吉川英治新人文学賞、歴代受賞作品からおすすめ20作品を紹介!

1980年から創設され、「その年優秀な小説を発表した作家の中から、最も将来性のある新人作家に贈られる」文学賞である「吉川英治新人文学賞」。

新人作家に贈られるというコンセプトではありますが非公募であり、これまでの実績をみると中堅クラスの作家が受賞していることが多いです。

なお1967年から創設されている吉川英治文学賞はベテラン作家の受賞が多いということで、棲み分けが出来ているようです。

この記事では、そんな吉川英治新人文学賞受賞作品からおすすめ小説を20冊紹介していきます。

こんな方々におすすめです。

・中堅クラス以上の作家による、完成度の高い大衆小説を読みたい!
・様々なジャンルのおすすめ小説を探したい!

今回は歴代受賞作品のほぼ半数に当たる20作品に限定しておりますが、あくまで私のお気に入りや、思い入れの強い作品を厳選しております。ここで紹介している/していないが作品の優劣を判断するものではありませんので、予めご了承ください。

またここに紹介する作品の大部分が電子書籍で読むことが可能です。もちろん紙には紙の良さがありますが、安く買えたり場所を取らなかったりと電子書籍のメリットもあります。是非平行してご利用ください。

「吉川英治新人文学賞」受賞作品おすすめ20選!!

作品を紹介する前に、今回のおすすめ作品の紹介の仕方についてご説明します。

1.紹介するのは歴代受賞作品の内、20作品

2.紹介するのは受賞順が早いものから

それでは、是非最後まで読んでいただけると幸いです。

・第2回:『絃の聖域』/栗本薫

長唄の人間国宝の家元、安東家の邸内で女弟子が殺された。芸事に生きる親子、妾、師弟らが、三弦が響き愛憎渦巻くなかで同居している閉ざされた旧家。家庭教師に通っている青年、伊集院大介の前で繰り広げられる陰謀そして惨劇。その真相とは!?名探偵の誕生を高らかに告げた、栗本薫ミステリーの代表作。
「BOOK」データベースより引用

グイン・サーガ』や『魔界水滸伝』シリーズなどSFやファンタジー作品を量産する彼女であるが、探偵”伊集院大介“を主人公としたミステリーシリーズも非常に評価が高い。
この作品は伊集院大介が初登場するシリーズ1作目でありながら塾講師時代を描いたものであり、時系列としては学生時代を描いた他作品の後に当たる。
古典芸能の家元一家で起きた殺人事件に、家庭教師として通っていた伊集院が関わることになるというストーリーであるが、愛憎の沼地と作中で評される一家において、被害者には殺害される”動機“が存在しない。
誰が何故殺したのか、驚くべき真犯人と犯行の動機を示しつつも、芸能の奥深さに踏み込んだ快作である。


 

・第4回:『眠りなき夜』/北方謙三

弁護士・谷の同僚、戸部が失踪、つづいて彼と関わりのあった小山民子が殺された。彼女が書き残したメモを手がかりに、谷は山形県S市に飛んだ。事件の深奥を探る中、早速、3人組に襲われる。黒幕とみられる大物政治家・室井などの名が浮かぶが、事件の謎は深まるばかり。そして戸部の惨殺体発見……。民子との間に何があったのか?室井との関連は?友の死を追って、谷は深い闇を解明すべく、熱い怒りを雪の街に爆発させる。
「BOOK」データベースより引用

国内ハードボイルド小説を語る上では外せない著者の代表作。吉川英治文学新人賞に加え第1回日本冒険小説協会大賞も受賞している。
同僚弁護士の失踪が、山形と東京を舞台に政治家が絡む壮大な事件へと発展していく展開はスピード感満載。
また犯人、黒幕は物語を読み進める上で予想可能であるが、そこに予想不可能な+αの結末と切なさが用意されている点が素晴らしい。考え抜かれた著者の計算にハマるある種の心地良さがある。
北方謙三作品は登場人物のリンクも魅力の一つである。弁護士谷は続編『夜が傷つけた』でも登場、また作中で登場する高樹警部は『檻』や「挑戦シリーズ」にも脇役として登場するだけでなく、「老犬シリーズ」では主人公として活躍している。


 

