推理作家の登竜門!江戸川乱歩賞歴代受賞作品からおすすめ20作品を紹介!

1954年に創設され、「推理作家の登竜門」として知られる公募文学賞の「江戸川乱歩賞」。

受賞者は講談社から強力なバックアップを得られるようで、岡嶋二人氏をして「直木賞を受けて消えた作家はいても、乱歩賞を受けて消えた作家はいない」と言わしめるほど。

この記事では、そんな江戸川乱歩賞受賞作品からおすすめ小説を20冊紹介していきます。

なお、今回は歴代受賞作品のほぼ半数に当たる20作品に限定しておりますが、あくまで私のお気に入りや、思い入れの強い作品を厳選しております。ここで紹介している/していないが作品の優劣を判断するものではありませんので、予めご了承ください。

またここに紹介する作品の大部分が電子書籍で読むことが可能です。もちろん紙には紙の良さがありますが、安く買えたり場所を取らなかったりと電子書籍のメリットもあります。是非平行してご利用ください。

「江戸川乱歩賞」受賞作品おすすめ20選!!

作品を紹介する前に、今回のおすすめ作品の紹介の仕方についてご説明します。

1.紹介するのは歴代受賞作品の内、20作品

2.紹介するのは受賞順が早いものから

それでは、是非最後まで読んでいただけると幸いです。

・第3回:『猫は知っていた』/多岐川恭

仁木雄太郎・悦子の素人探偵兄妹が巻きこまれた奇妙な連続殺人事件。怪しげな電話、秘密の抜け穴、蛇毒の塗られたナイフ、事件現場に現れる一匹の黒ネコ。好奇心溢れる悦子のひらめきと、頭脳明晰な雄太郎の推理が真相に迫っていく。鮮やかなトリック、心和む文体。江戸川乱歩賞屈指の傑作が新装版で登場!
「BOOK」データベースより引用

江戸川乱歩賞が現在の長編公募の文学賞という形式になったのはこの第3回から。そういう意味では初回の受賞者(受賞作)とも言え、かつ女流推理作家の先駆け的存在である著者の処女作でもある点で文学的価値の高い作品と言えるだろう。
ある開業医の診療所兼自宅で起きた殺人事件に、同居である兄妹が挑む。この2人の役割(いわゆるホームズとワトソン役)分担、フットワークの軽さが物語のテンポの良さにつながっている。更にさっぱりとした性格から繰り出される会話、平易な文体は作品全体の読みやすさとして現れている。
肝心のトリックは後述する作品と比較するとやや凡庸さは感じられるものの、上記のような特徴から青春小説としての爽やかさに溢れており、気軽に楽しむことができる作品である。


 

・第4回:『濡れた心』/多岐川恭

烈しく愛しあう典子と寿利。少女らの愛をあざ笑うかのように、重くのしかかる殺人事件、その裏には、いかなる悪魔的意思がひそんでいるのか?澄明な美文で、清らかな同性愛をうたいあげ、第四回江戸川乱歩賞に輝いた『濡れた心』。長崎出島を舞台に、幕末日本の閉塞感をみごとにとらえた『異郷の帆』―誰もが認める多岐川恭代代表作ベスト長編二作。
「BOOK」データベースより引用

白家太郎の筆名で1954年にデビュー済であったが、多岐川恭としては『氷柱』に続き2作目。なお乱歩賞を受賞した同年、『落ちる』で直木賞も受賞している。
『濡れた心』は、とある女子高生に関わる殺人事件を、関係者たちの日記という形で表した推理小説である。
最大の特徴としてはやはり日記調である点。10人を超える登場人物たちの日記がアトランダムに展開され、多角的に物語が紡がれていく。複数人に動機があり、フーダニッドがポイントである。
また女子高生による”同性愛“がテーマとなっている点も見逃せない。推理小説としてはもちろん、作品全体として彼女たち10代の瑞々しい感性に溢れ、純文学としても捉えることが出来る作品である。


 

・第11回:『天使の傷痕』/西村京太郎

武蔵野の雑木林で殺人事件が発生。瀕死の被害者は「テン」と呟いて息を引き取った。意味不明の「テン」とは何を指すのか。デート中、事件に遭遇した田島は、新聞記者らしい関心から周辺を洗う。どうやら「テン」は天使のことらしいと気づくも、その先には予想もしない暗闇が広がっていた。第11回江戸川乱歩賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

