歴代の直木賞まとめ!平成以降の受賞作品からおすすめ30作品を厳選紹介!

優れた大衆小説に送られる、日本でも最も有名な文学賞の一つ「直木三十五賞」。通称”直木賞“は1935年の創設から今日まで、160回を超える歴史のある賞としても有名です。

この記事では、そんな直木賞受賞作品から、平成以降に受賞した作品の中からおすすめを30冊紹介していきます。

こんな方々におすすめです。

・過去の直木賞受賞作品を知りたい!
・普段読まないジャンルや作家のおすすめ小説を探したい!

なお30作品に限定しておりますが、これはあくまで私のお気に入りや、思い入れの強い作品を厳選しております。ここで紹介している/していないが作品の優劣を判断するものではありませんので、予めご了承ください。

またここに紹介する作品の大部分が電子書籍で読むことが可能です。もちろん紙には紙の良さがありますが、安く買えたり場所を取らなかったりと電子書籍のメリットもあります。是非平行してご利用ください。

読みたい作品がきっと見つかる!おすすめの直木賞受賞作品30選!!

作品を紹介する前に、今回のおすすめ作品の紹介の仕方についてご説明します。

1.紹介するのは平成以降(第101回以降)の作品に限る

2.紹介するのは受賞順が早いものから

是非最後まで読んでいただけると幸いです。

・第101回『高円寺純情商店街』/ねじめ正一

高円寺駅北口「純情商店街」。魚屋や呉服屋、金物店などが軒を並べる賑やかな通りである。正一少年は商店街の中でも「削りがつをと言えば江州屋」と評判をとる乾物屋の一人息子だった―。感受性豊かな一人の少年の瞳に映った父や母、商店街に暮らす人々のあり様を丹念に描き「かつてあったかもしれない東京」の佇まいを浮かび上がらせたハートウォーミングな物語。直木賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

高円寺駅北口に伸びる商店街を舞台に、乾物屋の一人息子の視点から、商店街を行き交う人々と日常が描かれた作品。
中学国語の教科書に掲載され、読書感想文の題材になることも多い。
連作短編集の形態をとっており、どのエピソードからも昭和の下町情緒が感じられる、心温まるストーリーとなっている。
杉並区に生まれ育ち、実家は高円寺の商店街で乾物屋をやっていた著者の自伝的小説でもある。
なお小説の舞台となった「高円寺銀座商店街」は、この作品にちなみ「高円寺純情商店街」と名前を変えている。


 

・第109回『マークスの山』/高村薫

「マークスさ。先生たちの大事なマ、ア、ク、ス!」。あの日、彼の心に一粒の種が播かれた。それは運命の名を得、枝を茂らせてゆく。南アルプスで発見された白骨死体。三年後に東京で発生した、アウトローと検事の連続殺人。“殺せ、殺せ”。都会の片隅で恋人と暮らす青年の裡には、もうひとりの男が潜んでいた。警視庁捜査一課・合田雄一郎警部補の眼前に立ちふさがる、黒一色の山。
「BOOK」データベースより引用

警視庁捜査一課の警部補、合田雄一郎を主人公とした警察小説シリーズである。
南アルプスで起きた一家心中事件、合田はその後生き延びた息子が3年後に起こした連続殺人を担当することになる。
マークス“の意味や犯行の動機・手口といった謎が絡み合い、終盤まで先の読めない展開が続く。
加えて、警察組織内部の様子が克明に描かれており、ミステリーとしても警察小説としてもこれ以上ない、読み応えのある作品である。


 

・第110回『新宿鮫 無間人形』/大沢在昌

手軽でお洒落。若者たちの間で流行っている薬「アイスキャンディ」の正体は覚せい剤だった。密売ルートを追う鮫島は、藤野組の角を炙り出す。さらに麻薬取締官の塔下から、地方財閥・香川家の関わりを知らされる。薬の独占を狙う角、香川昇・進兄弟の野望…。薬の利権を巡る争いは、鮫島の恋人・晶まで巻き込んだ。鮫島は晶を救えるか!?
「BOOK」データベースより引用

新宿署のはぐれ刑事鮫島警部を主人公としたハードボイルド小説、『新宿鮫シリーズ』の4作目にあたる。
中盤〜終盤にかけ覚せい剤の密売組織と相対し、そして恋人の晶を救うために奔走する鮫島の様子はサスペンス小説として素晴らしく、またそこまでの展開もまったくだれることなく読み進められる著者の力量を改めて感じる一作となっている。
直木賞受賞作品ではあるものの、単品で読むよりもやはりシリーズ1作目から順番通りに読むのがおすすめ。5作目以降はシリーズを通しての敵も現れ更に面白くなる。