・第6回:『山猫の夏』/船戸与一

ブラジル東北部の町エクルウは、アンドラーデ家とビーステルフェルト家に支配されている。両家はことごとに対立反目し、殺し合いが絶えない。そんな怨念の町に「山猫」こと弓削一徳がふらりと現れた。山猫の動く所、たちまち血しぶきがあがる。謎の山猫の恐るべき正体はいつ明かされる。
「BOOK」データベースより引用

日本冒険小説協会大賞の受賞回数は史上最多の6回、名実ともに冒険小説の第一人者である著者の代表作。
登場人物や設定は異なるものの、同じく南米を舞台にした『神話の果て』『伝説なき地』とともに南米三部作と呼ばれている。
ブラジルの田舎町を舞台に、互いに憎み合う両家を利用する日本人の”山猫“。おびただしい数の死者が出る血なまぐさいストーリーであるものの、強烈で人を惹きつける山猫のキャラクターに加えて迫力あるアクション、先の読めない展開とまさにロマン溢れる冒険小説である。
またブラジルをめぐる世界情勢や、現地移民の歴史など物語を支える情報も過不足なく詰まっており、最後まで読めば灼熱のブラジルの大地に焦がれることは間違いないだろう。


 

・第10回:『99%の誘拐』/岡嶋二人

末期ガンに冒された男が、病床で綴った手記を遺して生涯を終えた。そこには八年前、息子をさらわれた時の記憶が書かれていた。そして十二年後、かつての事件に端を発する新たな誘拐が行われる。その犯行はコンピュータによって制御され、前代未聞の完全犯罪が幕を開ける。
「BOOK」データベースより引用

誘拐の岡嶋」の異名を持つ誘拐ミステリの名手、コンビである彼らの代表作である。
パソコンを駆使した誘拐の手法は30年以上経った現代ではさすがに古めかしく感じるものの、とにかくアイディアが素晴らしい。
そして本作の魅力は、犯人が分かっていても面白さが全く損なわれない点である。過去と現在、2つの誘拐事件を対比させることで控えめではあるが確実に読者の心情に訴え、感情移入を誘う。一切無駄の無い完璧なストーリー運びである。


 

・第12回:『新宿鮫』/大沢在昌

ただ独りで音もなく犯罪者に食らいつく―。「新宿鮫」と怖れられる新宿署刑事・鮫島。歌舞伎町を中心に、警官が連続して射殺された。犯人逮捕に躍起になる署員たちをよそに、鮫島は銃密造の天才・木津を執拗に追う。突き止めた工房には、巧妙な罠が鮫島を待ち受けていた!絶体絶命の危機を救うのは…。
「BOOK」データベースより引用

新宿署に勤務する刑事鮫島を主人公とした警察小説で、日本を代表するハードボイルド小説でもある。
鮫島というアウトローが新宿を舞台に、凶悪犯やヤクザ、果ては警察内部で孤独に闘う様子を魅力たっぷりに描いた作品。
舞台となるのはバブル期の新宿・歌舞伎町。今は無きコマ劇場をはじめ、当時のネオンきらめく歓楽街をイメージしながら読むのも一興。
基本は1冊ごとに事件が解決していく完結型だが、シリーズが進むにつれ見えざる敵の姿が徐々に明らかになっていくため、シリーズ続編も含めて読んでみると良いだろう。


 

・第13回:『今夜、すべてのバーで』/中島らも

「この調子で飲み続けたら、死にますよ、あなた」。それでも酒を断てず、緊急入院するはめになる小島容。ユニークな患者たち、シラフで現実と対峙する憂鬱、親友の妹が繰り出す激励の往復パンチ。実体験をベースに生と死のはざまで揺らぐ人々を描いた、すべての酒飲みに捧ぐアル中小説。第13回吉川英治文学新人賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

重度のアルコール依存により緊急入院することになった主人公の入院生活を描いた、入院記と言える作品。
自覚症状から医者の言葉、入院生活の細部まで非常にリアルな描写が続く。著者の実体験が元になっているのも納得である。
またアルコール依存はもちろん、薬やドラッグの知識も半端ないが、それを丁寧に説明することでこれらの怖さを実直に読者に伝えようとしている姿勢が見て取れる。
すべての酒飲みに捧ぐアル中小説」とはよくいったもので、確かにお酒を飲む人は一度読んでおいて損はない名作である。


