ブランチBOOK大賞受賞作品が名作揃いだったので過去10年分の受賞作を調べてみた

※2023.12.23(土)、2023年ブランチBOOK大賞発表!!※

※川上未映子さんの『黄色い家』が受賞しました!おめでとうございます!!※

Amazonなんかで読みたい本を漁っていると、「第〇〇回直木賞受賞」とか、「本屋大賞受賞」とかいうワードをたまに見かけます。

受賞作品だけ毎回(毎年)読んでいる、なんて人も多いでしょう。賞金ももちろん重要ですが、作品を広く認知してもらうという点において、賞を取るというのは作家にとってものすごく大きいことだと思います。

で、その中に「ブランチBOOK大賞」というワードがある。これってなんだ?と調べてみたら色々面白いことが分かってきたので、今回は「ブランチBOOK大賞」について色々調べたことを語ってみたいと思います。

 

“ブランチBOOK大賞”とは

そもそも「ブランチBOOK大賞」とは何か。名前から察する人もいらっしゃるかと思いますが、TBS系列『王様のブランチで紹介された本の中から、その年の1番を決めるという賞のことです。

土曜日の昼帯の人気番組ということもあり、正式な文学賞ではないにもかかわらず、影響力は中々に大きいことで近年注目を浴びています。

事実、後述しますが「ブランチBOOK大賞」を受賞した作品は、その後名だたる文学賞を受賞していることが多いです。メディアの影響力は凄いなと改めて感じます。

ちなみに現在の「ブランチBOOK大賞」は、過去にいくつか名称を変えています。過去の変遷は以下の通りです。

・「輝く!ブランチBOOK大賞」:2002-2008
・「ブランチコメンテーターが選ぶベスト本」:2010
・「ブランチブックアワード」:2011-2016
・「ブランチBOOK大賞」:2017-

最初は選考委員が公開されていましたが、現在は非公開となっています。番組スタッフが選考しているのかな?と勝手に推測しています。

 

過去の受賞作を紹介

それではここで2010年代以降の受賞作品を、最新年から紹介していきます。どれも名作揃いなので一読の価値ありです。

 

・2023年:『黄色い家』/川上未映子

十七歳の夏、親もとを出て「黄色い家」に集った少女たちは、生きていくためにカード犯罪の出し子というシノギに手を染める。危ういバランスで成り立っていた共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解し……。人はなぜ罪を犯すのか。世界が注目する作家が初めて挑む、圧巻のクライム・サスペンス。
「BOOK」データベースより引用

恵まれない母子家庭に生まれ育った主人公の少女花が、ある女性と出会い人生観を変えていくという物語です。

この作品の本質は何と言っても「」でしょう。もちろん生きるためにお金は必要ですが、かつてこれまでお金への執着を前面に押し出した作品があったでしょうか。フィクションではありながらも人間の本質を表現した非常にリアリティの溢れる作品であると思います。

花の人生にフォーカスする過程で犯罪に加担することもありクライム・サスペンスやノワール小説と分類されていますが、幼少期からの花の半生を描いた大河小説と言っても差し支えないほどのボリュームです。また主人公を取り巻く仲間の少女たちとの長台詞も特徴であり、そう言った意味では青春小説としても読めると思います。ただし読後感は決して良いとは言えないので注意が必要です。


 

・2022年:『汝、星のごとく』/凪良ゆう

その愛は、あまりにも切ない。正しさに縛られ、愛に呪われ、それでもわたしたちは生きていく。本屋大賞受賞作『流浪の月』著者の、心の奥深くに響く最高傑作。
「BOOK」データベースより引用

親に悩まされながら瀬戸内の田舎で生きる高校生の男女を描いた物語です。2人の視点で交互に物語が展開されることで、環境の変化に伴い次第にすれ違っていく様子がよく伝わってきます。

著者の魅力の一つが、「人の弱さ」を描くことだと思います。代表作「流浪の月」でもその魅力は遺憾なく発揮されていますが、その弱さから逃げずに向き合い、乗り越えた先に希望があるというメッセージ性があるからこそ読者の共感が得られるのだと思います。


 

・2021年:『六人の嘘つきな大学生』/浅倉秋成

成長著しいIT企業「スピラリンクス」の最終選考。最終に残った六人が内定に相応しい者を議論する中、六通の封筒が発見される。そこには六人それぞれの「罪」が告発されていた。犯人は誰か、究極の心理戦スタート。
「BOOK」データベースより引用

新鋭IT企業の採用面接中に巻き起こったある”騒動”、その真相を解き明かす。六人の就活生の内、犯人は誰か。物語の進行とともに二転三転しながら、真犯人が解き明かされていく過程は緊迫感がありながらすいすい読み進めることができます。

ミステリー要素以外にも日本企業の人材登用のあり方を問うメッセージ性、そして就職活動に挑む大学生の青春など、ミステリー以外の要素もバランスよく含まれています。

下記、私が選ぶおすすめ国内推理小説50選にも選出しています。新時代を代表するミステリーと言えるでしょう。


 