 

・第114回『テロリストのパラソル』/藤原伊織

ある土曜の朝、アル中のバーテン・島村は、新宿の公園で一日の最初のウイスキーを口にしていた。その時、公園に爆音が響き渡り、爆弾テロ事件が発生。死傷者五十人以上。島村は現場から逃げ出すが、指紋の付いたウイスキー瓶を残してしまう。テロの犠牲者の中には、二十二年も音信不通の大学時代の友人が含まれていた。島村は容疑者として追われながらも、事件の真相に迫ろうとする―。
「BOOK」データベースより引用

新宿で発生した爆破テロの容疑者となってしまったバーテンダーが、事件で死亡した友人のため警察に追われながらも真相を追う物語。
いわゆるハードボイルドもので、アル中のバーテンである主人公はキャラが立っていて魅力的、かつ周辺人物もクセがありながらもそれぞれ個性を感じられる人物設定・描写である。
多少ご都合主義な展開もあるが、ミステリーとしてよりむしろ文学作品としての完成度が高い。史上唯一江戸川乱歩賞と直木賞をW受賞した傑作として、根強い人気を誇る作品である。


 

・第115回『凍える牙』/乃南アサ

深夜のファミリーレストランで突如、男の身体が炎上した!遺体には獣の咬傷が残されており、警視庁機動捜査隊の音道貴子は相棒の中年デカ・滝沢と捜査にあたる。やがて、同じ獣による咬殺事件が続発。この異常な事件を引き起こしている怨念は何なのか?野獣との対決の時が次第に近づいていた―。女性刑事の孤独な闘いが読者の圧倒的共感を集めた直木賞受賞の超ベストセラー。
「BOOK」データベースより引用

女刑事音道貴子シリーズ」の第一作。刑事という究極の男性社会で生きるたくましい女性刑事の姿を描いた珍しい警察小説。
音道と男性刑事との掛け合いも含めキャリアウーマンの生き様をうまく描きつつ、ミステリーとしても魅力的なストーリー展開で男女問わず人気のシリーズ。
またタイトルからも連想できるかもしれないが、孤独なオオカミ犬の存在が物語のアクセントになっている。
浅田次郎の名作『蒼穹の昴』を退けて直木賞を受賞した、極めて完成度の高い作品。


 

・第117回『鉄道屋』/浅田次郎

娘を亡くした日も、妻を亡くした日も、男は駅に立ち続けた…。映画化され大ヒットした表題作「鉄道員」はじめ「ラブ・レター」「角筈にて」「うらぼんえ」「オリヲン座からの招待状」など、珠玉の短篇8作品を収録。日本中、150万人を感涙の渦に巻き込んだ空前のベストセラー作品集にあらたな「あとがき」を加えた。
「BOOK」データベースより引用

廃線寸前の北海道のローカル線を舞台に、終着駅で駅長を務める男性を主人公とした短編。高倉健さん主演の映画版をご存知の方も多いかもしれない。
妻と娘に先立たれ、独りで定年の日を迎えようとしている主人公が、不思議な体験をする事になる、というストーリー。
短編でこれほどまでに心を揺さぶり、感動を呼ぶ作品が他にあるだろうか。他にも『ラブ・レター』など必涙の短編も含まれており、泣きたい人にはうってつけの作品である。


 

・第120回『理由』/宮部みゆき

東京都荒川区の超高層マンションで起きた凄惨な殺人事件。殺されたのは「誰」で「誰」が殺人者だったのか。そもそも事件はなぜ起こったのか。事件の前には何があり、後には何が残ったのか。ノンフィクションの手法を使って心の闇を抉る宮部みゆきの最高傑作がついに文庫化。
「BOOK」データベースより引用

都内で発生したある殺人事件を、当時社会問題化していた住宅ローン問題や占有屋問題と絡めて描いた作品。
一見事件に関わりのない人物たちを描くことで物語が進んでいき、次第に殺人事件の真相に近づくに連れて関わりが徐々に明らかになっていく構成は、謎の解明というミステリ要素に加えて物語に厚みを持たせている。
その重厚感は一級品の社会派小説である。多くの登場人物を丁寧な描写で描きつつ、後半にかけて序盤の伏線を回収しつつ物語の闇に迫っていく過程は見事というしかない。


 