 

・第13回:『本所深川ふしぎ草紙』/宮部みゆき

近江屋藤兵衛が殺された。下手人は藤兵衛と折り合いの悪かった娘のお美津だという噂が流れたが…。幼い頃お美津に受けた恩義を忘れず、ほのかな思いを抱き続けた職人がことの真相を探る「片葉の芦」。お嬢さんの恋愛成就の願掛けに丑三つ参りを命ぜられた奉公人の娘おりんの出会った怪異の顛末「送り提灯」など深川七不思議を題材に下町人情の世界を描く7編。宮部ワールド時代小説篇。
「BOOK」データベースより引用

現在の東京都墨田区に江戸時代から伝わる都市伝説”本所七不思議“。
落語等でも語り継がれてきた怪談を題材とした短編集で、七不思議それぞれの名称をタイトルとした7編が収録されている。
ベースとなっているのは奇談・怪談と呼ばれる七不思議ではあるが、内容としては家族や職場などの人間関係に端を発する問題を、回向院の茂七親分が解決していくというもの。決して怖い話ではなく、江戸時代の人情を感じられるものとなっている。
良い余韻に浸れるストーリー展開はさすが宮部みゆきである。


 

・第16回:『地下鉄に乗って』/浅田次郎

地下鉄駅の階段を上がると、そこは三十年前の、家族と暮らした懐かしい町。高校生で自殺をした兄の命日となる日だった。兄の姿を見つけた真次は運命を変えようとするが、時間を行き来するうちにさらなる過去にさかのぼり…。いつの時代も懸命に生きた人びとがいた。人生という奇跡を描く、感動の傑作長編。
「BOOK」データベースより引用

ある日ふとしたきっかけで30年前にタイムスリップしたサラリーマンを主人公に、SFファンタジー設定を盛り込んだヒューマンドラマ
過去と現在を行き来する中で、自分の大切なことや蓋をしてきた本当の気持ちに気付かされていく。歴史・時代小説でも有名な著者だが、作風の幅広さには本当に驚かされる。
戦後の闇市や東京オリンピックなど、タイムスリップ先では昭和レトロな世界観が展開される。人物描写も時代を感じさせる部分もあるが、この頃の日本人をよく体現しているとも言える。


 

・第17回:『ホワイトアウト』/真保裕一

日本最大の貯水量を誇るダムが、武装グループに占拠された。職員、ふもとの住民を人質に、要求は50億円。残された時間は24時間!荒れ狂う吹雪をついて、ひとりの男が敢然と立ち上がる。同僚と、かつて自分の過失で亡くした友の婚約者を救うために―。圧倒的な描写力、緊迫感あふれるストーリー展開で話題をさらった、アクション・サスペンスの最高峰。
「BOOK」データベースより引用

織田裕二主演で映画化もされた代表作。ダムを占拠し、そこにいる職員や下流に住む住民を人質として身代金を要求する、少し変わった誘拐サスペンス。
日本最大の貯水量を誇るダムが何故占拠されるに至ったのか、犯人グループが目をつけたポイントも踏まえながら明快に解説しており、物語にすんなり入っていくことが出来る。
本作品の魅力は、アクションとサスペンスの高いレベルでの共存にあると考える。過酷な雪山を舞台にした主人公の奮闘は、まるで著者が実際に体験してきたのではと思わせる程の迫力があり、また終始ハラハラする緊迫の展開に加え、終盤に発動する仕掛けは誘拐ミステリーとしても一級品であると感じさせる。
この作品は主人公の無謀とも思える行動力がベースとなっているが、彼を突き動かす原動力もしっかり語られている点も素晴らしい。山に生きる男の熱意は作品を通してぶれることがない一貫性を保有している。


 

・第18回:『不夜城』/馳星周

新宿・アンダーグラウンドを克明に描いた気鋭のデビュー作!おれは誰も信じない。女も、同胞も、親さえも…。バンコク・マニラ、香港、そして新宿―。アジアの大歓楽街に成長した歌舞伎町で、迎合と裏切りを繰り返す男と女。見えない派閥と差別のなかで、アンダーグラウンドでしか生きられない人間たちを綴った衝撃のクライム・ノベル。
「BOOK」データベースより引用