・2020年:『52ヘルツのクジラたち』/町田そのこ

52ヘルツのクジラとは―他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラ。たくさんの仲間がいるはずなのに何も届かない、何も届けられない。そのため、世界で一番孤独だと言われている。自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、新たな魂の物語が生まれる―。
「BOOK」データベースより

心に傷を負い、都会から九州の田舎町に越してきた女性が、虐待を受けている少年と出会う物語。

孤独な者同士が互いを引き付け合い、またそれだけでなく周りの人々の協力もあり徐々に安らぎを取り戻していく。

現代人に必要な、「人を救うのは人との出会いである」ということを教えられる作品です。


 

・2019年:『線は、僕を描く』/砥上裕將

水墨画という「線」の芸術が、深い悲しみの中に生きる「僕」を救う。第59回メフィスト賞受賞作。
「BOOK」データベースより

両親の死に直面し、悲しみに暮れる大学生が、ひょんなことから水墨画の世界に入り込んでいく。

いきなり弟子と勝負とか漫画みたいな展開だなあと思ったら、本当に漫画化されていて驚きました(少年マガジンで連載)。

とはいえ展開が漫画みたいというのであって、クオリティが低いわけでは決してありません。水墨画を言葉で説明する表現力は確かだし、何よりこれがデビュー作というのにまた驚きます。


 

・2018年:『そして、バトンは渡された』/瀬尾まいこ

血の繋がらない親の間をリレーされ、四回も名字が変わった森宮優子、十七歳。だが、彼女はいつも愛されていた。身近な人が愛おしくなる、著者会心の感動作。
「BOOK」データベースより

死別や離婚、転勤などで親が何回も変わり、本当の家族がいなくなった女子高生を主人公に、家族や幸せの形を問う物語です。

お世辞にも幸せとは言い難い境遇に置かれても、主人公はあっけらかんとしており、物語全体も淡々と進んでいく印象を受けます。

終盤にかけては主人公が自分なりの幸せを掴み、ほっこりするし爽やかな読後感も味わえる。非常に読みやすい作品です。


 

・2017年:『かがみの孤城』/辻村深月

どこにも行けず部屋に閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然、鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先の世界には、似た境遇の7人が集められていた。9時から17時まで。時間厳守のその城で、胸に秘めた願いを叶えるため、7人は隠された鍵を探す―
「BOOK」データベースより

タイトルから推測の通り、鏡の中の世界を舞台にした、現実とファンタジーが入り混じる物語。

序盤から不登校の中学生を丁寧な感情描写で描くことで感情移入させられ、最後はまんまと泣いてしまいます。重いテーマではあるが読後感は不思議と悪くありません。

代表作「スロウハイツの神様」に迫る、辻村作品でも1,2を争う名作なのではないかと思います。


 

・2016年:『みかづき』/森絵都

昭和36年。小学校用務員の大島吾郎は、勉強を教えていた児童の母親、赤坂千明に誘われ、ともに学習塾を立ち上げる。女手ひとつで娘を育てる千明と結婚し、家族になった吾郎。ベビーブームと経済成長を背景に、塾も順調に成長してゆくが、予期せぬ波瀾がふたりを襲い―。山あり谷あり涙あり。昭和~平成の塾業界を舞台に、三世代にわたって奮闘を続ける家族の感動巨編!
「BOOK」データベースより

昭和〜平成の日本、親子三代に渡って学習塾を経営した家族の物語であり、登場人物を通して日本の教育の在り方に切り込んだ小説。

軽く50年以上の歳月を通し、親子三代の物語を描いているので、物語自体も長編だし、スケールがとてつもなく壮大です。登場人物がそれぞれの時代背景にあったキャラ設定がされているなと感じます。

読み終わった時にはすごく体力を消耗しているでしょう。同時に読みきった達成感がものすごい。読み応えのある小説です。


 

・2015年:『羊と鋼の森』/宮下奈都

高校生の時、偶然ピアノ調律師の板鳥と出会って以来、調律に魅せられた外村は、念願の調律師として働き始める。ひたすら音と向き合い、人と向き合う外村。個性豊かな先輩たちや双子の姉妹に囲まれながら、調律の森へと深く分け入っていく―。一人の青年が成長する姿を温かく静謐な筆致で描いた感動作。
「BOOK」データベースより

物静かで、外界との接触は必要最低限な青年が、ピアノ調律師としての仕事を通して、職場や顧客との繋がりを持ち、成長していく。

最初は主人公の仙人かというような性格に感情移入できず、ダメか!?と思いますが、調律師になってからは心が開かれていく様子がバシバシ伝わってきて、ページをめくる手が止まらなくなります。

加えてピアノ調律師のお仕事紹介としての付加価値も高い。ラストは心温かる終わり方だし、優しい気持ちになれる作品です。


 

・2014年:『かたづの!』/中島京子

慶長五年(1600年)、角を一本しか持たない羚羊が、八戸南部氏20代当主である直政の妻・祢々と出会う。羚羊は彼女に惹かれ、両者は友情を育む。やがて羚羊は寿命で息を引き取ったものの意識は残り、祢々を手助けする一本の角―南部の秘宝・片角となる。平穏な生活を襲った、城主である夫と幼い嫡男の不審死。その影には、叔父である南部藩主・利直の謀略が絡んでいた―。次々と降りかかる困難に、彼女はいかにして立ち向かうのか。波瀾万丈の女大名一代記!
「BOOK」データベースより