・第121回『柔らかな頬』桐野夏生/

カスミは、故郷・北海道を捨てた。が、皮肉にも、その北海道で娘が謎の失踪を遂げる。
友人家族の北海道の別荘に招かれ、夫、子供と共に出かけたカスミ。5歳の娘・有香が忽然と姿を消す。実は、 石山とカスミと不倫の関係であり。カスミと石山は家族の目を盗み、逢引きを重ねていたのだ。夫と子供を捨てても構わないと決心したその朝、娘は消えた。有香が消えた原因はもしや自分にあるのか? 罪悪感に苦しむカスミは一人、娘を探し続けるが、何の手がかりも無いまま月日が過ぎ、事件は風化してゆく。しかし4年後、元刑事の内海が再捜査を申し出る。カスミは一人娘の行方を追い求め事件現場の北海道へと飛ぶ。
「BOOK」データベースより引用

娘の失踪の原因が自身の不倫行動にあるのではないかと思い悩む主人公カスミ。女と母親の間で揺れ動く女性心理が濃密に、そしてリアルに描かれている。
桐野夏生作品の特徴とも言えるかもしれない、女性の奔放な思考回路は本作でも健在。読者の中には共感を得難いと感じる方も多いだろう。
また前半の娘が失踪するまでのストーリーは、元刑事が操作を行うことになる展開も含めて文句なしだが、結末は賛否分かれるものとなっている。この作品はミステリーなのかどうか、是非その目で読んで感じてほしい。


 

・第124回『ビタミンF』/重松清

炭水化物やタンパク質やカルシウムのような小説があるのなら、ひとの心にビタミンのようにはたらく小説があったっていい。そんな思いを込めて、七つの短いストーリーを紡いでいった。Family、Father、Friend、Fight、Fragile、Fortune…〈F〉で始まるさまざまな言葉を、個々の作品のキーワードとして埋め込んでいったつもりだ。そのうえで、けっきょくはFiction、乱暴に意訳するなら「お話」の、その力をぼく(著者)は信じていた。
「BOOK」データベースより引用

2000年に発表された短編集、あらすじにもあるように「F」から始まる言葉が個々の作品のキーワードとなっている。
7つの作品に共通するのは、当時の著者と同年代であろう、40手前の家庭を持つサラリーマンが主人公である事。
会社でもある程度の役職にいる主人公たちが、ある時は妻や子供との関係に悩み、仕事と家庭のバランスをうまく取れず、親の行く末を案じながら、日々を生きていく姿が描かれている。
涙腺崩壊するかどうかは、読者の年代次第だろう。画一的な主人公像は、若者には少し物足りなく感じるかもしれない。


 

・第129回『星々の舟』村山由佳/

禁断の恋に悩む兄妹、他人の男ばかり好きになる末娘、居場所を探す団塊の兄、そして父は戦争の傷を抱いて……心震える家族の物語
「BOOK」データベースより引用

道ならぬ恋に苦しむ兄妹と、家族の物語。
近親相姦や不倫、さらには戦時中の慰安婦と、性にまつわる多くの問題が含まれており、非常に重たいテーマである。
一方作品全体に漂う暗い雰囲気の中にも、何気ない細やかな描写が点在しており、歳を重ねるほどに味わい深さを感じられる作品となっている。
本作品より後、『ダブル・ファンタジー』で決定的となるが、作品の幅が大きく広がっていく。ここが村山由佳の変化点と言えるだろう。


 

・第130回『後巷説百物語』/京極夏彦

文明開化の音がする明治十年。一等巡査の矢作剣之進らは、ある島の珍奇な伝説の真偽を確かめるべく、東京のはずれに庵を結ぶ隠居老人を訪ねることにした。一白翁と名のるこの老人、若い頃怪異譚を求めて諸国を巡ったほどの不思議話好き。奇妙な体験談を随分と沢山持っていた。翁は静かに、そしてゆっくりと、今は亡き者どもの話を語り始める。
「BOOK」データベースより引用

時代怪奇小説ともいうべき内容であり、「巷説百物語」「続巷説百物語』」に続く、『巷説百物語シリーズ』の第3作に当たる。
江戸時代を舞台に悪党又市と山岡百介を中心に描いた前2作品とは異なり、本作品は明治時代に時を移し、老人となった山岡百介が一白翁と名乗り過去を回想していく。
妖怪や超常現象の仕業になぞらえることが特徴であるが、このジャンルは著者の右に出る者はいないだろう。怪しく不気味な雰囲気を状況描写とセリフによって巧みに演出している。
本作は前2作を読んでいれば尚楽しめるが、単体としても上記特徴を兼ね備えた短編集として読むことが出来る。