クライムノベルで一世を風靡した馳星周のデビュー作。
新宿・歌舞伎町で生きる日中ハーフ健一を主人公に、中国マフィアたちの抗争に巻き込まれていく。
北京や上海、台湾といった縄張り争いが存在する歌舞伎町で、どこにも属さない半端者が生き抜くための知恵と戦略が、ノワールとバイオレンスの中に詰まっている。
不夜城シリーズとして後2作品存在する。どちらも健一が主人公ではないが、2作目は日本推理作家協会賞を受賞するなど、いずれも名作であリおすすめ。

「不夜城」シリーズ一覧

1.『不夜城』(1996)
2.『鎮魂歌 不夜城II』(1997)
3.『長恨歌 不夜城完結編』(2004)


 

・第20回:『恋愛中毒』/山本文緒

もう神様にお願いするのはやめよう。―どうか、どうか、私。これから先の人生、他人を愛しすぎないように。他人を愛するぐらいなら、自分自身を愛するように。哀しい祈りを貫きとおそうとする水無月。彼女の堅く閉ざされた心に、小説家創路は強引に踏み込んできた。人を愛することがなければこれほど苦しむ事もなかったのに。世界の一部にすぎないはずの恋が私のすべてをしばりつけるのはどうしてなんだろう。
「BOOK」データベースより引用

離婚経験のある女性が、奔放な作家に出会い惹かれた過去の恋愛話を後輩社員に語っていく、というストーリー。
どこか厭世的に思える彼女の言動には違和感を覚えつつも、中盤までは純粋な恋愛小説である。一方で、作品タイトル「恋愛中毒」の本当の意味が分かる後半には予想外の展開が待ち受けている。
近年では仕掛けを施した作品も増えているが、他者からの視点が見えづらい一人称を効果的に用い、盲目な恋愛感情を表現した手法も見事である。


 

・第25回:『アヒルと鴨のコインロッカー』/伊坂幸太郎

引っ越してきたアパートで出会ったのは、悪魔めいた印象の長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。彼の標的は―たった一冊の広辞苑!?そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、なぜか僕は決行の夜、モデルガンを手に書店の裏口に立ってしまったのだ!注目の気鋭が放つ清冽な傑作。第25回吉川英治文学新人賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

同年2003年に刊行された『重力ピエロ』と合わせて、伊坂幸太郎の名を一気に全国区とした人気作品。多くの人気作品の中でもミステリー色が強く、本格推理小説としても高い評価を受けている。
登場人物の飄々とした雰囲気やテンポの良いやりとりはそのままに、なぜ広辞苑一冊のために本屋を襲撃するのか、2年前と現在を交互に行き来しながら次第にその全容を覗かせるストーリー展開が見事。
ラストに仕掛けられたトリックが炸裂する瞬間は、ミステリー作家としても一級品であると感じさせられる。


 

・第25回:『ワイルドソウル』/垣根涼介

その地に着いた時から、地獄が始まった―。1961年、日本政府の募集でブラジルに渡った衛藤。だが入植地は密林で、移民らは病で次々と命を落とした。絶望と貧困の長い放浪生活の末、身を立てた衛藤はかつての入植地に戻る。そこには仲間の幼い息子、ケイが一人残されていた。そして現代の東京。ケイと仲間たちは政府の裏切りへの復讐計画を実行に移す!歴史の闇を暴く傑作小説。
「BOOK」データベースより引用

棄民とも呼ばれる日本政府に見放されたブラジル移民たちの実態と、日本政府への復讐劇を描いたサスペンス。
序章に当たる1960年代のブラジル移民の描写は暗澹たる気持ちになるが、ここで感情移入をさせることによりその後の疾走感あふれる復讐劇に繋がってくるのだと思う。
恋愛要素やサスペンス要素を入り混じらせ、これしかないという結末に落ち着かせる。爽快感を感じさせるラストに著者の筆力を感じる。
歴史を知ることはもちろん重要だが、復讐劇を報じるメディア側の登場人物である貴子を通して、現代を生きる人が自らの人生に意義や目的を見出すこと、その大切さを発信した作品ではないだろうか。
吉川英治文学新人賞に加えて、大藪春彦賞日本推理作家協会賞のトリプル受賞を果たした傑作。