江戸時代初期の岩手を舞台に、南部氏の女当主の生き様を描いた歴史系ファンタジー小説。

タイトルのかたづのの意味はすぐ分かるのだが、ものすごいメルヘンの中に綿密な考察を基にした歴史小説が混ざっていて、なんとも言えない気持ちになります。

それでも全体のバランスが崩れていないどころかユニークな小説ながらも非常に完成度が高いのは、著者の文章力、構成力の素晴らしさによるものでしょう。


 

・2013年:『昨夜のカレー、明日のパン』/木皿泉

7年前、25歳で死んでしまった一樹。遺された嫁・テツコと今も一緒に暮らす一樹の父・ギフが、テツコの恋人・岩井さんや一樹の幼馴染みなど、周囲の人物と関わりながらゆるゆるとその死を受け入れていく感動作。本屋大賞第二位&山本周五郎賞にもノミネートされた、人気夫婦脚本家による初の小説。書き下ろし短編「ひっつき虫」収録!
「BOOK」データベースより

脚本家である著者の小説デビュー作、そう言われてみれば、脚本家のいい感じに客観的なところが垣間見れるなと感じます。

若くして夫を無くし、義父と暮らす未亡人が主人公と、設定はかなり重いのだが、物語はどちらかというとコメディっぽい、軽いノリで進んでいきます。

最後はしっかり感動させられる。日常の何気ないことが幸せだなと思える作品です。


 

・2012年:『楽園のカンヴァス』/原田マハ

ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに篭めた想いとは―。山本周五郎賞受賞作。
「BOOK」データベースより

ルソーやピカソの絵を題材にしたアートミステリー。アートに詳しい人はもちろん、詳しくない人でも十分楽しめる程物語の質が高いです。

暗幕のゲルニカ」をはじめ著者のその他アート小説を読むと、芸術に対する愛がとても伝わってきます。その他のジャンルももちろん好きだけど、このジャンルが一番書きたいものなんだろうなと思います。詳しくは個別記事参照ください。


 

・2011年:『マザーズ』/金原ひとみ

同じ保育園に子どもを預ける三人の若い母親たち―。家を出た夫と週末婚をつづけ、クスリに手を出しながらあやういバランスを保っている“作家のユカ”。密室育児に疲れ果て、乳児を虐待するようになる“主婦の涼子”。夫に心を残しながら、恋人の子を妊娠する“モデルの五月”。現代の母親が抱える孤独と焦燥、母であることの幸福を、作家がそのすべてを注いで描きだす、最高傑作長篇。
「BOOK」データベースより

3人の、幼い子供を持つ若い母親を主人公に、”母であること”と”女であること”の狭間で揺れ動く感情を書き綴った小説。

金原ひとみと言えば蛇にピアス、という人は多いだろう。著者の小説を読むのはそれ以来でした。

メンタルの危うさだったり、揺れ動く心情をうまく描写しているのは見事。ただし生々し過ぎるというか(下劣と言っているレビュアーも多い)、その辺は読む人を選ぶ作品だと思います。


 

「ブランチBOOK大賞」と「本屋大賞』の相関関係

勘の良い方はお気づきかもしれないですが、冒頭で述べた通り。「ブランチBOOK大賞」受賞作品は(名だたる文学賞を受賞しているケースが多々ありますが)、その中でも「本屋大賞」との相関性が非常に高いんです。

参考までに、近年(2015年〜2022年)の受賞作を見てみます。

・2022年:『汝、星のごとく』
2023年本屋大賞受賞(第1位)
・2021年:『六人の嘘つきな大学生』
2022年本屋大賞ノミネート(第5位)
・2020年:『52ヘルツのクジラたち』
2021年本屋大賞受賞(第1位)
・2019年:『僕は、線を描く』
2020年本屋大賞ノミネート(第3位)
・2018年:『そして、バトンは渡された』
2019年本屋大賞受賞(第1位)
・2017年:『かがみの孤城』
2018年本屋大賞受賞(第1位)
・2016年:『みかづき』
2017年本屋大賞ノミネート(第2位)
・2015年:『羊と鋼の森』
2016年本屋大賞受賞(第1位)

驚くべきことに本屋大賞に8年連続5位以内にノミネートされており、さらに8回中5回は本屋大賞受賞という凄まじい的中率です。

さらに凄いのが、「ブランチBOOK大賞」は本屋大賞のおよそ3~4ヶ月前に発表されているということ。

もはや本屋大賞の選考員である全国の書店員はみんな「王様のブランチ」を見て決めているんじゃないかとさえ思える的中率っぷり。

まあ実際にはそんなことはありえない(影響を多少なりとも受けることはあっても)ので、いかにブランチの選考員が見る目があるか、ということでしょうか。

今後も「ブランチBOOK大賞」と「本屋大賞」に注目していきましょう。

 

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