 

・第131回『空中ブランコ』/奥田英朗

伊良部総合病院地下の神経科には、跳べなくなったサーカスの空中ブランコ乗り、尖端恐怖症のやくざなど、今日も悩める患者たちが訪れる。だが色白でデブの担当医・伊良部一郎には妙な性癖が…。この男、泣く子も黙るトンデモ精神科医か、はたまた病める者は癒やされる名医か!?直木賞受賞、絶好調の大人気シリーズ第2弾。
「BOOK」データベースより引用

精神科医伊良部一郎と、心の病に悩まされる患者との触れ合いを描いた小説。
センシティブな題材であり中には深刻な症状も含まれるが、伊良部一郎のキャラクターや文体から全体としてコミカルな印象が伝わってくる。
笑いを誘う伊良部の言動や患者とのやり取りを通して、最終的には解決に向かう。どこかホッとする読後感を味わえる。
本作品はシリーズ化されており、前作『イン・ザ・プール』に続く2作目である。前作と比べても伊良部のキャラクターがたち、よりエンタメ感の強い作品に仕上がっている。
『町長選挙』と合わせて3部作となっているが、一話完結形式なのでどれから読んでも問題なく楽しめる。


 

・第131回『邂逅の森』/熊谷達也

秋田の貧しい小作農に生まれた富治は、伝統のマタギを生業とし、獣を狩る喜びを知るが、地主の一人娘と恋に落ち、村を追われる。鉱山で働くものの山と狩猟への思いは断ち切れず、再びマタギとして生きる。失われつつある日本の風土を克明に描いて、直木賞、山本周五郎賞を史上初めてダブル受賞した感動巨編。
「BOOK」データベースより引用

大正時代の秋田県阿仁町を舞台に、伝統狩猟を行うマタギの生き様を描いた作品。
古くからの言い伝えや狩猟方法を重視しつつ日々を懸命に生きるマタギの実態や、東北地方の厳しい自然環境がとても丁寧に描かれている。それゆえクマと人間とのせめぎ合いにも必然迫力が生まれ、特に最終章のヌシとの戦いは圧巻の出来。
加えて1人のマタギの人生を追いながら、愛する者への想いが良く表現出来ている。直接的な表現が散見されるものの、それを差し引いてもイクとの出会いからその後のエピソードは心温まる展開。
奥田英朗の『空中ブランコ』と同時受賞。またあらすじにもあるように、直木賞と山本周五郎賞をW受賞した史上初の作品(その後佐藤究も『テスカトリポカ』でW受賞)である。


 

・第132回『対岸の彼女』/角田光代

専業主婦の小夜子は、ベンチャー企業の女社長、葵にスカウトされ、ハウスクリーニングの仕事を始めるが…。結婚する女、しない女、子供を持つ女、持たない女、それだけのことで、なぜ女どうし、わかりあえなくなるんだろう。多様化した現代を生きる女性の、友情と亀裂を描く傑作長編。
「BOOK」データベースより引用

子持ちの専業主婦小夜子と、小夜子の勤め先の社長葵。2人の女性をW主人公に、それぞれ立場の違う女性たちの友情を描いた作品。
上司と部下、独身と既婚、子持ちと子無し、同年代の女性でもバックグラウンドや置かれた状況は様々で、そんな彼女たちの女性心理がとても細やかに描かれている。
厭世的な作風もある著者だが本作品もその気があり、大人になるまでも、そしてなってからも女性同士の付き合いはいかにデリケートで繊細かが分かる。
数多くの著作、そして文学賞受賞歴を持つ著者の中でも良い意味でうまくまとまっており、完成度が高い作品と言える。


 

・第134回『容疑者Xの献身』/東野圭吾

天才数学者でありながら不遇な日日を送っていた高校教師の石神は、一人娘と暮らす隣人の靖子に秘かな想いを寄せていた。彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、二人を救うため完全犯罪を企てる。だが皮肉にも、石神のかつての親友である物理学者の湯川学が、その謎に挑むことになる。ガリレオシリーズ初の長篇、直木賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