 

・第26回:『夜のピクニック』/恩田陸

高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために―。学校生活の思い出や卒業後の夢などを語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。本屋大賞を受賞した永遠の青春小説。
「BOOK」データベースより引用

24時間かけて80kmという長い距離を歩く、高校の伝統行事「歩行祭」に臨む高校生たちを描いた作品。
3年間同じ時を過ごした仲間たちと夜歩く、日常の延長だけどどこか非日常なイベント「歩行祭」をリアルに描き、生徒たちの様々な感情を一つ一つ丁寧に言語化する心理描写が素晴らしい。
思わず自分の高校時代を思い返さずにはいられない、これぞ青春小説といった作品である。
吉川英治文学新人賞に加えて、第2回本屋大賞をダブル受賞した名作。


 

・第27回:『隠蔽捜査』/今野敏

竜崎伸也は、警察官僚である。現在は警察庁長官官房でマスコミ対策を担っている。その朴念仁ぶりに、周囲は“変人”という称号を与えた。だが彼はこう考えていた。エリートは、国家を守るため、身を捧げるべきだ。私はそれに従って生きているにすぎない、と。組織を揺るがす連続殺人事件に、竜崎は真正面から対決してゆく。警察小説の歴史を変えた、吉川英治文学新人賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

原理原則の信念とキャリアとしてのプライドを持つ警察官、竜崎警視長を主人公とする警察小説。
東大卒のキャリアであり不器用すぎるほどに実直な竜崎のキャラクターは、今までの警察小説では受け入れられなかった個性であると思う。
ところが現場と上層部の板挟みにあいながら、現場指揮官という中間管理職のポジションで業務にあたる主人公の姿に、読み進めるうちに共感を覚えてくる。
現場で活躍する刑事の勘で事件を解決する、といったような刑事小説ではないが、そういった王道に飽きてきたらこの「隠蔽捜査シリーズ」は非常におすすめである。


 

・第28回:『一瞬の風になれ』/佐藤多佳子

春野台高校陸上部、一年、神谷新二。スポーツ・テストで感じたあの疾走感…。ただ、走りたい。天才的なスプリンター、幼なじみの連と入ったこの部活。すげえ走りを俺にもいつか。デビュー戦はもうすぐだ。「おまえらが競うようになったら、ウチはすげえチームになるよ」。青春陸上小説、第一部、スタート。
「BOOK」データベースより引用

陸上100m×4リレー、通称4継。高校から陸上を始めた主人公が親友の天才ランナーの存在に憧れ、理想とのギャップに葛藤する。
スポーツに真摯に向き合い、才能と努力の狭間で悩み成長していく少年たちを爽やかに描いた青春小説。
今まさに部活動に打ち込んでいる人、学部活動に励んでいた学生時代を思い出したい人、全ての世代におすすめできる作品となっている。
2007年には本屋大賞も受賞しており、大衆向けの小説として完成された名作である。


 

・第31回:『鉄の骨』/池井戸潤

中堅ゼネコン・一松組の若手、富島平太が異動した先は“談合課”と揶揄される、大口公共事業の受注部署だった。今度の地下鉄工事を取らないと、ウチが傾く―技術力を武器に真正面から入札に挑もうとする平太らの前に「談合」の壁が。組織に殉じるか、正義を信じるか。吉川英治文学新人賞に輝いた白熱の人間ドラマ。
「BOOK」データベースより引用

ゼネコンの若手営業社員を主人公に、この業界を語る上では避けて通れない”談合“の問題を扱った経済小説。
談合は「必要悪」であると言い切る社員たち。主人公の苦悩を通して、この問題の難しさを伝えている。
池井戸潤の作品ということで大手ゼネコンや銀行、東京地検特捜部も含めた壮大なストーリー運びであり、また最後は勧善懲悪の展開となるのは半ばお約束。
一方で特定の登場人物を悪者と切り捨てられないのがこの作品の奥深さである。業界の慣習や組織・社会の構造といったしがらみの中で、誰もが生きるために必死に働いている。社会を支えるサラリーマン必読の作品である。


 