十津川警部シリーズで知られるトラベル・ミステリーの名手として知られる著者だが、乱歩賞受賞作には鉄道が登場しない。
被害者が死に際に残したダイイング・メッセージから手がかりを掴み、容疑者を絞り込んでいく切り口は現代では目新しくはないが、誰が・どうやって・なぜ犯行を行ったのか筋道立てて明確化していく展開が非常に秀逸。
特に動機の部分はラストに真相が判明するので、犯人が途中で察しが付いてからも十分に楽しめる。
またこの作品の長所は無駄の無さにあると思う。過不足のない伏線や適度な人物描写。ミステリーに必要な要素がスリムに詰め込まれており、初期の作品とは思えない完成度の高さを感じる。


 

・第15回:『高層の死角』/森村誠一

東京の巨大ホテルの社長が堅牢な密室で刺殺された。捜査線上に浮かんだのは、事件の夜に刑事の平賀とベッドをともにしていた美しき社長秘書。状況証拠は秘書と事件の関係を示していたが、間もなく彼女も福岡で死体となって見つかった。なぜ彼女は社長殺しを計画し、東京から遠く離れた福岡で殺されたのか。愛した女性の真実を求め、平賀の執念の捜査が始まる―。
「BOOK」データベースより引用

高層ホテルの最上階で起きた殺人事件を題材にしたミステリー。
殺害現場となったホテルの部屋の鍵、容疑者のアリバイと、密室下での不可能犯罪をしっかりと示しつつ、容疑者に親しい関係にある刑事が事件を追いかける展開は、非常に丁寧に作り込まれた作品という印象を受ける。
密室トリックに加えて、後半では時刻表トリックなど、幾重にも張り巡らせた犯人の仕掛けが立ちふさがる。それらを刑事の勘と足を用いて一つずつ看破していく終盤は、半世紀以上前の作品だということを忘れさせる面白さに溢れている。


 

・第19回:『アルキメデスは手を汚さない』/小峰元

「アルキメデス」という不可解な言葉だけを残して、女子高生・美雪は絶命。さらにクラスメートが教室で毒殺未遂に倒れ、行方不明者も出て、学内は騒然!大人たちも巻き込んだミステリアスな事件の真相は?’70年代の学園を舞台に、若者の友情と反抗を描く伝説の青春ミステリー。
「BOOK」データベースより引用

とある高校を舞台にした学園ミステリー。著者は青春推理小説というジャンルで多くの作品を執筆している。
50年前の作品ということもあり、時代背景などは古めかしい印象を受けるかもしれない。トリックも今となっては洗練されたものではないかもしれない。
それでもこの青春ミステリーというジャンルの第一人者であることは間違いなく、後に紹介する乱歩賞受賞作家である東野圭吾や岡嶋二人らも著者に影響を受けたと言われている。特に東野圭吾は乱歩賞受賞作品である『放課後』がまさにこのジャンル。確かに彼の初期作品の文体に通じるものがあるように思う。


 

・第22回:『五十万年の死角』/伴野明

太平洋戦争開戦の日、日本軍は、北京の医大研究施設を急襲した。貴重な文化財である、北京原人の化石骨を接収するためだった。ところが、めざすものはすでに、金庫から消えていた。何者が持ち出したのか? 化石骨を追い、日本軍、中国共産党、国民党などの激しい暗闘が始まる。
「BOOK」データベースより引用

50万年前に存在したと言われる北京原人の化石をめぐる、遠い地球の歴史に思いを馳せる歴史ミステリー。
重要な遺産である北京原人の化石を持ち去ったのは誰なのか?行方を追う主人公の前に立ちはだかる敵は何者なのか?日中両軍や政府が入り乱れる攻防は、迫力満点のサスペンス・冒険小説であり、なおかつ乱歩賞ということで終盤には謎解きにもしっかりと重きが置かれている。
※なお北京原人の頭蓋骨は実際に日中戦争中に行方不明となっており、現在に至るまで謎のままである。
実際の事件を扱っていることからも分かるように時代設定は太平洋戦争時代であるが、作中ではこの年代の日中関係を中国に近い立場から捉え分析している様子が伝わってくる点も面白い。


 