東野圭吾を語る上で外すことの出来ない、天才物理学者湯川学を主人公としたガリレオシリーズ。第3作にして初の長編はシリーズ最高傑作の呼び声高い名作である。
犯人がわかってもトリックがわからず、トリックがわかっても最後にあっと驚く仕掛けが待っており、犯人、そしてそれを暴く湯川の卓越した頭脳に驚かされる。
それだけでなく、この作品を名作たらしめているのが心を揺さぶってくる加害者心理である。犯行の裏に隠された感情が暴かれる様は悲しく、そして切なく、読む者の胸を打つ。


 

・第135回『まほろ駅前多田便利軒』/三浦しをん

まほろ市は東京のはずれに位置する都南西部最大の町。駅前で便利屋を営む多田啓介のもとに高校時代の同級生・行天春彦がころがりこんだ。ペットあずかりに塾の送迎、納屋の整理etc.―ありふれた依頼のはずがこのコンビにかかると何故かきな臭い状況に。多田・行天の魅力全開の第135回直木賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

架空の都市まほろ市で便利屋を営む多田と、十数年ぶりに再開した中学時代の友人行天の2人が、便利屋に舞い込む依頼を解決していく。
変人と言われる仰天は勿論の事、主人公の多田もなかなかな曲者ぶりであるが、彼ら2人の人物描写を丁寧に行うことで、彼らの取り組む事件の特異性や非日常感もすんなりと入ってくる。
続編『まほろ駅前番外地』『まほろ駅前狂騒曲』が発表されている。瞬く間に人気シリーズとなり、続編では行天の過去にも触れている。


 

・第135回『風に舞い上がるビニールシート』/森絵都

才能豊かなパティシエの気まぐれに奔走させられたり、犬のボランティアのために水商売のバイトをしたり、難民を保護し支援する国連機関で夫婦の愛のあり方に苦しんだり…。自分だけの価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きる人々を描いた6編。あたたかくて力強い、第135回直木賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

三浦しをんの『まほろ駅前多田便利軒』と同時受賞。
人生で大切だと感じるもの」をテーマに、お金でない大事な何かのために奮闘する人々の姿を描いた短編集
しっかりと人物設定が掘り下げられており、心理描写も短編らしく過不足が無い分量。それでいて作品のテーマは一貫していてブレることもなく、さすが直木賞受賞作品なだけあって、6編それぞれが短編とは思えないくらいのクオリティとなっている。
また古典文学や難民問題、仏像修復など特殊な職業・題材を扱っているのもポイント。ニッチな領域でもしっかりと下調べが出来ており、作者の力量が伺える作品である。


 

・第140回『悼む人』/天童荒太

不慮の死を遂げた人々を“悼む”ため、全国を放浪する坂築静人。静人の行為に疑問を抱き、彼の身辺を調べ始める雑誌記者・蒔野。末期がんに冒された静人の母・巡子。そして、自らが手にかけた夫の亡霊に取りつかれた女・倖世。静人と彼を巡る人々が織りなす生と死、愛と僧しみ、罪と許しのドラマ。第140回直木賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

事故などで亡くなった人たちを”悼む“ために全国を旅する男性の物語。
偽善や自己満足なのか?その行動の裏には後ろめたいことがある故なのか、作中の雑誌記者のようにたいていの人はそう思うだろう。
そして読み終わった後に「悼む」という言葉の意味を正確に理解できていなかった自分を恥じる人もいるだろう。
命の尊さを教えられる、自身の人生を問われるような作品。


 

・第145回『下町ロケット』/池井戸潤

研究者の道をあきらめ、家業の町工場・佃製作所を継いだ佃航平は、製品開発で業績を伸ばしていた。そんなある日、商売敵の大手メーカーから理不尽な特許侵害で訴えられる。圧倒的な形勢不利の中で取引先を失い、資金繰りに窮する佃製作所。創業以来のピンチに、国産ロケットを開発する巨大企業・帝国重工が、佃製作所が有するある部品の特許技術に食指を伸ばしてきた。特許を売れば窮地を脱することができる。だが、その技術には、佃の夢が詰まっていた―。
「BOOK」データベースより引用

ヒットメーカー池井戸潤の代表作の一つ。かつて宇宙科学開発機構の研究員だった佃航平が、実家の町工場佃製作所の社長となり、経営に苦しみながらも宇宙への夢を追い求める物語。
佃製作所は下町の中小企業ではあるものの、決して引けを取らない技術力を武器に大企業と渡り合う。
池井戸作品ならではの勧善懲悪っぷりは変わらず。ただ気分爽快な読後感に加えて本作品では仕事に対する誇りが文章からひしひしと伝わってくる。


 