・第31回:『天地明察』/冲方丁

徳川四代将軍家綱の治世、ある「プロジェクト」が立ちあがる。即ち、日本独自の暦を作り上げること。当時使われていた暦・宣明暦は正確さを失い、ずれが生じ始めていた。改暦の実行者として選ばれたのは渋川春海。碁打ちの名門に生まれた春海は己の境遇に飽き、算術に生き甲斐を見出していた。彼と「天」との壮絶な勝負が今、幕開く―。日本文化を変えた大計画をみずみずしくも重厚に描いた傑作時代小説。第7回本屋大賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

江戸時代前期の囲碁棋士安井算哲(渋川春海)の生涯を描いた時代小説。
史実をベースにしながらもエンターテイメント性が高く、漫画化・映画化もされている。
碁打ちの名家に生まれた主人公が算術に魅入られ、改暦という当時の一大事業に命名されるというストーリー。
生涯をかけて一つの事業をやり抜く気概はもちろんのこと、現代では当たり前となったに隠された緻密さや難解さを伺い知ることができる。


 

・第34回:『機龍警察 暗黒市場』/月村このえ

警視庁との契約を解除されたユーリ・オズノフ元警部は、旧知のロシアン・マフィアと組んで武器密売に手を染める。一方、市場に流出した新型機甲兵装が“龍機兵”の同型機ではとの疑念を抱く沖津特捜部長は、ブラックマーケット壊滅作戦に着手した。ロシアの歴史と腐敗が生んだ最悪の犯罪社会に特捜部はどう立ち向かうのか。
「BOOK」データベースより引用

龍機兵(ドラグーン)」と呼ばれる新型兵器を擁する警視庁特捜部の活躍を描いた警察小説シリーズ
警察組織内部の軋轢や衝突に焦点を当てながらも新型兵器を駆使したアクションシーンも特徴とした一風変わった警察小説であり、本作はシリーズ第3弾に当たる。
龍機兵には国際色豊かなパイロットが3名いるが、本作ではその1人、ユーリ・オズノフ警部が主人公となっている。
警察庁との契約破棄をきっかけに、出身国であるロシアのマフィアが行う武器売買に関与する。背景にあるロシア警察との関わり等見どころ満載の作品である。


 

・第35回:『村上海賊の娘』/和田竜

時は戦国。乱世にその名を轟かせた海賊衆がいた。村上海賊―。瀬戸内海の島々に根を張り、強勢を誇る当主の村上武吉。彼の剛勇と荒々しさを引き継いだのは、娘の景だった。海賊働きに明け暮れ、地元では嫁の貰い手のない悍婦で醜女。この姫が合戦前夜の難波へ向かう時、物語の幕が開く―。本屋大賞、吉川英治文学新人賞ダブル受賞!木津川合戦の史実に基づく壮大な歴史巨編。
「BOOK」データベースより引用

戦国時代の瀬戸内を舞台に、当時実在した村上水軍を題材にしたエンタメ性の高い歴史小説。
本作の主人公となる娘・景は村上水軍の当主・村上武吉の娘として実在することは史実に残っているが、物語自体は著者の創作である。
当時の毛利家と織田家の間で起こった第一次木津川口の戦いでの村上水軍の海戦を迫力たっぷりに描いている。
歴史小説ではあるが言葉遣いなどを意図して現代風にアレンジしており、個々の登場人物も個性がはっきりしているため、長編ではあるが非常に読みやすくなっている。本屋大賞にぴったりの作品と言える。


 

・第42回:『愛されなくても別に』/武田綾乃

時間も金も、家族も友人も贅沢品だ。「響け!ユーフォニアム」シリーズ著者が、息詰まる「現代」に風穴を開ける会心作!
「BOOK」データベースより引用

京都アニメーションにてアニメ化された『響け!ユーフォニアム』、原作である彼女の小説家としての地位を確固たるものにした出世作がこの作品と言っても差し支えないだろう。
響け!のような青春要素が強い作品とは異なり、この作品はいわゆる”毒親“に悩まされる3人の女子大生の姿を等身大に描いた作品である。
若者の言葉遣いや会話のテンポで溢れており、若手作家の作品であると感じる一方で、ダークなテーマの中にもハッとする表現や描写が点在しており、ベテラン作家の細やかさのようなものが感じられる。
月並みな言い方ではあるが文章力があり、どんなテーマでも読ませる作品を書くことが出来る。今後も注目の作家である。


 

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