・第24回:『ぼくらの時代』/栗本薫

栗本薫は22歳、某マンモス私大の3年生。アルバイト先のTV局内で発生した女子高生連続殺人事件を、ロック・バンド仲間の信とヤスヒコと解決しようと挑む―。当時の若者たちの感覚や思考を背景に、凝った構成と若々しい文体によって、シラケ世代とミーハー族の心の断面をえぐった江戸川乱歩賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

グイン・サーガ』や『魔界水滸伝』シリーズなどSFやファンタジー作品を量産する著者の小説デビュー作。同姓同名の”栗本薫”という人物が登場するが、男子大学生という設定である。
本作品は栗本薫らがバイトをしているテレビ局内で起きた、女子高生が連続で死亡するという事件を扱っている。
「シラケ世代」と「ミーハー族」と言われてもピンとこないが、若者と大人の間に存在する感覚のズレや考え方の違いがテンポの良い会話の中からうかがえるし、それがしっかりと作品のテーマの一つとして活かされていることも評価に値すると思う。
ストーリーも一見非常に単純な構想であるように見せかけて、終盤に鮮やかな裏切りを見せる点は面白い。ただラストに至る過程でヒントになる叙述が少ないので、叙述トリックとは呼びづらいのが多少難点である。

「ぼくらのシリーズ」一覧

1.『ぼくらの時代』(1978)
2.『ぼくらの気持』(1979)
3.『ぼくらの世界』(1984)


 

・第28回:『焦茶色のパステル』/岡嶋二人

競馬評論家・大友隆一が東北の牧場で銃殺された。ともに撃たれたのは、牧場長とサラブレッドの母子・モンパレットとパステル。隆一の妻の香苗は競馬について無知だったが、夫の死に疑問を抱き、怪事件に巻き込まれる。裏にある恐るべき秘密とは?ミステリー界の至宝・岡嶋二人のデビュー作&江戸川乱歩賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

殺害された競馬評論家の妻とその友人、若い女性二人が探偵役として殺人事件に挑む。彼女たちのやりとりは良い意味でライトな感覚を受けるが、内容としては本格ミステリーである。
適度な伏線と回収、提示された謎が一つずつクリアになっていく展開は心地良さすら覚える程。デビュー作とは思えない完成度の高さである。
また競馬界の慣習や歴史を組み入れたテーマも、探偵役による解説が随所に入り、読者を置いてけぼりにさせない配慮工夫が凝らされている点も見事である。
なお次作、次々作『七年目の脅迫状』『あした天気にしておくれ』も登場人物や設定は異なれど、同じく「競馬」を扱っており、本作と合わせて競馬三部作と呼ばれているらしい。


 

・第31回:『放課後』/東野圭吾

校内の更衣室で生徒指導の教師が青酸中毒で死んでいた。先生を二人だけの旅行に誘う問題児、頭脳明晰の美少女・剣道部の主将、先生をナンパするアーチェリー部の主将―犯人候補は続々登場する。そして、運動会の仮装行列で第二の殺人が…。乱歩賞受賞の青春推理。
「BOOK」データベースより引用

とある高校を舞台にした殺人事件を題材にした、東野圭吾氏の実質的なデビュー作品。女子校に勤務する教師が、自身が命を狙われながらも校内で起きた殺人事件に挑む青春推理小説である。
密室で他の教師が殺された第一の事件、そして畳み掛けるようにしておこる第二の事件と、東野圭吾作品の根幹である読みやすさを支えているスピーディな展開はこの頃から健在。そして青春ミステリーならではの若さを感じる心理描写も特徴である。
なお余談であるが、今でこそヒット作多数の超売れっ子作家である著者は、この後しばらく文学賞に恵まれない時を過ごすことになる。


 

・第34回:『白色の残像』/坂本光一

夏の甲子園大会、千葉代表と茨城代表の両監督はかつて大阪代表の名門信光学園でバッテリーを組んで優勝した実績をもつが、不幸な事故が二人を遺恨対決に変えてしまう。東都スポーツの中山記者が二人を取材したが、そんなときハンデ師殺人事件が起きる。高校野球への熱い思いを込めた乱歩賞受賞の傑作長編。
「BOOK」データベースより引用