・第146回『蜩ノ記』/葉室麟

豊後羽根藩の檀野庄三郎は不始末を犯し、家老により、切腹と引き替えに向山村に幽閉中の元郡奉行戸田秋谷の元へ遣わされる。秋谷は七年前、前藩主の側室との密通の廉で家譜編纂と十年後の切腹を命じられていた。編纂補助と監視、密通事件の真相探求が課された庄三郎。だが、秋谷の清廉さに触るうち、無実を信じるようになり…。凛烈たる覚悟と矜持を描く感涙の時代小説!
「BOOK」データベースより引用

2009年から4年連続で候補に上がるも受賞ならず、5度目の正直で受賞となったのがこの『蜩ノ記』である。
江戸時代後期の九州地方にある架空の羽根藩を舞台に、ある騒ぎを起こした主人公が僻地での囚人環視を命じられるが、その囚人と触れ合う中で次第に無実を確信するようになる。
自らの運命を静かに受け入れ、武士としての生き様を全うする彼らには、ひたすらに読者の胸を打つ。
著者の小説家デビューは地方紙の記者などを経て50歳を過ぎてからであるが、直木賞選票にあるように若い作家ではこうはいかないだろう。年月を生きた者にしか書けない味わい深さを感じられる作品。


 

・第147回『鍵のない夢を見る』/辻村深月

第147回直木賞受賞作! !わたしたちの心にさしこむ影と、ひと筋の希望の光を描く傑作短編集。5編収録。
「BOOK」データベースより引用

辻村作品といえば青春要素多めのファンタジー作品、という先入観を排除して読んだ方が良い作品である。
どこにでもいるような女性が、とあるきっかけから起こしてしまった窃盗や放火といった犯罪を扱った短編集であり、これまでの作品とは一線を画す内容・テーマとなっている。
女性心理を掘り下げ、人間の弱さや闇を前面に押し出す描写に後味の良さは感じられない。実際の事件を彷彿とさせる内容も期待している内容とは程遠い。
この作品が直木賞を獲得している理由、それは選考委員のコメントを読むのが一番であろう。


 

・第148回『何者』/朝井リョウ

就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから―。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて…。
「BOOK」データベースより引用

平成生まれを代表する作家朝井リョウの直木賞受賞作は、大学生たちの就職活動を通して今時の若者のリアルを描いた群像劇。
現代では必須のコミュニケーションツールとなったSNSの投稿が物語の合間合間に挟まり、また作品冒頭にある人物紹介もSNSのプロフィール調になっているなど、随所に工夫が見られる。
作品の大部分がセリフとSNSの投稿で占められており非常に読みやすい。
人間が心のうちに秘めている腹黒さのようなものをしっかりと表現しているため決して読後感は良いとは言えないが、終盤の登場人物たちによる会話の応酬は迫力も十分。


 

・第151回『破門』/黒川博行

「わしのケジメは金や。あの爺には金で始末をつけさせる」映画製作への出資金を持ち逃げされた、ヤクザの桑原と建設コンサルタントの二宮。失踪したプロデューサーを追い、桑原は邪魔なゴロツキを病院送りにするが、なんと相手は本家筋の構成員だった。禁忌を犯した桑原は、組同士の込みあいとなった修羅場で、生き残りを賭けた大勝負に出るが―。
「BOOK」データベースより引用

大阪のヤクザ桑原と建設コンサルタント二宮、極道と堅気の凸凹コンビが繰り広げるハードボイルド小説『厄病神シリーズ』の5作目にあたる。
シリーズの特徴は暴力と金にまみれた血みどろのアンダーグラウンド性ではあるが、しっかりと経済界の闇をあぶり出しており、そのヤクザぶりとエンタメぶりが人気を博し超人気シリーズとなっている。
また何より桑原・二宮の大阪弁での小気味良いやり取りがコミカルで良いアクセントになっており、どうしてもクセになる。
本作はシリーズの中でも転換点となる作品であり、タイトルに隠された思わぬ展開が2人を待ち受けている。是非1作目から順を追って読んでほしい。


 

・第152回『サラバ!』/西加奈子

僕はこの世界に左足から登場した―。圷歩は、父の海外赴任先であるイランの病院で生を受けた。その後、父母、そして問題児の姉とともに、イラン革命のために帰国を余儀なくされた歩は、大阪での新生活を始める。幼稚園、小学校で周囲にすぐに溶け込めた歩と違って姉は「ご神木」と呼ばれ、孤立を深めていった。そんな折り、父の新たな赴任先がエジプトに決まる。メイド付きの豪華なマンション住まい。初めてのピラミッド。日本人学校に通うことになった歩は、ある日、ヤコブというエジプト人の少年と出会うことになる。
「BOOK」データベースより引用

