最年少(当時19歳)で芥川賞を受賞した。
この作品を10代で書くことができ、芥川賞を受賞する。何よりもその事実・快挙が素晴らしい。


 

99.『海が聞こえる』/氷室冴子

高知の高校を卒業した杜崎拓は、東京の大学に進学し、一人暮らしを始めた。その矢先、同郷の友人から武藤里伽子が東京の大学に通っていると聞く。里伽子は高知の大学に行っていたのではなかったのか?拓の思いは、自然と2年前のあの夏の日へと戻っていった。高校2年の夏の日、訳あって東京から転校してきた里伽子。里伽子は、親友が片思いする相手だけだったはずなのに…。その年のハワイへの修学旅行までは…。
「BOOK」データベースより引用

1993年にスタジオジブリでアニメ化された『海が聞こえる』、その原作小説。
大学進学を機に高知から上京した主人公が、同窓会をきっかけに高校時代の淡い想い出を振り返る、というストーリー。
都会から転校してきたヒロインへの恋心は甘酸っぱい青春の奇跡であり、大学時代(現在)との比較でそれが際立つように描かれている。
小説のようなドラマチックな出来事などなくても、主人公の姿に自分を重ね、当時はこんなことがあったなと自身の青春を思い返すことができる。そんな懐かしさに溢れた作品。
続編の『海がきこえるII〜アイがあるから〜』と合わせて読むことをおすすめする。


 

100.『化物語』/西尾維新

阿良々木暦を目がけて空から降ってきた女の子・戦場ヶ原ひたぎには、およそ体重と呼べるようなものが、全くと言っていいほど、なかった―!?台湾から現れた新人イラストレーター、“光の魔術師”ことVOFANと新たにコンビを組み、あの西尾維新が満を持して放つ、これぞ現代の怪異!怪異!怪異。
「BOOK」データベースより引用

この記事で紹介する100冊の中で唯一の「ライトノベル」は、西尾維新の”物語シリーズ“の1作目。
原作の人気っぷりに加え、アニメや漫画などのメディアミックスで知らぬものはいない大人気シリーズとなっている。
西尾維新といえばなんと言っても独特なセリフの言い回し・言葉遊びが特徴だが、本作の主題である怪異の設定は伝承をモチーフにしつつとてもよく練られており、また怪異とのバトル(アクション)シーンは迫力もある。
それでいて本質のコメディや、主人公とヒロインたちの恋愛模様と様々な要素が高クオリティで同居しており、ライトノベルの枠を超えた傑作と言える。


 

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