元高校球児の記者を主人公に、高校野球界の不正行為や野球賭博をからめたミステリー小説。
甲子園を沸かせる人気強豪校は本当に不正行為を行っているのか?そのトリックを甲子園大会開催中に突き止めようとする前半部分は(トリックの実現可能性はさておき)後半部分への期待を抱かせる展開である。
一方で密室殺人のトリックはご都合主義とも言われかねない強引な推理で、論理的とは程遠い。
主人公と事件の当事者をはじめ、高校野球に携わる選手や監督、関係者らの熱い思いが伝わってくる青春小説としては評価出来る作品ではないかと思う。


 

・第37回:『連鎖』/真保裕一

チェルノブイリ原発事故による放射能汚染食品がヨーロッパから検査対象外の別の国経由で輸入されていた。厚生省の元食品衛生監視員として、汚染食品の横流しの真相究明に乗りだした羽川にやがて死の脅迫が…。重量感にあふれた、意外性豊かな、第三十七回江戸川乱歩賞受賞のハードボイルド・ミステリー。
「BOOK」データベースより引用

放射能汚染食品を題材にした社会派ミステリー。厚生省の食品検査員である主人公が、親友であるジャーナリストの自殺未遂に隠された真実を暴く。
チェルノブイリ原発事故という当時の一大ニュースをテーマにするアイディアはもちろん素晴らしいが、それを輸出入やジャーナリズムを絡めたサスペンスにしてしまう取材力・文章力の高さが圧巻である。
さらに本作品の特徴はハードボイルド調であるところ。親友の妻と不倫関係にある主人公にとっつきにくさを感じる読者もいるだろうが、バイオレンスとアクションが物語にテンポを生み、どんでん返しを含めた終盤の展開にも効いている。
なお本作品は公務員の活躍を描いた作品であり、『取引』『震源』と合わせて「小役人シリーズ」と呼ばれている。


 

・第39回:『顔に降りかかる雨』/桐野夏生

親友の耀子が、曰く付きの大金を持って失踪した。被害者は耀子の恋人で、暴力団ともつながる男・成瀬。夫の自殺後、新宿の片隅で無為に暮らしていた村野ミロは、耀子との共謀を疑われ、成瀬と行方を追う羽目になる。女の脆さとしなやかさを描かせたら比肩なき著者の、記念すべきデビュー作。
「BOOK」データベースより引用

村野ミロシリーズ」の一作目、世にも珍しい女性探偵を主人公としたハードボイルド小説として知られている。
大金を持って失踪した友人を捜索するという追走劇で、手がかりを掴みながら徐々に友人の行方(真相)に近づいていく過程は読み応え満点。
またノンフィクションライターという友人の職業設定も生かしながらネオナチ抗争や日独の風俗を物語に取り入れている。主人公に関わる直接的な暴力シーンがあるわけではないが、文字通り体当たりで事件に迫っていく様はまさにハードボイルド。
村野ミロの最初の事件ともいうべき本作、シリーズはこれから予想外の展開となっていく。是非以下の続編も含めて読んでみて欲しい。

「村野ミロシリーズ」一覧

1.『顔に降りかかる雨』(1993)
2.『天使に見捨てられた夜』(1994)
3.『水の眠り灰の夢』(1995) ※スピンオフ
4.『ローズガーデン』(2000)
5.『ダーク』(2002)


 

・第41回:『テロリストのパラソル』/藤原伊織

ある土曜の朝、アル中のバーテン・島村は、新宿の公園で一日の最初のウイスキーを口にしていた。その時、公園に爆音が響き渡り、爆弾テロ事件が発生。死傷者五十人以上。島村は現場から逃げ出すが、指紋の付いたウイスキー瓶を残してしまう。テロの犠牲者の中には、二十二年も音信不通の大学時代の友人が含まれていた。島村は容疑者として追われながらも、事件の真相に迫ろうとする―。
「BOOK」データベースより引用

主人公のバーテンダーが、新宿で発生した爆破テロの容疑者となってしまう。事件で死亡した友人のため、追われながらも真相を追う物語。
この50作品の中では珍しいハードボイルドもので、アル中のバーテンである主人公はキャラが立っていて魅力的だし、周辺人物もクセがありながらもそれぞれ個性を感じられる人物設定・描写である。
多少ご都合主義な展開もあるが、ミステリーとしてよりむしろ文学作品としての完成度が高い。史上唯一江戸川乱歩賞と直木賞をW受賞した傑作でもある。


 