父親の海外赴任により幼少期からイラン,日本,そしてエジプトと渡り歩いた主人公の半生を描いた作品。
個性的な家族の影響を強く受けながら人格形成をしていた主人公が、次第に外に意識を向け、様々な人やものと出会いながら波乱に満ちた人生を歩んでいく。
家族や友人との絆を考えさせられる内容でありながら、中盤以降はそれに加えて宗教世界情勢を絡めた重めのテーマが次々と投下されていく。
見所満載の内容に加えて、小気味良いやりとりやテンポの良さ、そして所々で差し込まれる煌めきを放つような描写がアクセントとなり、計750ページと大長編ながらページをめくる手が止まらない、そんな作品である。


 

・第155回『海の見える理髪店』/萩原浩

店主の腕に惚れて、有名俳優や政財界の大物が通いつめたという伝説の理髪店。僕はある想いを胸に、予約をいれて海辺の店を訪れるが…「海の見える理髪店」。独自の美意識を押し付ける画家の母から逃れて十六年。弟に促され実家に戻った私が見た母は…「いつか来た道」。人生に訪れる喪失と向き合い、希望を見出す人々を描く全6編。父と息子、母と娘など、儚く愛おしい家族小説集。
「BOOK」データベースより引用

表題作他5編を収録した、様々な家族の形を描く連作短編集
とにかく表題作「海の見える理髪店」が素晴らしい。海辺に佇む理髪店を若い男が訪ねてくるのだが、淡々とした語り口調で進む物語が終盤転調する。
ストーリー展開から結末が分かっていてもセリフの重みに涙が堪え切れない。心に訴えかけてくる作品である。


 

・第156回『蜜蜂と遠雷』/恩田陸

近年その覇者が音楽界の寵児となる芳ヶ江国際ピアノコンクール。自宅に楽器を持たない少年・風間塵16歳。かつて天才少女としてデビューしながら突然の母の死以来、弾けなくなった栄伝亜夜20歳。楽器店勤務のサラリーマン・高島明石28歳。完璧な技術と音楽性の優勝候補マサル19歳。天才たちによる、競争という名の自らとの闘い。その火蓋が切られた。
「BOOK」データベースより引用

国際的なピアノコンクールを舞台に、若干16歳の少年や天才少女、アラサーのサラリーマンなどの実力者たちの奮闘を描いた群像劇。
ピアニストだけでなく彼らを評価する審査員たちの立場からもストーリーが展開されることで、多角的な視点からピアノコンクールが描写され、奥行きの深い物語となっている。
本作の特徴はなんといっても音楽を文字で表現しきっているところ。
クラシックの知識に疎くても息がつまるような緊張感を覚える迫力のある演奏シーンは圧巻で、取材〜完成までに10年を要したという作者の取材力の高さが伺える。


 

・第159回『ファーストラヴ』/島本理生

父親殺害の容疑で逮捕された女子大生・環菜。アナウンサー志望という経歴も相まって、事件は大きな話題となるが、動機は不明であった。臨床心理士の由紀は、ノンフィクション執筆のため環菜や、その周囲の人々へ取材をする。そのうちに明らかになってきた少女の過去とは。そして裁判は意外な結末を迎える。第159回直木賞受賞作。
「BOOK」データベースより引用

父親を殺害した容疑で逮捕された女子大生の動機を、事件のノンフィクション執筆を依頼された女性臨床心理士が探る、というストーリー。
恋愛小説を主な執筆ジャンルとする著者であるが、本作は難しいテーマを扱った社会派小説であり、幅の広さを感じる。
物語が進むにつれて驚くべきバックグラウンドが明らかになっていき、そこからある社会問題を絡めた事件の真相が見えてくる。
事件の内容は重く悲しいが、サイドストーリーとして主人公の家庭・友人問題がクライマックスでは解決されることになり、事件とは対比的に後味の良いラストを演出している。


 

・第160回『宝島』/真藤順丈

英雄を失った島に、新たな魂が立ち上がる。固い絆で結ばれた三人の幼馴染み、グスク、レイ、ヤマコ。生きるとは走ること、抗うこと、そして想い続けることだった。少年少女は警官になり、教師になり、テロリストになり―同じ夢に向かった。超弩級の才能が放つ、青春と革命の一大叙事詩!!
「BOOK」データベースより引用