・第43回:『破線のマリス』/野沢尚

首都テレビ報道局のニュース番組で映像編集を担う遠藤瑤子は、虚実の狭間を縫うモンタージュを駆使し、刺激的な画面を創りだす。彼女を待ち受けていたのは、自ら仕掛けた視覚の罠だった!?事故か、他殺か、一本のビデオから始まる、超一級の「フー&ホワイダニット」。
「BOOK」データベースより引用

キー局報道番組の女性編集マンを主人公としたミステリー。黒木瞳主演で映画化もされている作品である。
作中の「5W1Hに加えて2つのF(For WHOM/FOR WHAT)が大事』というセリフが非常に印象的である。誰のために、何のために、想像力と勇気を持つ姿勢はまさに報道に携わるものとしてあるべき姿勢そのものであろう。
肝心の内容はといえば、主人公の深層心理の描写は夢オチかと思わせるくらい迫力があるものの、お世辞にも超一級の「フー&ホワイダニット」とは言えない。贈収賄の疑惑と殺人事件の真相をうまく主人公の家庭状況に絡めることが出来れば良かったのだろうが。。


 

・第44回:『果つる底なき』/池井戸潤

「これは貸しだからな」。謎の言葉を残して、債権回収担当の銀行員・坂本が死んだ。死因はアレルギー性ショック。彼の妻・曜子は、かつて伊木の恋人だった…。坂本のため、曜子のため、そして何かを失いかけている自分のため、伊木はただ一人、銀行の暗闇に立ち向かう!
「BOOK」データベースより引用

都市銀行の融資を担当する主人公が、同僚の死とその裏に隠された銀行の闇を暴く作品。
緻密に練られたストーリー展開や、銀行の暗部を成敗する図式など、後の大ヒット作に通じる部分がデビュー作からも感じられる。まさに池井戸潤の「勧善懲悪」はここから始まったと言えるだろう。
一方でアレルギー性ショックで死亡した同僚を誰がなぜ殺したのか、その後に発生する2つ目の事件も含めて”フーダニッド“に焦点を当てており、他の池井戸作品と比べて本格ミステリ色が濃い点が特徴である。
またそれに加えて、本作はハードボイルド小説の要素も兼ね備えている。孤高の存在だった主人公の伊木がやがて渇望する愛への感情、彼の心情変化も見所である。


 

・第47回:『13階段』/高野和明

犯行時刻の記憶を失った死刑囚。その冤罪を晴らすべく、刑務官・南郷は、前科を背負った青年・三上と共に調査を始める。だが手掛かりは、死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶のみ。処刑までに残された時間はわずかしかない。二人は、無実の男の命を救うことができるのか。江戸川乱歩賞史上に燦然と輝く傑作長編。
「BOOK」データベースより引用

松山刑務所に勤務する刑務官がある死刑囚の冤罪を晴らすため、傷害致死の前科を持つ若者とともに調査に乗り出すという一風変わった設定のミステリー。
デビュー作にして江戸川乱歩賞受賞作の名にふさわしい出来栄えであり、フーダニットを突き詰めるだけでなく死刑制度裁判制度にも一石を投じる内容になっている。
かといってそれに縛られすぎることはなく、解説の宮部みゆきの言葉を借りれば、「重いテーマに酔いしれることなく、慎重に冷静に書き進めている」のだと思う。


 

・第49回:『翳りゆく夏』/赤井三尋

「誘拐犯の娘が新聞社の記者に内定」。週刊誌のスクープ記事をきっかけに、大手新聞社が、20年前の新生児誘拐事件の再調査を開始する。社命を受けた窓際社員の梶は、犯人の周辺、被害者、当時の担当刑事や病院関係者への取材を重ね、ついに“封印されていた真実”をつきとめる。
「BOOK」データベースより引用

20年前の誘拐事件が新聞社の窓際社員によって再調査されることになる。特徴は何と言っても序盤から緻密に張り巡らせた伏線。物語序盤から読者を引き込む導入部が終盤になって効いてくる。この作品の評価を決定づけていると言っても過言ではない。
またストーリー展開はもちろんのこと、どことなく人情を感じさせるキャラクター造形と台詞回しも絶妙。
ラジオ局に勤めながら本作をきっかけに小説家デビューを果たした著者は、寡作であるが他作品も読みたいと思わせる魅力を秘めている。


 