戦後の沖縄を舞台に、米軍基地から窃盗を行う「戦果アギヤー」たちの人生を、米軍統治〜日本復帰までの20年余りに渡って描いた作品。
米軍統治時代の過酷な状況の中、必死に日々を生きる沖縄の方々の姿が史実を交えて語られる。
また章ごとに1人称を変え、行方不明となった戦果アギヤー”オンちゃん”を探す幼馴染3人の視点から物語を語る事で、思想や背景などが絡み合い結果として物語に厚みを持たせる作品構成となっている。
戦前・戦中と比較して戦後の沖縄はメディアで語られる機会が少ないように感じる。日本復帰から半世紀が経つが、忘れてはいけない出来事がここにもあるという事を世に知らしめてくれる作品。


 

・第165回『テスカトリポカ』佐藤究

メキシコのカルテルに君臨した麻薬密売人のバルミロ・カサソラは、対立組織との抗争の果てにメキシコから逃走し、潜伏先のジャカルタで日本人の臓器ブローカーと出会った。二人は新たな臓器ビジネスを実現させるため日本へと向かう。川崎に生まれ育った天涯孤独の少年・土方コシモはバルミロと出会い、その才能を見出され、知らぬ間に彼らの犯罪に巻きこまれていく――。
「BOOK」データベースより引用

14〜16世紀に栄えたアステカ文明、現代メキシコの裏社会を牛耳る麻薬カルテル、そして東南アジアで蔓延る臓器売買。時代や国が異なるいくつものエピソードが複雑に絡み合いながら、やがて日本を拠点とした犯罪集団にスポットが当たる、壮大な犯罪小説。
一口にクライムサスペンスと言っても数多の小説がある中、これほどまでに宗教歴史を掘り下げた作品があっただろうか。アステカ文明や神話にも詳細に触れており、その不気味さは取材力の賜物だろう。
また登場人物は全員ネジが何本も飛んでいるような危険人物だが、その圧倒的暴力性が本作を支えている。山本周五郎賞とのW受賞も納得の傑作。


 

・第166回『黒牢城』/米澤穂信

本能寺の変より四年前、天正六年の冬。織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の智将・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む。デビュー20周年の集大成。
「BOOK」データベースより引用

ミステリー作家として名高い著者が、歴史小説とミステリーの融合に挑んだ、まさに作家生活20年の集大成とも言える力作。
戦国時代、謀反を起こした織田信長の家臣荒木村重を主人公に、有岡城の戦いの1年余りを描く。
村重を説得しに有岡城へ訪れる黒田官兵衛を幽閉するというところまでは史実でありながら、城で起こる奇怪な出来事を官兵衛が探偵役となり解決していく。歴史小説×ミステリーの見事な融合を果たした作品と言えるだろう。
各章で起こる事件は一旦の解決を見せながら最終章で意外な真犯人が判明するという構成力に加え、官兵衛と村重の議論の応酬は読み応え抜群。
さらに諸説あるとされる荒木村重の謀反の動機にも一定の解釈を示している。彼の将としての苦悩にも触れており、歴史小説としても重厚感がある作品に仕上がっている。


 

・第169回『木挽町のあだ討ち』/永井紗耶子

ある雪の降る夜に芝居小屋のすぐそばで、美しい若衆・菊之助による仇討ちがみごとに成し遂げられた。父親を殺めた下男を斬り、その血まみれの首を高くかかげた快挙はたくさんの人々から賞賛された。二年の後、菊之助の縁者だというひとりの侍が仇討ちの顚末を知りたいと、芝居小屋を訪れるが――。
「BOOK」データベースより引用

『邂逅の森』『テスカトリポカ』に続き、山本周五郎賞とのW受賞を果たした作品。
当時の芝居町であった木挽町、現在も東銀座歌舞伎座を中心にその名残を感じられるが、この地で起きた1人の若武士による仇討ち事件の真相を描く。
事件からしばらくの後、関係者や目撃者の証言という形で語られていくのだが、徐々に仇討ちに隠された真相が明らかになってくる。このミステリ仕立てのストーリーをあえて時代小説でおこなう意味とは何か?
その答えは江戸に住む町人の”“と、芸に携わる者たちの”矜持“ではないだろうか。終盤はこの時代に生きる彼らの良さが詰まった展開となっており、タイトルに隠された意味を知った時には思わず目頭が熱くなる。


 

コメント

タイトルとURLをコピーしました