・第51回:『天使のナイフ』/薬丸岳

生後五ヵ月の娘の目の前で妻は殺された。だが、犯行に及んだ三人は、十三歳の少年だったため、罪に問われることはなかった。四年後、犯人の一人が殺され、檜山貴志は疑惑の人となる。「殺してやりたかった。でも俺は殺していない」。裁かれなかった真実と必死に向き合う男を描いた、第51回江戸川乱歩賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

会社員時代に執筆を始めた著者のデビュー作でありながら、選考委員に絶賛され江戸川乱歩賞を受賞したミステリー作品。
少年犯罪によって妻を無くした主人公の男性が、その真相に迫っていく。後半からラストに向かって二転三転するストーリー展開や、ラストに待ち受ける真実は衝撃的で予想も付かない。
また未成年犯罪という難しいテーマに対して切り込んでいる点も素晴らしい。複数の登場人物に対立する意見を述べさせることで問題提起をするだけでなく、著者として真摯に向き合う姿勢が感じられる。


 

・第57回:『よろづのことに気をつけよ』/川瀬七緒

都内に住む老人が自宅で惨殺された。奇妙なことに、遺体は舌を切断され、心臓をズタズタに抉られていた。さらに、縁の下からは「不離怨願、あたご様、五郎子」と記された呪術符が見つかる。なぜ老人はかくも強い怨念を受けたのか?日本の因習に絡む、恐るべき真相が眼前に広がる!
「BOOK」データベースより引用

何者かに殺害された老人の孫が、自宅から発見された呪術符を手がかりに文化人類学者の助けを借りに訪れる。
老人はなぜ呪われていたのか?何十年も人を呪い続ける理由とは何か?に迫る、ホラー要素の強いミステリー。
呪術や地域の風習が多く登場するが、都度丁寧な説明が入るため読者が置き去りになることはない。中盤〜終盤にかけて多少強引なひらめき、結びつけがあるものの、それを霞ませるほどの迫力ある展開に、恐怖を感じさせる真実。非常に魅力ある書き手であると感じさせる。
本作との関連性はないが、「法医昆虫学」を題材としたミステリーシリーズも人気がありおすすめである。


 

・第60回:『闇に香る嘘』/下村敦史

孫への腎臓移植を望むも適さないと診断された村上和久は、兄の竜彦を頼る。しかし、移植どころか検査さえ拒絶する竜彦に疑念を抱く。目の前の男は実の兄なのか。27年前、中国残留孤児の兄が永住帰国した際、失明していた和久はその姿を視認できなかったのだ。驚愕の真相が待ち受ける江戸川乱歩賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

2014年の江戸川乱歩賞受賞作品。腎不全を患う孫を持つ全盲の男性が主人公で、盲目の障害者の一人称で物語が進行していく。
中国残留孤児の社会問題も大きなテーマとなっており、当時を知る登場人物が語る満州での体験談は綿密な取材の足跡を感じさせる。
作品に漂う怪しさ・不気味さを乗り越えれば最後には爽快な結末が待ち受けている。目が見えないことによるご都合主義的な展開が無いわけではないが、よく練られた設定・構成は見事。


 

・第67回:『北緯43度のコールドケース』/伏尾美紀

博士号を持ちながら30歳で北海道警察の警察官となった沢村依理子。ある日、5年前に未解決となっていた誘拐事件の被害者、島崎陽菜の遺体が発見される。犯人と思われた男はすでに死亡……まさか共犯者が……? 捜査本部が設置されるも、再び未解決のまま解散。
しばらくのち、5年前の誘拐事件の捜査資料が漏洩する。なんと沢村は漏洩犯としての疑いをかけられることに。果たして沢村の運命は、そして一連の事件の真相とは。
「BOOK」データベースより引用

博士号を持ちながら30歳で北海道道警に就職したという異色の経歴を持つ女性刑事沢村依理子の活躍を描いた警察小説。
デビュー作ということもあり、過去と現在の事件の設定に多少甘い部分も感じるところもあるが、全体としてはとても上手く練られた構成である。また警察組織内部の事情や担務を克明に描きながらミステリーとして決着を付け、更に主人公の人間関係では続編を匂わせまでしている。底がしれない新人である。
こちらはすでにシリーズ続編に当たる『数学の女王』も出版されているのでこちらもおすすめ。今後更なる続編が刊行されるか?も注目である。


 

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